セルフメディケーションを実践のための200テーマ

池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)

12. 水虫を治す基本を知る

 高温多湿な時期に、多くの人が趾間の水虫に悩まされています。水虫を患っている人の数はおよそ1千万人と推定され、原因のはっきりしている皮膚病としては、まさに国民病といってもよいほどの状況にあります。

 Mさん(52歳男性)は、長年にわたって損害保険の代理店を経営しています。仕事柄、ほとんどの時間帯は得意先の訪問に当てられ、革靴を履き続けています。そして既に8年来、水虫との共生を続け、冬場は何とかしのげるものの夏場は毎日がかゆみとの戦いとなっていました。

 でも、この夏のMさんはすっきりと毎日を過ごしています。それは長年の水虫を退治できたからにほかなりません。これは昨年の秋以来、続けてきた、“あせらず、きれいに、ぬり続ける”という水虫対策のセルフメディケーションを、しっかりと行ってきた結果なのです。

水虫の本体は白癬菌による感染症

 Mさんが本格的に水虫対策に取り組んだのには理由がありました。それは足の水虫が爪にも伝わってしまったということと、内股の付け根にかゆみとともにリング状の湿疹様変化がみられ、それが股部白癬(インキンタムシ)と診断されたことにありました。

 さて、水虫の本体は「白癬菌感染症」です。白癬菌は真菌というカビの一種で、皮膚の角質の成分であるケラチンを栄養源としています。一般にカビの生えやすい場所は高温で湿気の多いところです。人の皮膚で湿気の多い場所ということになると、長時間、革靴を履いた状態の足の指の間(趾間)は代表的な部位だといえます。同様条件のその他の部位としては、内股から肛門にかけた陰股部があげられます。

 足の水虫がどのようにして起こってくるのか、Mさんの事例で推定してみましょう。Mさんは故あって10年前から一人暮らしをしています。家での入浴が面倒だということもあって、サウナや銭湯によく出かけています。このような中で、バスマットなどに付着していた白癬菌を素足に付着させたまま靴下を履き、そのまま長時間革靴を履いて過ごしたというような状態で、おそらく白癬菌感染が成立したものと思われます。はじめにも述べたように、水虫に罹っている人の数は決して少なくないため、白癬菌が足に付着する機会は、かなり多いものと考えておかねばなりません。

 Mさんが長年にわたって悩まされ続けた水虫は、当初は足の指と指の間が少しジクジクしたり皮がむけたりする、いわゆる「趾間型足白癬」でした。その後はこれに加えて足の裏から側面にかけて小さな水ぶくれ(小水疱)ができ、強いかゆみに襲われています。このタイプは「小水疱型足白癬」といわれています。この他「角質増殖型足白癬」、さらにはMさんが昨年秋に気づいたという足爪の水虫(爪白癬)もみられます。これは容易には治癒しません。

水虫を根治させるには

 少し前までは「水虫を治す薬を発明したらノーベル賞だ」といわれていましたが、昨今の水虫治療薬の進歩には目覚ましいものがあります。趾間型、小水疱型には、あせらず根気よく外用薬(塗り薬)を、朝夕2回を基本に塗り続けることにあります。

 足にみられる皮膚症状が、確かに白癬菌によるものだという顕微鏡による検査を得たならば、白癬菌の発育を抑えたり、白癬菌そのものを殺菌できる成分を含有した抗真菌薬(水虫薬)を用います。

 この間「足も身の内」と心得て、趾間を中心に常にきれい(清潔)にしておくことが欠かせません。Mさんは昨年の秋からこれを続けて、4カ月を経た頃からほぼ正常な皮膚の状態に至ったということです。

 一方、爪白癬については外用薬の効果はほとんど期待できません。このため、Mさんも診断を受けた皮膚科医の処方を得て、抗真菌薬の内服治療を3か月余行い、ようやくきれいな爪を復元しています。内服薬については、肝障害などの副作用も懸念されますが、最近はこのようなトラブルを防ぐために1週間服用したら3週間休むなど、間歇的な服用(パルス療法)も行われるようになっています。

 内服の仕方をどのようにするかについては病状の具合にもよりますので、皮膚科医の指示に従うことをおすすめします。なお、Mさんが昨年秋に患った股部白癬も同じ外用薬の使用でよくなっています。

“水虫の再発予防3カ条”

 1千万人が罹患している水虫、この病原菌である白癬菌は素足から落ちこぼれ、どこにでも存在していると考えておかねばなりません。水虫を根治させたMさんも「再感染は、いつでもありますよ」という皮膚科医の言葉は、肝に銘じているところです。そこで再発を予防するためには落ちこぼれている白癬菌を拾い込まない、あるいはたまたま拾い込んだとしても、これを振り落として水虫菌を繁殖させない対策こそが肝要だということになります。

 そのためには、第1に足、とくに趾間を常にきれいにしておく。そして日頃足の乾燥を心がけ、特に湿気の多い夏場は同じ革靴の連用を避け、靴下も5本指のものを用いたり、抗菌仕様のものにするようにしています。

 第2は、バスマットやスリッパなどを共有するような場所に出掛けた際には、予防的に塗り薬を塗っておくという習慣もおすすめです。

 そして第3は水虫が感染症であるという認識を深め、バスマットなどを共用しないことです。

 Mさんはこの夏を快適に過ごすべく「足も身の内」という言葉を噛みしめて、以上の3点をしっかりと実行し、再発防止のセルフメディケーションを図っています。

2006年06月 掲載
■テーマ
1. 読み、書き、そろばん〜血圧管理
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