セルフメディケーションを実践のための200テーマ

池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)

2. 動いて、食べて、快眠管理

 私たちの身体の機能は、昼間の活動時と夜間の睡眠時におけるバランスのもとで良い状態(健康)を維持出来るようになっています。このバランスの崩れた状態は不健康感をもたらし、様々な病気をも誘導する結果となります。一夜、睡眠が不良だったとしますと、それによる身体への影響を回復させるためには想像以上に多くの時間が必要とされ、古く「一夜不宿、十夜不足」とされています。

 最近、企業等での健康管理に際しても「心の健康」が重視され、過重労働による肉体疲労の蓄積が強いストレッサーとなって睡眠不足を招き、仕事の能率を妨げるばかりでなく精神面での不安感を高め、ついには脳や心臓の器質的疾患を引き起こすという図式も示されている程です。

動いて眠る

 人の生涯における睡眠の仕方は、「多相性睡眠」から成人では「単相性睡眠」へ、そして高齢になると再び多相性睡眠の傾向になるとされています。多相性睡眠とは一日に眠っている時間帯と起きている時間帯が何回もくり返される様式で、その典型例は乳児期にみられます。即ち乳飲み子の一日はお乳を飲んで手足を動かし、その間に排泄をするという起きている時間と眼球をキョロキョロさせながら眠っている時間を数回以上くり返しているのが常です。

 しかしその後、発育するにつれて単相性睡眠へと移行していきます。ここでは、寝ている時間と起きている時間がはっきりと区別されるようになり、起きている時間帯における身体活動と寝ている時間帯の休息期とが絶妙なバランスをとるようになります。このバランスの崩れによる睡眠障害は、高齢者を特徴づける現象の1つに数えられます。

 E婦人(76歳)は、入眠はするものの深い睡眠が得られず何回となく目を覚ましつつ朝を迎え、日中は食後も含めて数時間にわたってまどろんでしまうという生活に悩まされていました。この悩みをかかりつけ医に相談したところ、そのアドバイスは「日中身体をよく動かすこと、そして朝の目覚めの後には短時間でもよいから太陽の光を浴びて目覚めを確実にすること、そして眠気を覚えたらともかく外へ出て5分でも10分でも歩いてみること」というものでした。これはE婦人が治療を受けている高血圧の管理にも有効であったほか、日中動いて過ごすことで、しっかりとした単相性睡眠を得ることができ、夜間の覚醒頻度も少なくできることが実体験されたということでした。

食べて眠る

 一方、一夜の眠りは、ほぼ90分間隔で現れる2つの種類によっていることも明らかにされています。睡眠は寝入りばなに最も深くなります。この最初の睡眠はノンレム睡眠と呼ばれ「脳の眠り」だとされています。

 次いで、ごく短時間のレム睡眠が現れます。脳波でみる睡眠のレベルは、ノンレム睡眠に比較して極めて浅く夢をよくみる状態で、ある程度の精神活動もなされています。しかし、特徴的なのは筋肉の緊張が高度に低下し、まさしく「身体の眠り」になっているという点です。

 すでに述べましたように、ノンレム睡眠とレム睡眠はワンセットで90分、これを一夜に4〜5回くり返して朝を迎えることになります。目覚める直前の睡眠状態はレム睡眠で、この時、自律神経の機能が不安定状態を示し、脈拍や呼吸が早く、あるいは不規則になるなどのほか、男性では陰茎勃起が観察されます。

 このような睡眠パターンを誘導してくれる要素として重要なのが、食物由来の睡眠物質です。

 会社を経営するDさん(56歳)の悩みは寝つきの悪さ、すなわち入眠障害でした。これを克服する手段としてDさんが工夫したのは寝酒ではなく、温めた牛乳を噛んで食べるが如くに100mlほど就寝前に摂取するというやり方でした。

 これが有効なのは、乳成分には睡眠をもたらす脳内成分であるメラトニンの原材料になるトリプトファンというアミノ酸がたっぷり含まれていることによります。このことを頭で理解し、このような就眠のための儀式を確実に行なう中で、気持ちのよい入眠が得られるという暗示が、入眠最初のノンレム睡眠をより深いものに導いてくれているということで、これも快眠管理のよい事例です。

快眠に役立つその他の工夫

 世の中で起こっている様々な事故の原因の大半は、人為的なものだといってもよいでしょう。人為的というのはわかりやすくいえば、不注意の一言につきます。この不注意は最初にも述べた疲労の蓄積と睡眠不足が大きな要因となっています。昨今の病医院では、そこで起こる人為的なミスを「ひやり、はっと」としています。この種の人為的なミスを最小限にするためにも、快眠管理こそが欠かせません。そこで、動く、食べるに加えて快眠のための工夫をいくつか取り上げてみます。

 その第1は、硬めの寝床と適正な枕の使用です。枕は大きめなものとし、高さと硬さに留意します。第2は寝間着の選択です。素肌に木綿が最適だということと、パジャマの場合で見過ごされがちなながゴムひもによる締め付けです。下着をつけたまま休まれる時も、ゴムひもによる腹部の緊迫状態での就眠は腰痛や便秘など様々な障害を生み出す恐れがありますので要注意です。

 快眠のための環境作りとしては、五感を刺激して不快感を生じさせるものを避けるのは当然のことですが、これを逆手にとって五感に心地よい刺激を与えてくれる音や香りや色の活用もお薦めです。

 最後に、65歳以上の方々には「贅沢な快眠」の仕方をお伝え致します。それは医師の処方になる睡眠剤の上手な利用です。この贅沢な快眠で得られる上質の休養効果こそは、日中の心身の活動を一層高めてくれるという悦楽をもたらしてくれます。

2005年08月 掲載
■テーマ
1. 読み、書き、そろばん〜血圧管理
2. 動いて、食べて、快眠管理
3. 「たばこ病」からの解放を目指して
4. 肥満の克服
5. 胃食道逆流症(GERD)
6. 脳卒中の予防
7. 長い道のりの糖尿病
8. 死の四重奏
9. 「6、7、8」で痛風予防
10. 男の更年期-原因と対策-
11. お口の健康・歯周病のセルフケア
12. 水虫を治す基本を知る
13. 骨粗鬆症? いつの間にか背たけが3センチ縮んだ!?
14. 快便維持のためのお通じ対策
15. “NASH”新しいタイプの肝障害
16. 「飲酒病」からの脱却と糖尿病
17. セルフメディケーション時代の血糖自己測定(SMBG)
18. 糖尿病予備群、軽症糖尿病にも有用なSMUG(尿糖自己測定)