池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)
頭の天辺から足の先まで、全ての臓器、組織の機能は、循環する血液によって保たれています。この血液循環は心臓の働きによりますが、心臓から血管(動脈)に拍出される血液が血管の壁に圧力を与えます。これが「血圧」です。
血圧の評価は、低いか、普通か、高いかの3通りになりますが、気になるのはやはり高い血圧(高血圧)です。現在、わが国の高血患者は中高年者を中心に3,400万人の上ると推定されています。
Hさん(男性、52歳)も、この中の1人です。
Hさんの出身地は秋田県です。Hさんの仕事は、酒屋さんを土台にしたコンビニ店の経営です。
Hさんの祖父が脳出血で亡くなったのが、ちょうど今のHさんと同じ年齢の時でした。子供の頃、かわいがってもらった祖父の口癖は「読み、書き、そろばんに精を出せ」でした。Hさんは、この言葉が血圧管理にも通じていると思っています。
2年前に高血圧症と診断されたHさんにとっては、祖父が亡くなったのと同じ年齢を迎えたいま、祖父の轍を踏まないためにはどうすればよいのかと考え、本格的に取り組んでいる昨今です。いま自宅には血圧計が備えられています。
血圧管理に際して大事なのはもちろん、血圧値の読み方です。そして、同じ血圧であっても自覚症状との兼合いや、他の病気(異常)の有無との関係もしっかり読むというのがポイントになります。
医師に計ってもらった血圧で、上が140mmHg以上、下が90mmHg以上(ともに、あるいは、いずれか)は高血圧と判定されます。正常血圧は130/85mmHg未満、さらに至適血圧は120/80mmHg未満です。そして、同じ高血圧でも160/100mmHg以上は中等度高血圧、その上の180/110mmHgは重症高血圧と判定されます。
ここで注意しなければならないのは、同じ程度の高血圧であった場合でも、めまいや肩こり、動悸や頭痛などがみられれば、より積極的な治療が必要になるほか、たとえこのような自覚症状がなくても、糖尿病が合併している場合と、心臓や脳に動脈硬化の所見が出ている場合は、さらに厳格な治療を必要となることです。
このようにして診断される高血圧ですが、いずれの場合も目標とする血圧値は130/85mmHg未満です。これを達成しておくことで、高血圧がもたらす怖さである脳卒中や心筋梗塞を防げるということなのです。
なお血圧は刻一刻と変化しています。ちょっとした緊張でも20、30と血圧は上昇してしまいます。そこで大事なのが血圧の変化を自分でみていく家庭血圧測定だということになります。

Hさんが真剣に取り組んでいるのは、測定した血圧値を血圧管理ノートに書き込むことです。主治医からの強いアドバイスは「ただ計るだけでは駄目ですよ。計った数値を必ずノートに記録し、これを棒線で繋いでグラフ化して、自分で自分の血圧を評価して下さい」でした。
2年前、Hさんが今の店を立ち上げた頃、時々軽いめまいと肩こりが感じられました。心配になり血圧を計ってもらうと、170/110mmHgと明らかな高血圧症で、即治療を開始したという経緯がありました。以後当初は1種類、現在は2種類の降圧薬を服用して、家庭血圧で130/80mmHg前後を維持しています。記録ノートはすでに4冊になりました。
Hさんの場合、決して気が弱いわけではないのですが、診察に出向いて先生に測ってもらうと、家庭血圧よりも必ず高く出てしまい、先生からは「白衣性高血圧」の典型例だといわれています。このため、先生にとってもHさんの記録ノートは必須の情報源なのです。
血圧値をノートに書き込む。このことによって得られるメリットは、(1)主治医が治療判断を的確にしてくれる、(2)朝夕の血圧値で体調が分かる、(3)飲んでる薬の効果が自覚出来る、(4)食事や運動、休養などについて家人もよく気を配ってくれる、(5)計った血圧値で日々の行動がコントロールできる、などにまとめられます。
Hさんは、脳出血で早世された祖父の生活ぶりを時々思い起こします。夏場は米作り、秋から冬にかけては炭焼きや藁細工に精を出し、村会議員としても先頭に立って地元の人々を引っ張るという頑張り屋でした。そしてその暮らし振りは、紫煙を絶やすことなく、一升酒も辞さないというものでした。当然、食生活では塩分も目一杯に摂っていました。
高血圧症と診断されてHさんが思ったことは、「読み」、「書き」に加えて「そろばん」でした。つまり、「悪しき生活習慣のリセット―ご破算で願います」ということです。これが意味するのは、血圧管理で欠かせないのは適正な日々の生活習慣だということです。
Hさんが、ご破算にした第1は喫煙です。
第2は塩分過多の食事を改めた点です。これを行なう上で有用だったのは、奥様による「塩分計」の活用でした。これによって1日の塩分摂取量を10g以下に抑えたのは立派でした。
第3は飲酒量です。現在は飲んでも日本酒2合を超えない範囲をキープしています。
第4は肥満対策です。肥満大敵ということで食事を腹8分目にし、週に3日は2万歩以上の歩行運動を行い、20代の1割増以内に体重を維持しています。
以上が、Hさんの「読み、書き、そろばんによる血圧管理」のサクセスストーリーです。
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