セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

痛風

(2014年05月 掲載)

 痛風は、体内に尿酸と呼ばれる物質が血液中に異常に増加し、蓄積されることから起こる病気です。一度罹患すると完治は難しいとされ、日常の生活習慣を見直し、発症を防ぐことが大切です。

発症の過程

 人の体は細胞の全てに遺伝子(核酸)が組み込まれています。尿酸は、細胞の遺伝子を構成する重要な物質であるプリン体が肝臓で分解されてできる老廃物で、腎臓から尿と一緒に排泄されます。通常の血液中の尿酸値は、6 mg/dL未満にコントロールされています。しかし、何らかの原因で分泌が過剰になったり、排泄する機能が低下するなどバランスが崩れると、尿酸量が増えてしまいます。尿酸は溶けにくいので、血中に過剰になると、尿酸塩という結晶になります。

 尿酸値は7 mg/dLを超えると、痛風の前段階である高尿酸血症と診断されます。長期間、高尿酸血症が持続すると関節滑膜1)の部位に尿酸塩の結晶が析出します。この結晶が関節腔内に剥がれ落ち、白血球が貪食することで痛風関節炎を発症します。高尿酸血症の約10%は痛風へ移行するといわれています。
 痛風になると、食事療法や薬を使用し常に尿酸値を意識しなければなりません。また、動脈硬化や心筋梗塞、糖尿病などの病気を合併することがあります。
 関節滑膜1):関節を包む2層の膜のうち内側の膜

症状
表1. 痛風発作を発症させ易い部位の状態
耳や手足など温度(体温)が低い部位
よく動かしたり、負荷がかかりやすい部位
酸性度合いが高い部位
タンパク質の少ない部位
力学的刺激を受けやすい部位
血流に乏しい部位

 症状は「痛風発作」と呼ばれ、局所の熱感、腫脹、発赤と激しい疼痛を伴う急性単関節炎です。これら痛風の典型的症状は、足の親指の付け根(関節部分)に現れ、この部位は炎症全体の7割を占めています。その他、痛風発作は表1の状態に陥り易い部位(アキレス腱、足の甲、かかと、くるぶし、足の関節、膝、肘、手首、指などの関節や耳介)に発症しやくなります(図1)。

図1. 痛風発作が起こりやすい部位

図1. 痛風発作が起こりやすい部位

痛風の経過

 痛みは時間とともに激しくなり、24時間でピークに達します。軽症の場合、痛みは2−3日で終わります。ただし、1−2週間痛みが継続することもあります。
 発作が終わると、炎症部分が紫に変色し、皮がむけます。2回目以降は、手や指や足首、膝など、足の親指以外の場所に現れることもあります。発作間隔は次第に短縮され、痛む時間は長くなります。慢性状態(数年間、痛風発作を繰り返す)になると手足の節々がふくれ、こぶ状に変形して、手足の曲げ伸ばし等の日常動作に支障がでてきます。また、尿酸塩が腎臓に蓄積されると、痛風における重篤な慢性合併症である痛風腎となります。痛風腎とは痛風に最も高い頻度で合併症として発症する高血圧、糖・脂質代謝異常による腎障害です。

原因

 性別、年齢、遺伝体質、生活習慣など様々な因子が絡み合い発症します。

‣性別、年齢、遺伝体質

 痛風は圧倒的に男性に多いのが特徴で、特に40−50歳代に多く見られます(最近では若い時期に発症し、そのピークは30歳へと移行する傾向にあります)。女性が罹患し難いのは、女性ホルモンが尿酸の尿中排泄を促すためです。よって、女性ホルモンの分泌量が減少する閉経後は、女性も痛風を発症しやすくなります。
 痛風は遺伝的要因も考えられ、親や家族に高尿酸血症の人がいる場合は、発症の確率が高くなります。

‣生活習慣

 食事から摂取されるプリン体は体内で尿酸に代謝されます。そのため、栄養の過剰摂取やアルコールの飲み過ぎなどが原因で痛風になります。肥満は尿酸の代謝機能を低下し高尿酸血症を発症させ、痛風につながります。同様に肥満は脂質異常症の原因にもなり、痛風発症の引き金にもなります。

 『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』では、食品をプリン体含有量に応じて4つに分類しています(表2)。

表2. プリン体含有量の基準

表2. プリン体含有量の基準
対策・生活指導

 高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインによる生活指導は、食事療法、飲酒制限、運動の推奨です。

‣食事療法
 食事療法の指導内容は「プリン体の制限」から「総エネルギーの制限」に変わってきました。肥満を解消させることは血清尿酸値の低下、インスリン抵抗性の改善や内臓脂肪蓄積の防止など、長期予後に改善効果が期待されるからです。従って、肥満傾向にある患者の食事療法は糖尿病治療に則した摂取エネルギーの適正化を主眼にします。また、これまではプリン体過剰摂取を避けるために低蛋白・高炭水化物食が勧められてきましたが、高尿酸血症・痛風患者に高頻度にみられるインスリン抵抗性の面から考慮すると、高炭水化物食はインスリン抵抗性を増悪させるので避ける方が良いとされています。
 極端な食事制約はストレスになり長続きしません。過食に注意すれば、あまり神経質になることはありません。それよりも大切なことは、動物性や植物性蛋白質、糖質、脂質、ミネラル、ビタミン等の栄養バランスのよい、適正なエネルギーを守った食事内容を継続する方が重要です。但し、プリン体のとり過ぎを防止するためにも食品のプリン体含有量を把握することは必要です。表3には食事への配慮を、図2は食品のプリン体含有量を示したので参考にして下さい。

目 標対 象理 由
プリン体としての1日摂取量が400mgを超えない高プリン食を極力控える・毎日の食事を厳密な低プリン食に徹底するのは困難
アルカリ性食品の摂取野菜中心の栄養バランスの良い食事・プリン体含有量の低い食品が多い
・尿の中性化に有効。尿酸の尿中での溶解度を高める
尿量を2,000mL/日以上確保十分な水分摂取・尿酸の尿中飽和度を減少させる
摂取エネルギーの適正化高炭水化物食を避ける・高炭水化物食はインスリン抵抗性を増悪させる
乳製品の摂取積極的に摂取・血清尿酸値を低下させ、痛風のリスクも増加させない
メタボリックシンドロームにならない体づくりショ糖・果糖の過剰摂取を避ける・摂取量に比例し血清尿酸値の上昇、痛風へのリスクも増加
・メタボリックシンドロームの有病率が増加
・果糖の過剰摂取は尿路結石の形成を促進
インスリン抵抗性とは⇒標的となる細胞でインスリンが効きにくい状態にあること

図2. 食品のプリン体含有量(100gあたり)

(総プリン体量:高尿酸血症・通風のガイドライン 2010年版)

図2. 食品のプリン体含有量(100gあたり)

‣飲酒制限
 最近の疫学調査において、摂取する飲酒量の増加に伴い、血清尿酸値が上昇し、痛風の発症頻度が増加すると報告されました。プリン体の有無にかかわらずアルコール飲料は、尿酸排泄を滞らせ血清尿酸値を上昇させます。特にビールについては、痛風のリスクと最も強く関連していることがわかってきました。ビールはプリン体を多く含有すること、他の酒類よりも高エネルギー飲料で、肥満を助長する場合があるなど、注意が必要です。以上のことから、アルコール飲料に関しては種類を問わず、過剰な摂取は厳に慎みましょう。
 血清尿酸値への影響を最低限に保つ目安量としては1日、日本酒1合、ビール500mL、またはウィスキー60mL程度と言われています。

‣運動の推奨
 痛風の人には食事療法に加えて運動療法は有効です。但し、心臓に負担をかけるので心疾患の方は注意しましょう。目標は適正な体重(BMI<25)、週3回軽度な運動を持続して行うのがよいでしょう。有酸素運動で体脂肪が減少すれば、高尿酸血症・痛風患者に合併しやすいメタボリックシンドロームの様々な病態を改善させます。一方、無酸素運動や激しい運動は血清尿酸値の上昇を招き、痛風の引き金になります。過激な運動で汗をかくと、体内水分が失われ、血中尿酸値が高くなるからです。
 尿酸値が高く痛風の心配がある人が運動をする時は、運動前にも運動中にもしっかり充分に水分補給し、長時間かけてゆっくりしたペースで行いましょう。

治療

 肥満や生活習慣病がある場合は生活指導を実施し、改善が見られない場合は薬物療法を実施します。
 治療は「痛風関節炎・痛風結節の治療;痛風発作時」と「高尿酸血症の治療;発作のない時期」の2つに大きく分けられます。

‣「痛風関節炎・痛風結節の治療;痛風発作時」の薬物治療
 痛風の急性関節炎の痛みは激しいため、QOLを著しく低下させます。したがって、発作時の治療目的は苦痛除去とQOLの改善です。さらに、痛風の原因となる高尿酸血症の長期治療への導入です(痛みの鎮静化をもって治療の終了ではないと認識することが重要です)。 以下に「痛風発作時の薬物療法」を示しました。

痛風発作時の薬物療法

痛風発作時の薬物療法
    • 発作中はできるだけ患部の安静、冷却、禁酒を行う。
    • アスピリン喘息などでNSAIDが使用できない、NSAIDが無効、多発性に関節炎を発症した場合は副腎皮質ステロイドを服用する。
    • 発作中に尿酸降下薬を開始しない(発作中の血清尿酸値変動は発作を増悪させることがある)。
    • 痛風発作にアスピリンは避ける(鎮痛作用をもつ量では血清尿酸値を低下。発作中の使用は発作の増悪をきたす)。
    • NSAID副作用に注意する。

 痛風関節炎に適応のある非ステロイド抗炎症薬(NSAID)はインドメタシン、ナプロキセン、オキサプロジン、プラノプロフェンです。

‣「高尿酸血症の治療;発作のない時期」の薬物治療
 尿酸降下薬は作用機序の違いにより,尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬に分類されます。 それぞれの適応を以下に示します。

尿酸降下薬の種類一般名適応
尿酸排泄促進薬・プロベネシド
・ブコローム
・ベンズブロマロン
・尿酸排泄低下型
・副作用でアロプリノールが使用不可
尿酸生成抑制薬・アロプリノール・尿酸産生過剰型
・尿路結石の既往ないし保有
・中等度以上の腎機能障害
・副作用で尿酸排泄促進薬が使用不可

予防のための具体例

  • 尿の量は色でチェックし充分な水分を補給(腎臓病や心臓病の人は医師の指示が必要)
    薄い色であれば、しっかりと尿が排泄されている可能性
  • 1日のエネルギーを2000kcalに制限
  • レバーなどを中心にプリン体の多い食品を控える
  • たんぱく質は1食60gに制限
  • 間食を控える

痛風に関する科学的知見や関連情報は下記から得られます

・高尿酸血症の食事 e-ヘルスネット(厚生労働省)
 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-003.html

・健康になる 痛風の食事(日本医師会)
 http://www.med.or.jp/forest/health/eat/10.html

・痛風とは(日本医師会)
 http://www.med.or.jp/forest/check/fla/tsufu/tsufu.html

・症状・病気をしらべる「痛風」
 https://www.joa.or.jp/jp/public/sick/condition/gout.html

・痛風 どんな病気(一般社団法人 日本生活習慣病予防協会)
 http://www.seikatsusyukanbyo.com/guide/12.php

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