セルフメディケーションを実践のための200テーマ

池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)

14. 快便維持のためのお通じ対策

 毎日行われている食生活は、口から始まって食道、胃、小腸、大腸、直腸、そして肛門へと至る道筋で営まれています。この営みの中で食物は消化管の粘膜に直接的な刺激を与えたり、そこでの消化は食物の持つ各種の栄養分を体内に取り入れて人体を構成する各種成分の原材料を供給したり、必要なエネルギーを確保するなどに役立ちます。

 ここまでは主として小腸で行われますが、第6の栄養素と呼ばれる食物繊維など難消化成分は大腸に達してから本領を発揮します。ここでは、そこに住み着いているおよそ100兆個の腸内細菌がさまざまな機能を持って、身体の免疫能力を高めたり、不要になった腸内容物を便塊の形成によって肛門から外へ、すなわち排便にまで持っていってくれます。
 このような十数時間以上に及ぶ壮大な流れ作業の中での営みが、私達が生きている証拠ともいえる「快食」から「快便」へを可能にしています。

便秘はどうして起こるのか

 Cさん(56歳、男性)は、このところ排便がままならず、いつもお腹が張った感じで過ごしています。このような状態になってしまっている背景についてCさんは、それが自分なりにストレスのせいだとは分かっているとのことです。Cさんの便通異常は、以前は毎朝あった排便が、3日以上もみられないことが既に3ヵ月以上も続いているとのことでした。

 もちろん個人差もありますが、一般には3日以上も排便が無く、時に腹痛を感じたり、お腹が張るなどの症状がみられる場合、医学的にこの状態は“便秘”と診断されます。どうして便秘がおこるのか、その原因を幾つか挙げてみますと次のようになります。

  1. ストレスからくる副交感神経の過度の緊張が胃・結腸反射を妨げ、便塊が直腸から肛門へ移動し難くなり、そこに留まっている便塊の水分が吸収され便が固くなってしまい、時にはそれが兎の糞のようになり、「用手」にて肛門からこれを掻き出さなければならない程の状態を引き起こす。

  2. 高齢者や女性、特に妊娠中などでみられやすいのが、排便に必要な腹筋が弱いことにより腸管運動が低下し、大腸から直腸、肛門へという便塊の移動がスムーズにいかなくなる。

  3. 排便の潮時を迎えているのにもかかわらず、朝方など時間に追われて排便のための時間がとれないなどにより、ついつい便意を我慢してしまうことが習慣化されてしまっている。

  4. 直腸や大腸の癌、ポリープ、あるいは炎症など、腸管の内腔に機械的な閉塞が生じているか、糖尿病などの内分泌疾患や脳血管障害などの神経障害による腸管機能の麻痺によるもの。

 以上のような分類からCさんの場合には、1に相当する痙攣性便秘になっていることがうかがわれます。なお、2の場合は弛緩性便秘、3は直腸性便秘、4は症候性便秘、として分類されます。
ファイバーデイのすすめ

 Cさんが経験している痙攣性便秘には、その原因となっているストレスを取り除き、排便のリズムを再構築する必要があります。Cさんとの話し合いの中で分かったことは、現在勤務している大手の製造会社において、60歳の定年を前に5年の前倒しで早期退職が勧告されている中での悩みであることが分かりました。幸いCさんの奥様の実家がコンビニエンスストアを経営していて、その中の主要店に責任者として出向くことが決まり、離職に伴うストレスからは開放されるようになったことは、便秘症状の軽減につながったことでした。

 しかし、便秘症状を著しく改善してくれたもうひとつの要因は、食物繊維を豊富に摂るという積極的な食生活の見直しにありました。そのきっかけは、たまたま読んだ雑誌の米国で行われている“ファイバーデイ”の記事でした。

 これは現在、米国で展開されているところの食物繊維(ダイエタリーファイバー)を、男性は1日35g以上、女性は1日25g以上、摂ることで大腸癌を防ぎ、糖尿病、高脂血症、そして便秘を防いでくれるというものでした。ファイバーデイは「5 a day」をもじったもので、1日5品目以上の食物繊維に富む食品を摂ることのキャンペーンだったのです。

 私が会長を務めている「日本食物繊維学会」も、今の日本人が平均的に摂っている食物繊維量が15g前後であることに強い危機感をもっています。これを少なくとも20g以上にすることで、日本人男性の2割、そして女性の5割が悩んでいるとされているところの便秘の解消はもとより、各種の生活習慣病予防においても食生活上の基本であることを広く訴えているところです。

総合的なお通じ対策

 ひと口に便秘といっても、原因や状態はさまざまであることは既に述べた通りです。そこで総合的なお通じ対策としては、便秘を来している原因をしっかりと探索し、これを取り除いていく努力が肝要です。そのためには個々人の生活背景や家族関係、そして食生活、運動、休養の全てに対する配慮が必要になります。

 毎日を“ファイバーデイ”とするためには、食品の選択、調理の仕方、摂取量の確保に意を用いなければなりません。動物由来の肉、油脂を控えめにしながら、野菜、海藻、茸類をサラダ仕立てにこだわることなく、単純なスープ煮込みなどの調理法で多種類のものを充分量摂れるように工夫します。

 加えて欠かせないのが穀類の摂り方で、白米、白パンを避けて、できるだけ色の付いたまま、すなわち米飯ならば玄米、胚芽米、分搗米などをしっかり噛んで食して頂く。さらには大腸内の細菌叢を良好な状態に維持する上で有用な乳酸菌がたっぷり摂れるヨーグルトや、この乳酸菌の発育、増殖を高めるオリゴ糖の活用なども快便の維持に役立つ有効策になることをお知りおきください。

2006年08月 掲載
■テーマ
1. 読み、書き、そろばん〜血圧管理
2. 動いて、食べて、快眠管理
3. 「たばこ病」からの解放を目指して
4. 肥満の克服
5. 胃食道逆流症(GERD)
6. 脳卒中の予防
7. 長い道のりの糖尿病
8. 死の四重奏
9. 「6、7、8」で痛風予防
10. 男の更年期-原因と対策-
11. お口の健康・歯周病のセルフケア
12. 水虫を治す基本を知る
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14. 快便維持のためのお通じ対策
15. “NASH”新しいタイプの肝障害
16. 「飲酒病」からの脱却と糖尿病
17. セルフメディケーション時代の血糖自己測定(SMBG)
18. 糖尿病予備群、軽症糖尿病にも有用なSMUG(尿糖自己測定)