池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)
骨粗鬆症への関心が高まっています。アメリカやロシアの宇宙飛行士の体験から、宇宙船に乗っている時間と逆比例する形で骨量(骨密度)が減少してくることが明らかにされています。これを裏づける動物実験が、雨蛙の首の骨の骨密度によって証明されました。宇宙の無重力状態に1週間置いた雨蛙の骨密度は、およそ20%低下したということです。これらは、いずれも無重力状態での運動不足が、骨に蓄えられていたカルシウムを血中に溶かし出したことによります。
骨粗鬆症は、運動不足と並んで古くから加齢とともに、骨がスカスカになっていくことが知られていて、この傾向は特に閉経後の女性で顕著です。
およそ5億年前、生物に骨ができた理由は、生物が生きていくために必須のミネラルであるカルシウムを、体内にしっかりと備蓄するためだったといわれています。海水の中から陸上へと移動した生物にとって、海水からふんだんに摂れていたカルシウムが供給されない環境は、生命の維持を不可能にしてしまうところから、常に一定のカルシウム濃度を体液中に維持するためには、いつでもその供給を仰げるカルシウムの備蓄場所としての骨が必要だったというわけです。骨粗鬆症は、このようなカルシウムの備蓄の指標である骨密度が減少し、骨がもろくなる病態を指しています。
Aさん58歳は、家庭の主婦で3人の子供を出産しています。現在の身長は142cm、体重40kgで、BMI(体格指数=体重kg÷身長m÷身長m)は“20”と、やや細身の体型です。特にどこも悪いところが無かったことから、しばらく健診から遠ざかっていましたが、最近行われた地域の住民健診で、145cmと思い込んでいた身長が142cmと計測され、担当の保健師さんから「骨密度が減ってきているからではないですか」といわれ、愕然としたということです。
閉経後8年目のAさんの場合、骨密度の維持に重要な役割を演じている女性ホルモン(エストロゲン)の減衰と、甘いものが大好きで食生活に多少の偏りがあること、そして運動もあまり得意ではないということどもが、カルシウムの備蓄を減らし骨をもろくし、それが背丈の縮みを招いたものと推定されます。

骨検診におけるスクリーニングの基準は、DXA法の腰椎骨密度の最大値(30歳での平均値を100%とする)の80%相当値未満を要精検レベル、同80〜90%相当値を要指導レベル、90%を超えるものを異常なしとしています。Aさんのそれは76%で、要精検レベルと判定されています。この結果、背丈の縮み3cmを勘案すると明らかな骨粗鬆症と診断される状況であることがわかり、今後における生活での骨折の危険性を踏まえ、積極的な予防対策の必要性が示唆されました。
骨折予防のための骨粗鬆症対策の3大ポイントは、食事、運動、戸外での日光浴です。食生活のポイントは、カルシウムを豊富に含んだ食品を摂取し、このカルシウムを十二分に体内に吸収させることにあります。ただカルシウムを多く摂ればよいということではなく、摂取したカルシウムをいかに多く体内に取り込めるかがポイントになります。豊富にカルシウムを含む食品の代表は牛乳と、これを原材料とする乳製品(ヨーグルト、チーズなど)です。ここでカルシウムの腸管からの吸収を助けてくれるのがビタミンDです。また、牛乳タンパク質が消化されて生成されるカゼインホスホペプチドにも、カルシウムの吸収を盛んにする作用が知られています。
一方、吸収されたカルシウムが骨に取り入れられて骨密度を上げるようにしてくれるのが、マグネシウムやビタミンKです。牛乳やヨーグルトに含まれるミルクベーシックプロテイン(MBP)も有用です。
Aさんのように閉経後の骨密度低下は、破骨細胞による骨吸収の亢進によるところが大です。これを抑えてくれるのが、大豆に含まれる女性ホルモン様作用をもつイソフラボンです。
このようなカルシウムの腸管からの吸収、そして骨内へのカルシウムの備蓄と、骨からのカルシウム流れ出しのメカニズムに対して、食からみたセルフメディケーションとしてお勧めなのがトクホ(特定保健用食品・厚生労働省認可)の活用です。これらには、ビタミンK2高生産納豆菌で作られた納豆、フラクトオリゴ糖、そして大豆イソフラボン入りの豆乳などがあります。
以上、食生活上の工夫に加えて、歩行、体操、筋力トレーニングなどの運動とビタミンDの増加に役立つ日光浴で、寝たきりに直結しかねない骨折予防をしっかりと心がけるようにしましょう。
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