セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

逆流性食道炎

2013年12月 掲載

 年末年始にかけて飲み過ぎ、食べ過ぎてしまうシーズンです。胸やけや胃もたれもそのせいと軽くみてしまいがちです。しかし、その症状が長く続く場合は「逆流性食道炎」の可能性があります。これは、何らかの原因で胃酸が食道に逆流し、食道粘膜が炎症を起こす病気で、食生活の欧米化やストレスの増大などから罹患者が増えています。重症の場合は手術をしますが、ほとんどの場合は薬で治療することができます。

定義

 胃酸が食道に逆流し、食道粘膜を傷つけたり胸やけを引き起こす病気を胃食道逆流症(gastro-esoph-ageal reflux disease;GERD)といいます。逆流性食道炎は、GERDのうち食道炎を伴うものです。

症状

 代表的な症状は胸焼けです。胸焼けはみぞおちの辺りから胸の下のほうへかけて、焼けつく、あるいは、熱くなるような不快感があります。また、喉まで上がる感じがあり、痛みをともなう場合もあります。その他には、呑酸(どんさん)(口まで酸っぱい液がこみあげる)、げっぷ、胸痛、胃もたれ、喉の違和感、声のかすれ、咳・気管支炎、耳の痛み等があります。

原因

 男性では中年以降、女性は高齢者に多くみられます。食物を大量に食べた後や高脂肪食や甘いものを食べた後に起こりやすくなります。また、最近ではピロリ菌の関与もあると言われています。

胃酸の逆流を発症しやすい人のタイプ

脂肪の多い食事、食べ過ぎ脂肪の多い食事では胃に刺激されやすく、胃酸分泌も活発になる
タンパク質の多い食事タンパク質の多い食事は消化に時間がかかり、胃に長くとどまるため、胃液の逆流が起こりやすくなる
背中が曲がっている前かがみ姿勢による腹部への圧迫が胃を押し、胃酸の逆流
加齢食道機能低下(食道裂孔のゆるみ、下部食道括約筋の機能低下)により胃酸の逆流
薬物喘息、血圧、心臓の病気などに使う薬物の中には、下部食道括約筋をゆるめる作用を持つ物がある
妊婦腹部拡大で胃が押され、胃酸逆流
肥満腹部脂肪の増加で胃が押しあげられ、胃酸逆流
ピロリ菌の除去治療を受けたピロリ菌は胃酸分泌を減少させる
菌除去治療で、本来の胃酸分泌能力が回復し、胃酸分泌が活発化

診断

 内視鏡検査が行われます。この検査は最も信頼性が高い方法で、口から細い管(内視鏡)を入れて食道の粘膜の状態を直接観察します。その他は、24時間pHモニタリング検査、食道内検査(食道のぜん動運動や下部食道括約筋の働きをみる)、エックス線検査(レントゲン検査)等があります。また、Fスケール問診票を使用したセルフチェックがあります。これは、12項目の簡単な質問の答えを点数化し、その総合計点数で評価するもので、総合計点数が8点以上になれば、逆流性食道炎の可能性が高いとされます。

Fスケール問診票(FSSG : Frequency Scale for the Symptoms of GERD)

質問ないまれに時々しばしばいつも
Q1   胸やけがしますか?01234
Q2   おなかがはることがありますか?01234
Q3   食事をした後に胃が重苦しい(もたれる)ことがありますか?01234
Q4   思わず手のひらで胸をこすってしまうことがありますか?01234
Q5   食べたあと気持ちが悪くなることがありますか?01234
Q6   食後に胸やけがおこりますか?01234
Q7   喉(のど)の違和感(ヒリヒリなど)がありますか?01234
Q8   食事の途中で満腹になってしまいますか?01234
Q9   ものを飲み込むとつかえることがありますか?01234
Q10  苦い水(胃酸)が上がってくることがありますか?01234
Q11  ゲップがよくでますか?01234
Q12  前かがみをすると胸やけがしますか?01234

【出典】Kusano M, et al : J Gastroenterol39 : 888-891, 2004 

治療、予防

 逆流性食道炎の治療は生活習慣の改善と内科的治療(薬物治療)が中心になります。他には手術や腹腔鏡などの外科的治療があります。

1)生活習慣の工夫
 治療に最も大切なのは、逆流性食道炎を起こす生活習慣を変えることです。特に、食事、姿勢、服装などに注意しましょう。
 食事の際には、食べ過ぎない、脂っこい物を過剰にとらないことを心がけましょう。また、食後は一過性食道括約筋弛緩という現象が起き易く、逆流の原因です。食事をした後すぐに横になると、簡単に逆流するので食後3時間位は横になるのは控えましょう。アルコールは、胃酸の分泌を増やすと同時に、食道下部括約筋をゆるめます。またコーヒーや緑茶などは、含まれるカフェインが胃酸分泌を増加させるので控えましょう。
 生活の場面で食事以外の原因で逆流を起こす要因は①腹圧により胃が圧迫される、②食道胃接合部が解放状態の姿勢、の2つです。
 肥満は内臓脂肪のために腹圧を上昇させ、逆流を引き起こします。従って、肥満の解消は非常に有効です。
 前かがみの姿勢、大声を出す、腹部に力を入れる運動、腹部を締め付ける服装は逆流の引き金になります。できる限り回避しましょう。
 夜間の逆流は就寝時に上半身を少し高くするFowler体位が効果的です。Fowler体位とは仰臥位(ぎょうがい=あおむけ)で下肢を水平にしたまま上半身を45度程度上げた半座位の体位です。家庭では座布団を2〜3枚、敷き布団の下に入れて上半身を高めにするなど工夫しましょう。水平での横臥(おうが)では、右下より左下の姿勢のほうが逆流を抑えることが確認されています。
 その他、タバコは逆流性食道炎を悪化させます。

2)内科的治療(薬物治療)
 逆流性食道炎の直接の原因は胃酸です。そのため治療には、「胃酸分泌の抑制」が最も効果的です。他には「酸による刺激を弱める」「中和する」「逆流を起こりにくくする」などがあります。

内科的治療で使用される薬物

薬物 作用 特徴
酸分泌抑制薬 H2受容体拮抗薬(H2RA) H2受容体を阻害し
ヒスタミン(酸分泌刺激物質)作用抑制
副作用が少ない
PPIはH2ブロッカーより作用が強力
プロトンポンプ阻害薬(PPI) プロトンポンプ阻害
粘膜保護薬 痛んだ食道粘膜を胃酸から保護 速効性があり、持続性はない
制酸薬 胃酸の中和 速効性があり、持続性はない(効果は15〜30分程度)
消化管運動賦活薬 食道や胃のぜん動運動を回復させ逆流した胃液を胃へ押し戻す 補助的な薬として使用

注意) H2RAは薬局で購入できますが、3日間飲んでも症状が改善されない場合には、医師または薬剤師に相談することとされています。また、受診された人においては自覚症状が改善しても、食道粘膜のびらん・潰瘍が十分に治らない場合もあります。年に1回は内視鏡検査を受けるなど、再度受診することをお薦めします。

3)外科的治療
 生活習慣や内科的治療をしても治癒しない場合や再発を繰り返す時には、外科的治療を行います。食道裂孔ヘルニアが逆流の主な原因になる場合が多いので、逆流しないように裂孔ヘルニアの修復とゆるんだ噴門を締め直す噴門形成術が行われます。  最近では、腹腔鏡手術が広く行われるようになりました。これは、お腹に小さな穴を開け、そこから内視鏡の一種である腹腔鏡を入れて手術をする方法で、開腹術に比較し患者の負担をかなり軽減します。

逆流性食道炎と似た症状がある他の病気

狭心症
 狭心症の発作と逆流性食道炎で起こる胸の痛みは似ているため、注意が必要です。原因は食道への強い酸の刺激によるものと考えられています。運動の後に起こるのは心臓由来、食後に起こるのは食道由来の事が多く、痛みを握りこぶしで叩くように表現するのは心臓由来、手のひらでさするように表現するのは食道由来の可能性が高いですが、必ずしもこれらで区別できるとはかぎりません。

食道癌
 逆流性食道炎による食道粘膜のびらんや潰瘍と、食道癌の病変は、見分けがつきにくいことがあります。胸やけなどの症状がある時には、内視鏡検査や組織の検査を受け、食道癌と区別を行うことが必要です。

合併症

●バレット食道
 バレット食道とは、食道の粘膜の表面にある「扁平上皮」という組織が変質し、胃の粘膜に似た「円柱上皮」という組織に置き換えられてしまう病気です。これは胃の内容物の逆流が繰り返されることで起こると考えられており、逆流性食道炎の合併症といえます。
 バレット食道自体は悪性ではありません。しかし、食道腺癌につながる危険性があると欧米では考えられています。日本では、それらの関係は不明としていますが、定期的な検査を勧めています。バレット食道を予防するためには、逆流性食道炎をきちんと治療することが大切です。

●睡眠障害
 睡眠障害は高頻度に見られます。睡眠障害の原因は逆流のため度々、夜中に目が覚めるからです。詳細は不明ですが横向きになると(寝る)、胃酸が逆流しやすくなり、胸やけや呑酸といった症状が起こりやすくなるためです。

●慢性的な咳や喘息症状
 原因は逆流による食道への刺激、または逆流物の一部が肺へ入って炎症を起こしてしまうからです。喉の違和感(喉に何かが詰っているような感覚)、風邪ではないのに声がしわがれる、声帯にポリープができるといった症状がみられることがあります。これは、喉の違和感に対して、「咳払いをする」癖がつき、声帯に強い力が持続的に続いてしまい発生すると考えられています。しかし、咳症状は逆流以外の原因でも発生するので、判断は慎重に行う必要があります。

●貧血 炎症が起きた部分から出血することで起こります。

●虫歯 胃液が口まで逆流することで起こります。

●中耳炎 寝ている間に胃液が咽頭に逆流し、耳管を介して中耳に流入し発症しますがかなりまれなことです。

■この症状はどうすればいい?

症状詳細な症状考えられること(可能性)対応
胸痛飲み込む時に痛い食道炎、食道癌受診をお薦めします
脊髄から肋骨にかけて痛い
痛む部位は限局的で、時間は短い
肋間神経痛受診をお薦めします
発作的で、痛みは持続しない(6分内)
胸の不快感や苦しさを伴う
狭心症受診をお薦めします
げっぷ、胃もたれ,
胃痛、吐き気
突然、差し込む様に強く痛む
夜間、空腹時に見られ、食事で楽になる
胃潰瘍、十二指腸潰瘍受診をお薦めします
食べ過ぎて吐き気がする過食で消化不良胃腸薬
(消化薬、消化管運動調整薬)
発熱、発疹を伴うはしか等の感染症受診をお薦めします
耳、喉の痛み耳の奥や喉、顔が痛い神経痛(舌咽、三叉、迷走)受診をお薦めします
耳の痛み、発熱、聴力低下急性中耳炎受診をお薦めします
声のかすれ咳や痰、胸痛、血痰、呼吸困難、発熱を伴う肺結核受診をお薦めします
発熱、咳、咽頭痛咽喉頭炎受診をお薦めします
咽喉違和感、鼻血、悪臭のある鼻水、複視、目のかすみ、耳痛咽頭痛受診をお薦めします

胃食道逆流症に関連する記事

知っておきたい治療薬 胃食道逆流症(GERD) 日本消化器病学会
http://www.jsge.or.jp/citizen/now/pdf/now39.pdf#page=4

患者さんと家族のための 胃食道逆流症(GERD)ガイドブック 日本消化器病学会
http://www.jsge.or.jp/citizen/kouza/pdf/01_gerd.pdf

■薬の検索方法  医薬品情報が簡単に検索できるiyakuSearchを公開しています。

一般財団法人日本医薬情報センターJAPIC(Japan Pharmaceutical Information Center)
http://database.japic.or.jp/ctrl/attDocsForm

oyakuSearchPlus

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PMDA http://www.info.pmda.go.jp/などでも検索できます。

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