セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

気管支喘息

(2013年09月 掲載)

夏の暑さで体力が低下した9月以降、気管支喘息に気をつけましょう!

9月中旬以降になると気温が低下し、夏の暑さで体力が低下した人などは、食欲不振など夏バテの症状が出やすくなります。

気管支喘息とは

 前日までの暑さがウソのように涼しくなったり、台風など、天候の変化が激しいこの季節は、気管支喘息(喘息)発作が起きる方が多くなります。

 気管支喘息はアレルゲンや生活環境から生じる刺激物質などにより、気道が過敏に反応して内腔が狭くなり、その結果、息をする時「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と喉が鳴ったり、突然咳が出て呼吸困難が起きます。しかも繰り返すことが特徴です。

病気の特徴

 気管支喘息は、重症発作を起こすと死亡することもあり、年間に6,000人前後が死亡しています。男女とも15〜29歳の若年層で増加傾向を示しています。注目すべきは小児気管支喘息の増加や、以前は乳幼児の気管支喘息は比較的まれでしたが、近年、著しく増加していることです。増加原因は、不明です。

どんな人が罹患し易いか:

成人でも小児でもアトピー素因(生まれつきアレルギー反応を起こしやすい体質)をもつ人。

症状の特徴:

 突然出現する呼吸困難(息苦しさ)、喘鳴(ぜんめい)(息を吐く時にゼーゼー・ヒューヒューといった音を伴う呼吸)、咳(夜間、早朝で出現しやすい)が繰り返し起こる。人によって繰り返すパターンが違う場合があり、例えば、喘鳴、咳が春先や秋口になると始まり、1〜2ヵ月続く人もいれば、1年中発作が続く人もいる。

合併症:

  気管支喘息は、そのほとんどがアレルギー性の疾患なので、気管支喘息以外にも病気を合併している場合があります。代表的な病気にはアレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹(じんましん)などがあります。

喘息と運動

 運動は喘息の増悪因子の一つで、運動誘発喘息(exercise induced asthma :EIA) と呼ばれています。運動によって起きる気管支の収縮は、運動を始めて数分で起き、中止すると30分後には自然回復します。一方、気管支収縮が長引いて中等度〜重症の発作になることもあります。運動誘発喘息が起きやすい条件は、重症度、運動の種類、運動時間、気温・湿度などです。

喘息と咳

 咳喘息という病気があります。気管支喘息とは異なり、喘鳴や呼吸困難を伴わない咳が長く続き、気管支拡張薬を使うと咳の回数が減少します。通常は就寝時や深夜から明け方に痰を伴わない空咳が強く出たり、日中は冷気、運動、飲酒、精神的な緊張などがきっかけに咳が連続して出ます。この咳には、いわゆる咳止めは効果が少なく、気管支拡張薬が有効です。咳喘息以外に、長引く咳は、肺結核、気管支肺炎などの感染症、間質性肺炎、肺癌など見過ごせない病気があります。

 類似した慢性の咳にアトピー咳があります。アレルギーが原因と考えられ、多くの場合は抗ヒスタミン薬が有効で気管支拡張薬は効果がありません。

 高血圧薬の副作用が原因の咳、鼻炎による鼻汁がのどに降りて咳が出たり、胃液が食道に逆流するため誘発される咳があります。

喘息と飲酒

 飲酒すると喘息症状が増悪しますが、これはアルコール誘発喘息と呼ばれています。お酒の主成分であるエタノールは、肝臓で代謝されてアセトアルデヒドに変わります。アセトアルデヒドは気管支粘膜の毛細血管を拡張し、ヒスタミン遊離を起こし喘息症状を悪化させます。

月経喘息について

 女性の喘息患者では月経前または月経中に喘息症状が悪化することがあります。女性患者の3〜4割が月経喘息を経験し、それは1週間ほど続きます。

喘息とスギの花粉症について

 植物の花粉が原因となる喘息は、ブタクサ喘息が良く知られていますが、スギ花粉はアレルギー性鼻炎や結膜炎の原因にはなっても、喘息を起こすことは多くありません。その理由は二つのことが考えられます。

  1. 花粉の大きさ・・・ブタクサ花粉の直径は20μm以下、スギ花粉の直径40μm。鼻から吸入されたスギ花粉は鼻腔粘膜により気管支まで到達しないため
  2. 花粉患者の気管支過敏性・・・花粉症患者は気管支が過敏ではないため、気管支にアレルギー反応が起きても簡単には収縮しない(多量のスギ花粉を一度に吸うと収縮しますが、咳だけの場合もある)。

 スギ花粉症の患者が喘息になるのはもともと喘息体質で、気管支が過敏な人がスギ花紛やそれ以外のアレルゲン(ダニ、ペット、カビ)に対して喘息になると考えられます。

喘息と手術、麻酔について

 喘息患者は、気管支が過敏なので麻酔や手術の際に喘息発作を起こし易いと言われています。

  • 全身麻酔の時、呼吸確保のためのプラスチックチューブ挿管の脱着時にそれが刺激になり気管支が痙攣し、呼吸困難になります。
  • 手術がその人にとり非常に大きなストレスになると、体内の副腎皮質ホルモン(抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫抑制)量に影響し、たとえ軽症でも大きな発作になったりします。
気管支喘息の予防法

 喘息は、アレルギーの遺伝的な要素や環境の要因などが組み合わさり(発症因子)、発症します。表1に発症因子や危険因子を示します。これを参考に環境を整えて喘息の危険因子に注意した生活を送りましょう。

表1 発病に関する因子

発症因子 具体例(危険因子)
アレルギーの素因と遺伝子 家族・血縁者のアレルギー疾患の有無
室内アレルゲン ハウスダスト、ダニ、ネコやイヌのフケなど
屋外アレルゲン 花粉、カビなど
薬物 アスピリンなど
食物アレルゲン 卵、牛乳、そば、小麦、大豆など
大気汚染 排気ガス
喫煙 他人からの受動喫煙を含む
呼吸器感染症 かぜ、インフルエンザなど
運動 運動誘発性喘息
気象 季節、気圧・気温変化など
食物添加物など 食用黄色4号(タートラジン)や防腐剤(安息香酸ナトリウム)など
過労 心理的ストレスなど
アルコール

 表に示した発症因子をすべて回避することはできません。かかりつけの医師や看護師さん、学校の先生などと相談して、望ましい環境を整えていきましょう。

薬物療法

 薬物療法としては、発作時にそれを改善する治療薬と、発作のない時期の予防的治療とがあります。

1.発作改善薬:

吸入薬:まず気管支を即効的に広げる作用のあるβ2刺激薬の吸入が行われます。

2.発作予防薬:

吸入薬:ステロイド薬の吸入は現在最も重要視されている治療法です。1日2〜4回小型のスプレー管を使って吸入します。

内服薬:テオフィリン製剤やβ2刺激薬などの気管支拡張薬、抗アレルギー薬、炎症を抑える内服ステロイド薬などがあります。

 気管支喘息は、繰り返し発症することが多く、完治するのが難しい病気のひとつです。発作が治まったときに自分の判断で勝手に薬の服用をやめてしまうと、慢性化したり、悪化したりすることがあります。薬は医師、薬剤師の指示に従って、正しく服用(吸入・内服)を続けましょう。

この症状どうすればいい?
詳細な症状 考えられること、
気をつけること
対応
咳が絡む。痰が出る 痰を出すために咳が出ている 水分補給。うがい薬、去痰薬を使用。改善しない場合は、受診をお奨めします
高齢者で、食事中や食後に咳が出ることが多い。食事中むせることが多い 誤嚥性肺炎を発症する可能性 受診をお奨めします
薬を飲んだ後、咳が出る 薬の副作用の可能性(特に降圧薬:Ca拮抗薬、ACE阻害薬) 受診をお奨めします
咳だけでなく、高熱、発疹を伴う 麻疹等の感染症の病気の可能性 受診をお奨めします
かぜの様な症状(頭痛、喉の痛み)で始まり、咳・痰が続く。38℃以上の熱が出ることがある(熱が出ない場合もある) 初期:感冒薬、鎮咳薬、去痰薬 応急処置的OTC(感冒薬、鎮咳薬、去痰薬)。改善がない場合、受診をお奨めします
長引く咳、高熱:肺炎の可能性 受診をお奨めします
咳が長引いている。タバコを吸っている。咳の量も多い。息切れしやすい 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の可能性 応急処置的OTC(去痰成分のみの去痰薬で痰を鎮め、早めの受診をお奨めします)。
禁煙補助剤のニコチン(ガム)
粘りのある痰が出ることがある。 呼吸が苦しくなり、喉の奥がゼーゼー、ヒューヒュー音がする 気管支喘息の可能性 応急処置的OTC(去痰成分のみの去痰薬(抗ヒスタミン成分を配合していない)で痰を鎮め、早めの受診をお奨めします)
鼻水が喉の奥に流れ、その刺激で咳が出る 後鼻漏、副鼻腔炎の可能性 応急処置的OTC(去痰薬や鼻炎薬で一時的に症状を鎮め、早めの受診をお奨めします)
かぜの様ではないのに咳が出る。胸焼け、耳の痛み、声のかすれ、喉の違和感、げっぷ、すっぱいものが上がってくる感じなどの症状がある 胃食道逆流症の可能性 応急処置的OTC(鎮咳去痰成分の使用は症状を悪化させる可能性があるので、速やかに受診をお奨めします)
注意:OTC薬には、複数の成分を配合している場合があります。適用が異なっても何種類ものOTC薬を服用しないでください。非常に危険です。
気管支喘息に関する情報は下記から得られます。

気管支喘息(成人・小児)(公益財団法人 日本アレルギー協会)
小児気管支喘息の薬物療法における適正使用ガイドライン(PDF、厚生労働省)

薬の検索方法:医薬品情報が簡単に検索できるiyakuSearchを公開しています

一般財団法人日本医薬情報センターJAPIC(Japan Pharmaceutical Information Center)

一般財団法人日本医薬情報センター

その他

医薬品医療機器総合機構(PMDA)などでも検索できます。

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