セルフメディケーションを実践のための200テーマ

池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)

6. 脳卒中の予防

血圧管理だけではダメですよ

 脳卒中の主流は脳梗塞です。これは「脳内の動脈硬化によるもの」(脳血栓症)と、「心臓に原因があってそこで作られた血栓が脳内の動脈を詰まらせることによるもの」(脳塞栓症)とに分けられます。
 そして脳内の動脈硬化による脳梗塞(脳血栓症)は、細い動脈が詰まってくる「ラクナ梗塞」と、太い動脈の硬化による「アテローム血栓性梗塞」に分けられます。

 いずれにしても脳の各部位は「見る、聞く、話す、身体を動かす」などの様々な機能を行う中枢ですので、原因は何であれ、脳血管障害が起これば半身不随をはじめ言語障害、聴音障害など様々な後遺症に苦しむことになります。その結果、要介護とされている方々の筆頭が脳卒中後遺症で、その数は130万人に達しています。

 有名人の脳卒中者も枚挙にいとまがないほどです。映画監督の大島渚さん、野球の長嶋茂雄さん、そして渋さとダンディーが売り物だった俳優の根上淳さん(故人)も、今、それぞれ奥様らの手厚い介護のもとでリハビリに励まれています。昨年11月の「婦人公論」には、根上淳さんの妻ペギー葉山さんの手記が載っています。その出だしは「私達二人は、いつまでもピカピカでいられると思っていたんです。だから、ずーと頼りにしてきた夫が倒れてしばらくは“かっこよかった彼はいなくなっちゃったんだ”と辛くてね…」と、夫が脳梗塞に至った背景と現状をつぶさに語られています。

久山町研究でわかったこと

  「久山町研究」とは、日本人の脳卒中の解明を目的として行われている、九州大学と久山町による疫学研究です。福岡市に隣接した福岡県糟屋郡久山町では、昭和36年(1961)から40歳以上の全住民を対象に健康診断を実施し、この方々を毎年追跡調査しながら、病気になった方、亡くなられた方について詳細な解析が続けられています。この研究での最大の特徴は、住民が亡くなられた場合には、病理解剖を行って死因の究明をしていることにあります。

 脳卒中の実態解明については当初の10年間でほぼ結論が出され、脳卒中の大部分は脳梗塞によっていること、その最も大きな要因は高血圧であること、そして血圧コントロールを徹底した結果、脳卒中は有意に減少したという成績を得ています。しかし昭和60年代に入ると、高血圧管理をしているのにもかかわらず脳卒中が減らなくなってきた、という事実がみられるようになりました。その理由が追求され、わかったことは、糖尿病の増加でした。なんと40歳以上の住民の1割に糖尿病がみつかるようになっていたのです。先に紹介した大島渚さんも、根上淳さんも永年の糖尿病歴があり、これに飲酒、喫煙、多忙な仕事とストレスが絡んでの脳卒中だったのです。

 コンビニを経営するAさん(56歳、男性)も、御多分にもれず肥満、糖尿気味で血圧が高く、主治医からは高血圧の薬をもらっています。Aさんはこの先予測される重大な病気(脳卒中、心筋梗塞など)を予防したいと、とりあえずは健康食品のいくつかを試されているということです。

食生活で防ぐ脳卒中

 脳卒中、特に主流になっている脳梗塞の予防は決して一朝一夕ではなし得ません。当然のことながらAさんが肥満、糖尿気味で高血圧中心の治療を受けているということですが、実はそれだけではダメなのです。大事なのは、たとえ軽くても肥満と糖尿病についてもしっかりとしたチェックと管理が欠かせないということです。

 これらをクリアしつつ日々の生活における栄養、運動、休養、そして飲酒、喫煙にどんな問題があるのかを洗いざらいにし、適正なライフスタイルの基本である「一無(禁煙)、二少(少食、少酒)、三多(多動、多休、多接)」を実行することです。

 この中で「少食」で表されている食生活に関しての留意点は、BMI(体重kg÷身長m÷身長m)を25以下に保てるような腹七〜八分目の食事量と、この範囲で獣肉由来の油脂を摂り過ぎないこと。主食はできるだけ未精白なもの(5分搗き、7分搗き、玄米、胚芽米など)で摂ること。食物繊維が豊富な野菜、海藻、きのこ類を可能な限り豊富に摂ること。食物繊維が豊富な食品は、結果的に動脈硬化の進展を押さえてくれるように作用します。すなわち、抗酸化性食品の多くはこれに含まれているということです。いたずらに健康食品に頼るのはいかがなものでしょうか。

脳卒中予防の10カ条

 脳卒中は「死の四重奏」の重大な結果の1つです。「死の四重奏」とは、肥満(内臓脂肪型肥満)、高血圧、糖尿病、高脂血症が、1つよりも2つ、2つよりも3つと重なり合いが多くなればなるほど動脈硬化が促進して、脳卒中や心筋梗塞を引き起こしてしまうことを意味している用語です。これらの個々の病態には、遺伝的な素因とともに日々の生活習慣が大きく作用します。そこで、「日本生活習慣病予防協会」は先に述べた「一無、二少、三多」を「死の四重奏」予防のためのスローガンとして掲げています。

 一方、脳卒中に関する正しい知識の普及と脳卒中の発症予防を目的に設立されている「日本脳卒中協会」は以下のような10カ条を掲げています。この10カ条をセルフメディケーションを目指すAさんにお贈り致します。

<脳卒中予防の10カ条>
1. 手始めに高血圧から治しましょう
2. 糖尿病、放っておいたら悔い残る
3. 不整脈、見つかり次第すぐ受診
4. 予防にはタバコを止める意志を持て
5. アルコール控えめ、薬は過ぎれば毒
6. 高すぎるコレステロールも見逃すな
7. お食事の塩分・脂肪は控えめに
8. 体力に合った運動を続けよう
9. 万病の引き金となる太りすぎ
10. 脳卒中、起きたらすぐ病院へ

2005年12月 掲載
■テーマ
1. 読み、書き、そろばん〜血圧管理
2. 動いて、食べて、快眠管理
3. 「たばこ病」からの解放を目指して
4. 肥満の克服
5. 胃食道逆流症(GERD)
6. 脳卒中の予防
7. 長い道のりの糖尿病
8. 死の四重奏
9. 「6、7、8」で痛風予防
10. 男の更年期-原因と対策-
11. お口の健康・歯周病のセルフケア
12. 水虫を治す基本を知る
13. 骨粗鬆症? いつの間にか背たけが3センチ縮んだ!?
14. 快便維持のためのお通じ対策
15. “NASH”新しいタイプの肝障害
16. 「飲酒病」からの脱却と糖尿病
17. セルフメディケーション時代の血糖自己測定(SMBG)
18. 糖尿病予備群、軽症糖尿病にも有用なSMUG(尿糖自己測定)