セルフメディケーションを実践のための200テーマ

池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)

4. 肥満の克服

3カ月で4?の減量体験

 成人病が生活習慣病と呼び変えられてから、中高年者の多くがかかりやすいい疾患への対応も大きく変わってきています。成人病時代に叫ばれていた「早期発見、早期治療」は、今では「生活習慣の改善をはかって病気を予防する」というコンセプトへと推移しています。こういう流れの中で、数多い生活習慣病の中でも3大死因であるがん、脳卒中、心臓病の源流に位置づけられる肥満への対策に多くの関心が集まっています。

 平成14年に行なわれた厚生労働省による「国民栄養調査」は、日本人の20歳代以上の男性が年々肥満傾向を強めていることを明らかにしています。ここではなんと中高年男性では3人に1人が肥満、一方、女性では50代後半からの肥満が目立ち、やはり3人に1人が肥満と判定されています。

肥満をどう捉えるのか

 公務員として税務関係に携わっているFさん(52歳)は、30代後半から少しずつ太ってきて、この2、3年は健康診断のたびに親ゆずりの高血圧に対する注意と、この血圧コントロールのための減量を強く勧められています。

 Fさんは身長170cmで、20代前半の体重は66?でした。それが徐々に増えて、昨年春のチェックでは80kgと最高体重に至っています。Fさんの血圧は、勤務先に設置されている自動血圧計で150/90mmHg前後。健康管理医からは、これを135/85mmHg程度に下げるよう、まずは減量を指示されました。

 Fさんは朝の通勤に1時間半を要するなどもあって、しっかりした朝食を摂ることはほとんどありませんでした。昼食は手軽な麺類で済ませることが多く、主たる食事はビール、日本酒とともに摂る夕食中心で、週の半分以上は9時以降にたらふく食べていたようです。

 Fさんの場合を例に「肥満はどう捉えるのか」をまとめて見ましょう。1つは身長と体重の数値を用いて体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)によってBMI(体格指数)を算出する方法です。これで25以上は肥満と判定します。この計算からするとFさんの20代における66?は23に、そして80kgは28ということになります。

 もう1つ、肥満はただ体重が多いということではなく体脂肪量が過剰に蓄積した状態だという定義に基づきます。ですから体脂肪量そのものの把握も欠かせません。これには、バイオインピーダンスの原理を応用した体脂肪計によるのが簡便です。Fさんの体脂肪計による体脂肪率は32%と男性の肥満域の上限である25%を超えています。

 このところ体脂肪についてはその蓄積部位が注目され、特に内臓脂肪型肥満による健康障害が注目されています。これを捉えるための情報の1つは、臍部の高さで測定した腹囲です。そしてもう1つは腹部のCT検査で、お腹を輪切りにした状態で計測出来る内臓脂肪面積です。Fさんは、前者が92cm、後者は140cm2でいずれも正常範囲の上限である85cmと100cm2を超えていて、健康障害を伴いやすい内臓脂肪型肥満であることが判明しています。

肥るとからだに何が起こるのか

 体脂肪量の増加が肥満の本態だということからしますと、肥満では体脂肪を構成している脂肪細胞の数の増加や、1つひとつの脂肪細胞の肥大化が問題になります。Fさんのような内臓脂肪型肥満では腹腔内の脂肪組織の絶対量が増えているわけですが、この状態での脂肪細胞は高度の肥大化に至っているのが通例です。

 肥大化した脂肪細胞からは遊離脂肪酸が大量に産生され、これが脂肪肝や高中性脂肪血症の原因になります。また、種々のホルモンやサイトカインの分泌状態にも大きな変化が生じ、血圧を上げる作用のあるアンギオテンシノーゲンやレプチンが過剰に産生されます。また糖尿病の発症に関与するTNF‐αやレジスチンの産生も亢進します。

 さらに動脈硬化を促す因子の1つであるPAI-1も過剰分泌されるようになります。このような産生増加がみられる成分の動きとは反対に、インスリンの効き目をよくしたり、動脈硬化を抑えたりする働きをもつアディポネクチンは、その産生を顕著に低下させるようになります。

 このように肥満、特に内臓脂肪型肥満では肥満を構成する脂肪細胞の機能に大きな変化が生じ、これが高血圧、糖尿病、高脂血症など動脈硬化を発症させる危険因子としての疾患の発症を誘導するほか、男性では肝臓、大腸、前立腺などのがんを、女性では乳がんや子宮体部がんなどの発症にも影響する可能性も言われています。

減量への挑戦―Fさんの体験

 Fさんが肥満の克服を思い立ち実際に減量作戦を開始したのは、昨年の秋からでした。そのキッカケは、同じように肥満だった同僚の急逝でした。死因は急性心筋梗塞で、その背後には軽症の糖尿病があったということでした。高血圧家系をもつFさんの頭をよぎったのは祖父母が罹患した脳卒中のことでした。まさに明日は我が身という思いを強くした中で、減量作戦をスタートさせたというわけです。

 Fさんが実行したことは、次の3点です。

 第1は体重、体脂肪、内臓脂肪を同時にチェックできるインナースキャン(K.K.タニタ発売)のデータを毎日記録していくことでした。特に、体重については100g単位での変化を克明にグラフ化し、右肩下がりを目標としました。

 第2は「口で食べずに頭で食べる」という食生活改革でした。その中味は3カ月間を目途に、禁酒夕食の絶対量の大幅制限と起床を1時間早めにしての朝食摂取の励行でした。

 そして第3に行なったのは、筋力トレーニングを中心にした運動の導入で、早起きした朝の時間で、10分を体操に、さらに10分をブルワーカー(日本メールオーダー社)による筋肉組織の活性化に当てたということです。

 気持ちを総入れ替えをしての、このような踏ん張りで3か月で4kgの減量を果たし、76kgの体重を得ることに成功したのは快挙でした。いまFさんはリバウンド(体重がもとに戻ること)をさせないという信念のもと、最終目標は20代前半の1割増しギリギリの73kg(BMI25)までを視野においての日々を送っています。

2005年10月 掲載
■テーマ
1. 読み、書き、そろばん〜血圧管理
2. 動いて、食べて、快眠管理
3. 「たばこ病」からの解放を目指して
4. 肥満の克服
5. 胃食道逆流症(GERD)
6. 脳卒中の予防
7. 長い道のりの糖尿病
8. 死の四重奏
9. 「6、7、8」で痛風予防
10. 男の更年期-原因と対策-
11. お口の健康・歯周病のセルフケア
12. 水虫を治す基本を知る
13. 骨粗鬆症? いつの間にか背たけが3センチ縮んだ!?
14. 快便維持のためのお通じ対策
15. “NASH”新しいタイプの肝障害
16. 「飲酒病」からの脱却と糖尿病
17. セルフメディケーション時代の血糖自己測定(SMBG)
18. 糖尿病予備群、軽症糖尿病にも有用なSMUG(尿糖自己測定)