3. 健康社会を構築するための継続教育

3. 健康社会を構築するための継続教育
1. 日本における教育制度

 健康啓発はみずから考え、行動することであるが、知識が必要である。誰もが必要な知識を得るのは教育によってであり、制度としては古く飛鳥時代に遡る。ただし、その目的と内容は時代によって大きく変遷してきた。近世以後に限っても1872年の「学制」による義務教育導入以来、制度、教育理念・内容とも改変を繰り返している。
 1947年制定の教育基本法では義務教育として6・3制度を基軸としていわば成人としての必要知識・技能の付与に重点を置いている。当初の1950年代の平均寿命は60歳であったが、現在は80歳を超え、幼・少・青年期までに得た知識では不足なことは明白である。教育基本法は社会教育として生涯学習の理念をうたい、成人教育として大学開放、高齢者教育、家庭教育、婦人教育等を発展させたとしている。しかし、社会教育施設としての公民館の消長や内容の不揃いにみるように一貫性に欠けている。
 生涯学習の中核として成人学習・成人教育を位置付ける勧告がユネスコ勧告 1)に示されている。勧告ではその目的を、人々に、自己の権利を行使し、並びに自己の運命を切り開くために必要な能力を習得させるとしている。
 成人学習・成人教育の目標として、
 a) 批判的に考え、自律性及び責任感を持って行動するための個人の能力を開発すること
 b) 経済及び労働の世界で起きている進展に対処し、及び適合する能力を強化すること など6項目をあげているが、これはセルフメディケーション啓発の目的と軌を一にする。

2. 成人教育と環境整備

 成人教育の目標として自己の健康維持・健康啓発があるならば、対応する環境の整備が必要になる。健康管理担当の行政である厚生労働省と文部科学省の連携した仕組みの構築が急務である。手をつければ必然的に医療政策の基本である国民皆保険制度との整合性が問われる。
 現在の健康教育は学齢までは保護者、学齢期は文科省、成人期は加入する医療保険者に委託した形である。学齢期といっても一律なのは義務教育期間で卒後は進学した大学やその他、就労環境等で異なる。前章で指摘したように健康保険制度は統合されていないままである。目標を定めたとしても目的遂行のための具体的行動がバラバラなのである。
 保険は損害を共同で負担する制度であり、2008年制定の保険法は従来の商法から一新された内容となった。公的保険である健康保険制度についても加入する全国民が理解していることが前提である。しかし、現実はまったく違っていて国民は加入している意識が乏しい。火災保険と対比すれば「火の用心」と較べて「健康を守る」意識は低いのではないか。かかる事態を招いたのは政治の無策―国民への義務、痛みを要請することをためらう―と断じ、非難することは簡単だが、それでは解決にはならない。
 国民へ現実を全て開示し、理解を促し、その上で政策の可否を問う―当たり前の政治を確立すべきではないか。

3. 健康保険と国民健康保険の連携

 医療制度、健康保険制度の抜本改革を議論し、実施することは日本の未来に必要なことは言うまでもないが、それを待っていては現実の社会体制が崩壊してしまう。現在存在する機能を有効活用し、国民の意識改革を促進し、安心して信頼できる社会をつくれないか。
 医療保険の中心は国民健康保険(国保)であり、勤労者を主対象とする健康保険(健保)と高齢者対象の後期高齢者医療制度より成立している。国保の保険者は市(区)町村で地域医療の管理者である。急速な少子高齢化―2025年「団塊世代」が75歳となる超高齢社会を見据え、地域医療は医療と介護の総合的な確保を目指し、資金・設備・人材・連携の強化を進めてきた。一方、医療・介護への負担を軽減するための対策は国民の自由意思に任せてきた。義務を説くと強制ではという反撥を恐れて焦点をぼかす政策のつけが蓄積している。規制緩和という甘言によって健康食品、レジャー・スポーツ商品のコマーシャリズムが席巻して、国民はフェイクを含めた情報の渦中で喘いでいる。
 健康維持・健康啓発のための知識を国民にあまねく普及させるには国保加入者への持続的講習が望ましい。運転免許証に必要な要件に準じる制度である。しかし多様な年齢層を対象とした制度設計は容易ではない。試験的に健保加入者の退職前に一定の講習を義務付けることを提案する。対象者の多くは高齢前期で退職者医療(国民健康保険)、後期高齢者医療制度の予備軍でありこの保険者は県・市町村である。健康保険と国民健康保険の連携の端緒となる。

4. 講習内容と講師―健康サポート薬局の活用

 講習の内容については様々な意見があると思うが、なるべく簡潔で基本の確認に徹することにしたい。社会保障と日本の「皆保険制度の意義」と健康啓発の基本としてセルフメディケーションの大切なことを知ってもらう。40分程度を1単位として3単位2時間半~3時間程度ならば半日で可能と考える。
 講習開始には会場と講師の選定が必要となるが、会場は自治体の市民会館、集会所などの公的施設の使用を優先し、可能ならば休日の公立中学校教室を借用する。講師は地域の薬局薬剤師が適切と考える。内容は薬剤師教育カリキュラムに準拠したものであり、現在全国に展開を図っている「健康サポート薬局」の概念と一致しているからである。健康サポート薬局を絵にかいた餅としてではなく成果として具現するには共通基盤の整備を前提にしなければならない。オンライン講義も視野にいれたいが、地域交流を考えるとリアルが望ましい。

5. 健康ライブラリーの創設

 一方健康を目指し、自己啓発を志す国民が一定数存在する事実がある。彼らの自主努力を評価し、支援する方策も検討したい。セルフメディケーションは年齢的に早い頃から始めれば効率は大きい。言われる前に行動することは他の人たちに刺激となり共感を呼ぶことにつながる。
 ただ多くの志向者は医療・運動・栄養学に専門知識を持っているわけではない。また法的知識も十分ではない。自分で調査し、客観的に評価し、実際に行動につなげる道を作ろうではないか。現在各自治体には図書館の設備がある。図書の閲覧に限らず、資料の検索や調査についてアドバイスが可能な施設もある 2)。健康への関心は年齢、職域、学歴に関係なく全ての人に共通するが、自ら調べて実践する過程にはアドバイザーがあれば効率が上がる。図書館に健康ライブラリーを設置して、アドバイザーの助言を付置してはどうか。アドバイザーは現役を引退した医療従事者―薬剤師、保健師、栄養士、健康運動指導士等に週1回の有償ボランティアとしての活動を期待する。


参考文献



1)2015.11.13 第38回ユネスコ総会採択 「成人学習及び成人教育に関する勧告」
 (文部科学省ホームベージより)
2)独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所 飛鳥資料館
   https://www.nabunken.go.jp/asuka/

2023年01月 更新