セルフメディケーションを実践のための200テーマ

池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)

9. 「6、7、8」で痛風予防

 わずかな空気の動きでも赤く腫れあがった足の親指(特に付け根の部分)に激痛を感ずる中、これで大の男が涙をこぼすというのが「痛風」という病気です。

 昭和34年医学部の3年生の折に聞いた内科学の一連の講義の中で、今なお忘れられないのは痛風のさわりです。その折、講義を担当された先生は「この病気はわが国には極めて稀で、皆が特に勉強する必要はない」と明言され、次の講義へと進んだのでした。

 後になって医学統計を振り返ってみますと、昭和30年代の半ばまでは痛風はまさに希少疾患だったことが分かります。しかしその後、今日まで痛風とその基礎疾患である高尿酸血症は年毎に増加し、今や成人男子の4人に1人が高尿酸血症を呈し「痛風友の会」が出来るほどの増加ぶりです。

あだ花となった痛風発作の自己医療

 典型的な痛風患者像は限りなく男っぽく、そして肥満気味。食生活には驕りがみられ、珍味に目がなく、ビールが好物で、タフさが売り物ということになりましょう。

 今年厄年を迎えているUさんは、これまで既に2回の痛風発作を経験しています。身長178cm、体重86?、肥満の指標であるBMI(体格指数=体重kg÷身長m÷身長m/標準値は22、25以上は肥満)は「27」です。大学時代は野球部で3塁手として活躍し、社会人になってからも32歳までは企業の野球チームの花形だったという球歴を誇っています。

 職場は営業で係長から課長になった38歳の折、最初の痛風発作に見舞われています。既に選手時代から尿酸値は8mg/dLを超えていて、企業内健康管理医からは常々注意を受けていましたが、これを馬耳東風と決め込んでいた結果、きつい発作に苦しむ事態を招いたというわけです。この時、高校時代の同期生で整形外科医の友人に診てもらい、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の投与を受け、3〜4日で痛みも腫れも引けたことで、薬を飲めば簡単に軽快するのだという思いを強く持ち、再びもとの生活に。

 次の発作は40歳の時で夏の暑い日にゴルフをした後、大汗をかき家に帰ってビールを飲んで寝た翌朝のことでした。この時の発作は初回よりも軽かったこともあり診察を受けることもなく、NSAIDs服用という自己医療で再びしのいでしまいました。

 そして今回は、服薬すれど痛みは治まらず、腫れも引けずの状態で、痛む左足を松葉杖で支えての受診となってしまいました。痛風の本態が高尿酸血症にあるということへの理解の不足は、これまでの自己医療(セルフメディケーション)をまさしくあだ花としてしまったUさんでした。

肝腎要はお腹の引き締め

 Uさんの男っぽさは野球の選手として、やり手の営業マンとして遺憾なく発揮されていたところです。体型はガッシリした骨太タイプ。しかし野球を止めた頃からお腹がせり出し、体重もこの数年で8kgの増加となっていました。

 今回の受診で分かったことは、典型的な内臓脂肪型肥満(腹囲98cm)の存在、尿酸値8.8mg/dLという高尿酸血症、加えて血圧もやや高く(140/90mmHg)、超音波検査では脂肪肝もみられるというものでした。

 担当医からのUさんへの生活指導は、痛風発作を防止するためには先ずは尿酸コントロールであること。血液中の尿酸値に関する正しい理解は7mg/dL以上からが高尿酸血症で、8mg/dL以上が続いて痛風発作や高血圧など他の合併症がみられるようであれば食生活や飲酒などへの配慮とともに薬物療法が必要になること、そしてこの際の治療目標は尿酸値を6mg/dL以下に維持するというものでした。即ち求められたことは6、7、8への正しい理解でした。

 食生活のポイントは、過食と早食いをやめて腹八分をまもる。尿酸の元になるプリン体の含有量の多い珍味は少量とする。そして飲酒量の制限が欠かせないというものです。これらを踏まえると今後の痛風発作防止のためには、先ずは現在の体重をこの1,2か月で4?(約5%)ほど減らし、運動を加味してお腹回りを3cm以上引き締めることの重要性が浮き彫りになりました。

主役の薬はアロプリノール

 次いで担当医からは薬物療法の必要性と、その有効性についての説明がありました。

 Uさんが行なったNSDIAsによる自己医療は、確かに痛風発作の際の痛みや腫れに対して有効なことは間違いのないところではあったのですが、これのみでは病気の上っ面をお化粧したに過ぎないのと同じであって、その本態にはなんら迫ることのない緊急避難的な治療法だったということです。

 セルフメディケーションは痛風発作の防止にこそ必要であり、そのためのセルフケアは先ずは肥満の解消、次いで高尿酸血症のコントロールにあるということが理解されねばなりません。

 尿酸値8mg/dL以上の持続は、痛風発作に関係するばかりでなく腎臓結石の形成や、それによる腎機能障害をもたらします。また関連してみられる肥満、高血圧、あるいは糖尿病、高脂血症等はともに動脈硬化を引き起こし、その最終局面は脳卒中や心筋梗塞につながって行きます。

 そこで怖い痛風を防止していく為には尿酸をコントロールすることこそが肝要で、これには薬物療法が欠かせませません。これには体内での尿酸生成を抑える働きのある尿酸合成阻害剤・アロプリノール(ザイロリック、サロベール等)の継続的な服用が薦められます。薬剤にはこの他に尿酸排泄促進剤もありますが、副作用なども考慮するとアロプリノールこそが主役の薬だといってよいでしょう。今、Uさんは生活習慣改善というセルフケアとともにザイロリックを朝晩1錠ずつ服用し、最近の尿酸値は8から7、そして6mg/dLを切ろうとしています。

2006年03月 掲載
■テーマ
1. 読み、書き、そろばん〜血圧管理
2. 動いて、食べて、快眠管理
3. 「たばこ病」からの解放を目指して
4. 肥満の克服
5. 胃食道逆流症(GERD)
6. 脳卒中の予防
7. 長い道のりの糖尿病
8. 死の四重奏
9. 「6、7、8」で痛風予防
10. 男の更年期-原因と対策-
11. お口の健康・歯周病のセルフケア
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16. 「飲酒病」からの脱却と糖尿病
17. セルフメディケーション時代の血糖自己測定(SMBG)
18. 糖尿病予備群、軽症糖尿病にも有用なSMUG(尿糖自己測定)