セルフメディケーションを実践のための200テーマ

池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)

7. 長い道のりの糖尿病

食事・運動療法からインスリン注射まで

 世界中で糖尿病患者が増えています。わが国もその例にもれることなく、平成14年に行なわれた糖尿病実態調査では、「糖尿病の可能性を否定出来ない人(予備軍)」は880万人、「糖尿病が強く疑われる人(糖尿病)」は約740万人と、5年前に比較してそれぞれ200万人、50万人、併せて250万人の増加となっています。このように、予備軍も含めた1620万人の大部分は40歳以上の中高年によって占められています。これは、この世代のおよそ4人に1人が糖尿病か、その予備軍だということを意味します。

 さて、人の一生は「生・老・病・死」として言い表されます。一方、物事は病気も含めて「起承転結」によって理解することが出来ます。糖尿病の場合、「起」は糖尿病体質(遺伝)を意味します。これに日頃の生活習慣(環境)が作用し、糖尿病としての危険度が増してくる、この段階が「承」です。「転」は持続する高血糖によって招かれる種々な病態の変化と、それによる症状が出てくる時期だとして捉えられます。そして「結」は、まさに結果として示される合併症、併発症(動脈硬化)です。

前糖尿病という捉えかた

 さて糖尿病は、その主要なタイプは、2つに区分されます。1つは、小児や若年者に主として発症する1型糖尿病です。一方、増え続けている中高年に多くみられる糖尿病は2型糖尿病として分類されます。2型糖尿病にかかり易い条件を列挙しますと・・・
○血縁者に糖尿病がある(3)
○20代に比較して、体重が10%以上増えている(2)
○血縁者に肥満、高血圧、高脂血症がみられ、脳卒中や心臓病で亡くなっている人がいる(1)
○砂糖や脂肪分を好んで食べる(1)
○車が足代わりの運動不足(1)
○アルコールをよく飲む(1)
○ストレスの多い生活をしている(1)
 この各項目に付けた点数の総計が6点以上は、2型糖尿病を発病する可能性が高い者だとして捉えます。

 Hさんは大手企業の営業マンで47歳です。身長170cm、現在の体重は82kg、大卒時の体重が60kgだったことからみると、およそ3割増しで明らかな肥満に至っています。体重の経過を振り返ってみると、30歳で70kgを超え、その後も年々少しずつ増え続けて今日に至っているということです。この間、健康診断や人間ドッグで指摘されてきたのは、最初は肥りすぎへの注意のみだったのが、40代に入って脂肪肝、高尿酸血症、高中性脂肪血症を指摘されるようになっています。血糖値は3年前から空腹時が100mg/dLを超え、昨年は112mg/dL、そして直近の成績は135mg/dLで「糖尿病が強く疑われます。精密検査を受けて治療を開始して下さい」と言われるに至っています。

 現在、糖尿病の診断は空腹時血糖値126mg/dL、食後あるいは食後2時間、あるいは75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値200mg/dL以上によってなされています。予備軍と呼ばれるのは空腹時血糖が110mg/dL以上、126mg/dL未満、そして糖負荷試験では2時間値が140mg/dL以上、200mg/dL未満を指します。このような状態は、「前糖尿病」あるいは「境界型」と呼ばれています。Hさんは、今まさにこの状態から明らかな糖尿病へと進展しつつあるところです。

高血糖の怖さ

 Hさんの場合、特筆されるのは父方の祖父が糖尿病だったということです。そして、このお祖父さんは50代半ばで心筋梗塞によって亡くなっています。又、視力にも障害があったと聞かされています。このような身内の糖尿病体験からHさんも糖尿病の怖さについては重々知っていたところではありましたが、まさか自分がその糖尿病になるとは、考えてもみませんでした。しかし現実は厳しく、お祖父さんの持っていた糖尿病体質は、お父さんの世代を飛び越えて孫のHさんにもたらされたということです。

 糖尿病は殆どの場合、無自覚、無症状で発病してきます。しかも発病に至る経過は極めて緩慢で、最初に気付かれるのは肥満のみだといっても過言ではありません。肥満は、体脂肪が過剰に蓄積した状態です。この体脂肪の蓄積は、摂取エネルギー量が消費エネルギー量を上回った結果です。特に問題なのは、この体脂肪が皮下脂肪としての蓄積もさることながら、腹腔内に顕著に蓄積されてくることが糖尿病の発症に大きく影響しています。この状態が内臓脂肪型肥満です。

 脂肪組織を構成する脂肪細胞からは、各種のホルモンやサイトカインが分泌されています。糖尿病との関係で注目されているのは、TNFα、レジスチン、遊離脂肪酸の増加です。一方、減少することで糖尿病に影響する因子としてはアデポネクチンと呼ばれるホルモンがあります。アデポネクチンの減少は、インスリンの効き目を低下させ、動脈硬化を促進するように働きます。明らかな高血糖がもたらされて、それが糖尿病に特有な合併症である眼や腎臓や神経の障害を来したり、動脈硬化で心筋梗塞や脳卒中をおこすに至るまでには、長い長い経過がみられます。そして、養生を怠っていると確実に高血糖が進展し、糖尿病の怖さが身体を襲うことになります。

新しいインスリン注射で広がる未来

 前糖尿病の時から注意すべきは、食事の量とバランス、そして運動です。Hさんは今、医師の指導のもと、取りあえず5%の体重減少を目指しています。そのための手段として、昼食を200kcalにして1日500kcalの減食をはかり、目標をクリアしようとしています。
 薬物に頼ることなく血糖コントロールをはかろうとしているHさんですが、これの成否はまだ分かりません。しかし、予測されることはこの先の経過の中で、高血糖を是正するために、内服薬を用いる可能性が出てくるということです。更にその後、加齢に伴ってインスリン分泌が減弱してくるようであれば、その時点からはインスリン注射が必要になります。現在、病歴が20年以上で60代後半から70代で、インスリン注射療法を必要とする人が増えています。しかし、案ずることはありません。このところのインスリン注射療法の進歩は目覚しく、超速効型のインスリン、超持続型のインスリンは、いずれもインスリン注射療法の未来を明るくしてくれています。

2006年01月 掲載
■テーマ
1. 読み、書き、そろばん〜血圧管理
2. 動いて、食べて、快眠管理
3. 「たばこ病」からの解放を目指して
4. 肥満の克服
5. 胃食道逆流症(GERD)
6. 脳卒中の予防
7. 長い道のりの糖尿病
8. 死の四重奏
9. 「6、7、8」で痛風予防
10. 男の更年期-原因と対策-
11. お口の健康・歯周病のセルフケア
12. 水虫を治す基本を知る
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14. 快便維持のためのお通じ対策
15. “NASH”新しいタイプの肝障害
16. 「飲酒病」からの脱却と糖尿病
17. セルフメディケーション時代の血糖自己測定(SMBG)
18. 糖尿病予備群、軽症糖尿病にも有用なSMUG(尿糖自己測定)