セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

睡眠時無呼吸症候群「Sleep Apnea Syndrome:SAS」

(2013年11月 掲載)

 秋の夜長、質の良い睡眠をとりたいものです。しかし、5人に1人が睡眠に障害を抱えているといわれ、その数は増加する傾向にあります。最近、注目されている睡眠障害の一つに睡眠時無呼吸症候群(SAS)があります。これは睡眠中に呼吸が止まり、眠りが妨げられる病気のことです。

SASの概念

 日本におけるSASの定義は「10秒以上続く無呼吸が、一晩(睡眠時間7時間)に30回以上、もしくは睡眠1時間に平均5回以上起こること」です。 無呼吸から呼吸を再開するたびに、自分では気付かない短時間の覚醒を繰り返します。そのため十分な睡眠がとれず、日中に強い眠気が襲ってきます。その結果、日常生活が障害され、居眠りによる交通事故を起こすなど、社会生活にも影響がでます。その他には夜間多尿、睡眠後の爽快感の欠如、睡眠中の多動などもみられる場合があります。この疾患は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の合併を起こしやすく、そのまま放置すると脳卒中や心筋梗塞などに罹り易いといわれています。

SASのタイプ

 SASは「閉塞型睡眠時無呼吸症候群」「中枢型睡眠時無呼吸症候群」および「混合型睡眠時無呼吸症候群」の3種類に分類され、ほとんどは閉塞型です。

  • 閉塞型:睡眠時に喉の筋肉が緩み、気道が塞がることにより発症するタイプです。特徴はひどいいびきです。
  • 中枢型:呼吸中枢の障害により、呼吸運動自体が消失、停止するタイプです。いびきを伴いません。これは心不全、脳卒中後など脳疾患のある方に多く認められます。
  • 混合型:閉塞型と中枢型の混合するタイプです。

SASの原因

 SASは、喉の奥がつまる(閉塞)ことで発症します。

  • 閉塞の原因は
  • ◎肥満、扁桃腺肥大、喉の筋肉の緩み、舌が大きい
  • ◎気道断面積が小さい(小さい顎、後退している顎)
  • ◎鼻腔(鼻の空気の通り道)の湾曲
  • ◎睡眠時に喉が閉塞し易い体質
  • 肥満で喉が狭くなっている人や、顎が小さい人などに発症し易いと言われています。特に日本人は顎が小さい人が多いので、やせ型でもSASの可能性はあります。

SASの症状

 典型的な症状は「閉塞型無呼吸症候群」の場合に現れます。睡眠中、大きないびきをかき、しばらくすると静かになります。しかし、突然に大きな音でいびきが再開され、これが睡眠中に何度も繰り返されます。

SASの典型的症状
・大いびき(ほぼ100%)・頻回の中途覚醒
・他人による呼吸停止の観察・集中力の低下
・強い眠気・抑うつ
・日中傾眠・肥満(70〜80%)

 表に示した症状とともに、「頭痛」「注意力欠損」「意欲消失」「身体が重い」「疲労感がとれない」があります。これらの症状が慢性化すると、心臓、血管などに大きな負担がかかるため、動脈硬化性疾患の危険因子となり、高血圧、糖尿病、多血症、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など重篤な合併症を呈することになります。その機序は呼吸停止で酸素濃度が下がるため、これを補うために心臓の働きが強まり、高血圧となります。酸素濃度の低下により、動脈硬化も進み、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。さらに、睡眠不足によるストレスにより、血糖やコレステロール値が高くなり、さまざまな生活習慣病やメタボリック・シンドローム(内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態)がひきおこされます。

SASの危険性

 SASの人は健常人と比較すると約2倍の頻度で高血圧に罹患し易いと言われています。高血圧治療中にもかかわらず薬が効きにくい場合にはSASが関係している場合があります。また、脳卒中の場合は健常人の約4倍の頻度で発症し、糖尿病や脂質異常症、夜間突然死との関連性も報告されています。

SASの診断

 検査法には「終夜睡眠ポリグラフ法」「携帯型睡眠ポリグラフ法」および「自己診断法」があります。

◆終夜睡眠ポリグラフ法:

SAS患者であることが分かっている場合にそのタイプや重症度を詳細に判定するために、入院し行います。測定項目は脳波測定や眼球運動、下顎の筋電図、鼻と口の呼吸、いびき音、心電図、胸、腹の動き、体位、足の筋電図などです。

◆携帯型睡眠ポリグラフ法:

携帯用の装置を自分(自宅)でセットし、睡眠時の酸素濃度などを測定します。終了後、装置を病院に返却し、無呼吸回数、無呼吸指数、動脈血酸素飽和度などからSASを判定します。

◆自己診断法:

  • エプワース眠気尺度<ESS(Epworth Sleepiness Scale)>(昼間の眠気指数)
    8つの質問項目について、その回答内容が4段階に点数化され、判定は全ての合計点で行います。

    質問項目
     
    • 座って読書をしている時
    • テレビを見ている時
    • 公共の場所で静かに座っている時
    • 車に乗客として1時間継続して乗っている時
    • 午後、横になって休憩している時
    • 座って人と話している時
    • 昼食(アルコールなし)後、静かに座っている時
    • 渋滞で数分間動かない車に乗っている時

    回答内容に対する点数
     
    眠ることはない・・・・0点
    時々眠る(軽度)・・・1点
    よく眠る(中等度)・・2点
    大体眠る(高度)・・・3点
     

    判 定
     
    回答の合計点数判定
    15点以上重度の眠気
    10点以上病的な眠気
    9点未満軽度の眠気
     

    注意点:
     合計点が10点以上の場合:SASの可能性が非常に高いので、専門医の受診をお薦めします。

  • その他      10項目のうち3つ以上の場合は、SASの疑いがあります。

    ⃞ 毎晩、大きないびきをかく
    ⃞ 夜間、何回か目をさます
    ⃞ 昼間、いつも眠たい
    ⃞ してはいけない場面で居眠りをしそうになる事がある
    ⃞ 朝、目覚めたときに熟睡した感じがしない
    ⃞ 朝、目覚めたときに頭が痛い
    ⃞ 肥満の傾向がある
    ⃞ あごが小さくて後方にひっこんでいる
    ⃞ 血圧が高い
    ⃞ 最近、集中力が落ちてきたと思う

SASの治療

 治療方法は経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)や口腔内装置(マウスピース)などが使われます。肥満がある場合は、ダイエットが必要です。治療法は重症度と合併症の有無によって決まります。飲酒や睡眠薬は、悪化させます。

  • CPAP療法:高血圧・心血管障害・糖尿病など合併症のある中等度以上の場合
    睡眠時に鼻マスクを介し、空気を気道に送り込む療法。閉塞した気道を広げ、呼吸可能になります。
    ・CPAP治療は、自宅で行うことができ、月に1度の診察のみ
    ・CPAPには健康保険が適用され、自己負担額は月々5,000円程度
  • マウスピース:軽度から中等度の症状や軽いいびき症、CPAP使用が困難な場合
    ・CPAPに比べ簡便、電源がなくても使用可
    ・マウスピース治療は、保険適用外
  • 外科手術:アデノイドや扁桃肥大など気道閉塞の原因の場合(子どもや成人で肥満でない場合)
  • 減量:SASの7割は肥満で、減量が有効

SASの予防

 一番の予防策は生活習慣の改善です。

  1. 肥満解消
     軽度SASの場合は肥満を解消することで大幅な症状改善が見込めます。肥満を改善しなければ、治療しても、効果が出ない場合があります。
  2. 就寝前のアルコール制限
     就寝前のアルコール摂取は症状を悪化させる可能性があります。アルコールは筋肉を弛ませるので、舌で上気道を塞ぐために発症します。寝酒の習慣がある方は摂取を控えることをお薦めします。
  3. 就寝時の姿勢改善
     横向きに就寝することや自分にあった枕を使う事をお薦めします。仰向けの場合、重力で舌が喉の奥に落ちやすく、舌が上気道を塞いでしまいます。寝返りで仰向けに戻らない様に、片側半分に折り畳んだタオルやシーツを挟み入れ傾斜をつけるなどの工夫をすると良いでしょう。
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