加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)
(2013年06月 掲載)
(2019年6月 更新)
食中毒を引き起こす主な原因は、「細菌」と「ウイルス」です。このうち細菌が原因となる食中毒を細菌性食中毒といい、その件数は食中毒全体の約70〜90%を占めています。細菌は温度や湿度などの条件が揃うと食物中で増殖し、その食物の摂取で食中毒を発生します。
多くの細菌性食中毒は夏場(6月〜8月)に多く発生しています。これは細菌が最も繁殖する温度が37〜40℃であることから、食材、食品内で繁殖しやすいためです。
細菌性食中毒は基本的には、細菌の性質を理解し、「細菌を付けない、増やさない、死滅させる」ことにより防ぐことができます。
細菌性食中毒は通常、感染型と毒素型に分類されます。
感染型
食品内で細菌が増殖し、食品とともに体内に入った細菌が、腸管の表面に定着したり、腸管細胞の内部に感染して起こる食中毒をいいます。腸管の炎症性変化が観察されるものが多く、毒素型に比べると一般に潜伏期間は長いのが特徴です。
代表的原因菌:サルモネラ・腸炎ビブリオなど
毒素型
食品内で細菌が産生した毒素を摂取することで起こる食中毒です。
代表的原因菌:ブドウ球菌・ボツリヌス菌など
原因である食事の時間から発症までの時間(潜伏期間)や食中毒の強さは原因菌の種類で変わります。
細菌性食中毒の主症状は、下痢、嘔吐、腹痛、発熱です。原因菌によって下痢が激しいもの、嘔吐が激しいなどの違いがあります。表1では、日本で発生している食中毒の原因菌をピックアップし、症状別のリストを作成してみました。
表1 細菌の性質
菌名 |
主な原因物質 | 多発月 | 潜伏期 | 血便 | 膿・粘液便 | 水様便 | 嘔吐・嘔気 | 腹痛 | 発熱 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
エルニシア属菌 | 食肉、乳製品、家畜、井戸水 | 12-2月 (47%) |
2〜5日 | ● | ● | ● | ||||
O157(腸管出血性大腸菌) | 加工食肉製品・水耕野菜 | 6-8月 (45%) |
3〜5日 | ● | ● | ● | ● | ● | ||
ウェルシュ | 大量調理で食前不加熱(カレー、シチュー等) | 季節の偏り少ない | 6〜18時間 | ● | ● | ● | ||||
カンピロバクター | 肉類(特に鶏肉)飲料水 | 6-8月 (37%) |
2〜7日(平均2〜3日) | ● | ● | ● | ● | ● | ||
コレラ | 飲料水、海産物(特に貝、エビ) | 高温多湿時期 | 数時間〜5日 | ● | ● | |||||
サルモネラ | 鶏卵、肉類(特に鶏肉) | 6-8月 (38%) |
5〜72時間 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |
赤痢 | 飲料水、海産物(特に貝)、生野菜 | 1〜5日 | ● | ● | ● | ● | ● | |||
セレウス | 嘔吐型 | 米などの穀類や香辛料 | 夏期 | 0.5〜5時間 | ● | |||||
下痢型 | 食肉、乳製品 | 8〜16時間 | ● | ● | ||||||
腸炎ビブリオ | 生食魚介類 | 7-9月 | 10〜24時間(2-3時間の場合もある) | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |
ブドウ球菌 | 調理者を介在(おにぎり、サンドイッチ) | 夏期 | 1〜数日 | ● | ● | ● | ||||
ボツリヌス | 魚肉発行食品(いずし)、肉類の缶詰、瓶詰め、真空パック、蜂蜜 | 夏期 | 8時間前後(数時間〜3日) | ● | ||||||
その他病原性大腸菌 | 加工食肉製品・水耕野菜、井戸水 | 1〜数日 | ● | ● | ● | ● | ● |
●:症状あり、●:激しい症状あり
「食品を衛生的に扱い食中毒の原因菌を食品に付着させない」ためには、清潔な調理環境・調理器具で、清潔な手指の調理者が料理することが大切です。
細菌の生育には「温度」「水分」「栄養」の3条件が必要です。低温保存、塩漬け、砂糖漬け、乾燥などは細菌の増殖を抑えるのに有効です。
加熱により菌を完全に死滅させ、食中毒を防ぐことが多くの場合可能です。しかし芽胞形成菌(ウエルシュ、セレウス、ボツリヌスなど)は100℃では死滅しないことに注意してください。
表2は、細菌別に特徴、予防ポイントを示しています。表を参考に各菌の特徴を理解し、それに合った対策をしましょう。
表2 細菌の特徴と予防ポイント
菌名 |
特徴 | 予防ポイント | |
---|---|---|---|
エルニシア属菌 | 主症状は敗血症、下痢。腹痛(特に右下腹部痛)、発熱(38℃以上)。 虫垂炎に類似。28-32℃で増殖(0-4℃でも増殖)。 | 耐熱性はなく、低温殺菌で殺菌可能。 冷蔵庫を過信しない。 | |
O157(腸管出血性大腸菌) | 大腸血管壁を破壊し出血を起こす。腎臓、脳、神経にも作用。発症後短時間で生命を奪うこともある。発生時期は夏が多いが、冬も見られる。 | ||
ウェルシュ | 急性胃腸炎症状。煮沸1時間以上でも死滅しない。嫌気的条件でのみ増殖。集団食中毒の原因菌。腹痛、下痢が主で、特に下腹部がはることが多いが症状としては軽度である。芽胞形成菌。 | 十分な加熱調理。集団給食注意。 | |
カンピロバクター | 1週間以内で完治。死亡例は希。他と異なり潜伏時間は2〜7日と長い。ペット等あらゆる動物に分布。少量菌数で食中毒発生。 | 生職、調理した肉類は別に保存。 十分な加熱。 | |
コレラ | 急性胃腸炎症状。感染力は強い。米のとぎ汁様の下痢症状。 腹痛や発熱の症状はない。 | 海外で生ものの摂取は避ける。 | |
サルモネラ | 乾燥や低温に強く、冷凍しても不活化しない。悪寒・嘔吐に始まり、臍周辺の腹痛、下痢へと変る。風邪との誤診に注意。家畜、ペット、河川、下水に分布。熱に弱い。少量菌数で食中毒発生。 | 食肉類の生食は避ける。 加熱料理は75℃1分以上。 | |
赤痢 | しぶり腹の症状がある。発熱は軽度。熱に弱い。 | 80℃10分の加熱が必要。 | |
セレウス | 嘔吐型 | わが国は殆どが嘔吐型。症状は共に軽く、1〜2日で全快し、予後も良い。嘔吐型は非常に短く1〜数時間で発症。熱に強い。芽胞形成菌。 | 低温保存。 |
下痢型 | 下痢型は8〜16時間で発症。56℃55分で毒力無効。 | ||
腸炎ビブリオ | 一般に潜伏期間が短いほど重篤な症状を示す傾向がある。2〜3日で快復に向かう。塩分を好む | 真水洗浄、加熱処理、低温管理。 | |
ブドウ球菌 | 潜伏期間は短い(平均3時間)。人・動物の化膿創、手指、鼻咽喉に分布。 | 化膿創の人は調理不可。手指洗浄消毒。 | |
ボツリヌス | 症状が進むと発声困難、嚥下困難、起立不能などの神経障害などが起こり、呼吸困難により死亡。致命率が非常に高い。芽胞形成菌。 | 新鮮な原材料で、十分な洗浄。 | |
その他病原性大腸菌 | 下痢症状がある。熱、消毒剤に弱い。少量菌数で食中毒発生。 | 加熱料理は75℃1分以上。 |
食品は低温保存で劣化しにくく、鮮度が保たれることが多くなります。そこで活躍するのが冷蔵庫や冷凍庫です。しかし、冷蔵庫や冷凍庫の保管で、安全を過信するのは危険です。扉を頻繁に開閉していると、庫内の温度が高くなります。また、エコの意識から誤った温度設定をすると危険です。冷蔵室は10℃以下、冷凍室は−15℃以下にキープしましょう。
普段から規則正しい生活を心がけ、食中毒の原因菌に対する抵抗力を備えた体を養うことが最も大切です。体調不良時は、生ものは避けるほうがよいでしょう。もしも食中毒が疑われるような症状(下痢、嘔吐、腹痛、発熱など)の場合は、まず脱水症状を防ぐために水分を補給し、早めに医療機関を受診しましょう。
- 学校安全Web 学校給食の衛生管理 独立行政法人日本スポーツ振興センター
- 食中毒・食の安全Q&A 公益社団法人日本食品衛生協会
- 食中毒に関する情報 厚生労働省
- 食中毒を防ぐ3つの原則・6つのポイント 政府広報オンライン
- 紫外線
- 細菌性食中毒
- 熱中症
- 脳卒中(夏に多発する脳梗塞)
- 気管支喘息
- ロコモティブ シンドローム(locomotive syndrome):運動器症候群
- 睡眠時無呼吸症候群「Sleep Apnea Syndrome:SAS」
- 逆流性食道炎
- 不整脈「心房細動」
- かぜ症候群、インフルエンザと肺炎について
- 帯状疱疹
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- 口内炎
- 夏に気をつけたいアデノウイルス感染症
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