池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)
更年期とか更年期障害といえば閉経前後の女性における専売特許のように理解されてきましたが、似たような症状は男性にも起こっているというのが昨今の見方になっています。女性の更年期障害(climateric disturbance)におけるクライマテリックという英語は、「転機にあう」とか「危機の」という意味合いをもつ形容詞です。この意味からすれば、男性にも当然30代から40代、そして40代から50代へと常に転機が自覚され、その際、知らず知らずのうちに身体的にも精神的にも危機の訪れている可能性は、決して否定できるものではありません。

Mさん、48歳・男性(身長172cm、体重84kg)は、大手の家電会社の営業マンでしたが、1年前に子会社の営業担当重役として職場が変わっています。責任ある立場で、持ち前の馬力をもって日夜仕事に専念しましたが、低迷していた子会社の業績はなかなか回復しないまま2年が過ぎようとしています。そして今、Mさんは診療機関に行くべきかどうか迷うほどの状況にあります。すなわち、日々身体がだるく、つい回りの者に当たってしまうイライラ感の増強、家に帰れば寝つきが悪く、性行為への意欲も低下し“やる気がおきない”という状況に至っています。このような症状は、一元的に仕事上のストレスからきているというふうに捉えることは至極簡単なことです。しかし、解決策を見いだすためにはライフスタイルの有様と身体的機能変化に病態生理学的な変化が出ていないかについても配慮を要します。
男性における更年期障害の根底にあるのは、女性の場合と同様にホルモンの分泌状態に転機が起こっていることと、これがストレスなどによってある種の危機的状態をもたらしている可能性が考えられます。
加齢に伴う身体の変化は様々なホルモンの分泌量の低減や各種臓器の機能の変化によっているのですが、この中でその低下が注目されているものの一つがアンドロゲン、すなわち男性ホルモンです。アンドロゲンは男性ホルモン作用を持つステロイド化合物の総称ですが、血中で測定できる代表的なものは、精巣で合成されているテストステロンです。
男の更年期障害は、英語ではPADAM(partial androgen deficiency in aging male)、すなわち、加齢男性(aging male)におけるアンドロゲンの漸減だとして捉えられています。「国際加齢男性研究学会」(1999年発足)は、PADAMについて次のような定義をしています。『PADAMとは加齢に伴う生化学的症候群でありアンドロゲンに対する感受性の低下の有無にかかわらずアンドロゲンの分泌低下を特徴とする。その結果、生活の質(QOL)の明らかな変化を来したり、各種の臓器機能に悪影響がもたらされる』としています。事実、アンドロゲン作用を持つホルモンの代表であるテストステロンは20代をピークに、40代以降は2分の1から4分の1にまで低下してくるのが一般的です。前述のMさんの場合にも、この変化が明らかでした。
Mさんがテストステロン値が低いということを知ったのは、人間ドッグの受診に際してこれの測定を追加検査で受けたからでした。通常だとテストステロン値は20代前半ならば30〜40ピコグラム/mLなのに対して、Mさんは15ピコグラム/mLと約半減しているという結果だったとのこと。しかし、ドッグを担当した医師からは、今ある症状を改善するために直ちに男性ホルモンの補充療法をするなどという考えはしない方がいいときつく申し下されました。
このような性的なホルモンの変化は、現在みられている症状に対して無関係だとはいえないものの、ホルモンを補充すれば解決する問題ではなく、やはり年齢相応の肉体条件を受け入れつつ、もっとライフスタイルそのものを見直し、やや高めになっている血圧、血液脂質の異常(中性脂肪高値、HDLコレステロール低値)、それに超音波が示している脂肪肝などを是正することこそがMさんの更年期障害の症状を改善するために必須であり、それには2年間で増えた4kgの体重をまずは元に戻すこと、そしてもう1〜2kg減らし20代前半の体重の1割増し以内とする減量が急務だとされました。
このアドバイスを受けMさんは、仕事には「人事を尽くして天命を待つ」という割り切りで望む、そして禁煙と飲酒量の大幅制限、減量のための節食、可能な限り車をやめて歩行に徹し、夜は奥さまと入浴をともにし、全身のマッサージをしてもらうなどで性への欲望も回復に導かれました。その結果、だるい、イライラ、やる気の低下も全面的に改善。結果的にこれを可能にしたのは、半年で4.5kgの減量と、「一無(禁煙)、二少(少食、少酒)、三多(多動、多休、多接)」の実践、加えて奥様の“内助の力”がMさんの男の更年期の確かなセルフメディケーションとなったのでした。
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