セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

口内炎

(2014年06月 掲載)

図1. 口内炎が発症しやすい部位

図1. 口内炎が発症しやすい部位

 口内炎は、口腔内粘膜に発症する炎症の総称です。発症が口腔内の特定部位に限局する場合、その部位の名称で呼びます。唇にできれば「口唇炎」、口角にできれば「口角炎」、舌にできれば「舌炎」、歯ぐきにできれば「歯肉炎」です(図1)。ストレスや疲れがたまって抵抗力や体力が低下した時などに起こり易く、体の異変を知らせるサインともいえます。口内炎ができた場合は、生活習慣を見直す事も必要です。




種類

 口内炎は原因により種類などが異なります。それぞれの特徴などを表1 に示します。

表1. 口内炎の特徴・原因・治療
名 称 症状の特徴 原 因 治 療
アフタ性 口唇、頬粘膜、舌、歯肉などの口腔粘膜に辺縁明瞭な円形の潰瘍を形成。自発痛、接触痛、灼熱感がある。通常1週間前後で自然治癒する。 ・免疫力の低下
・口腔粘膜の損傷
・ストレスや栄養障害
・ベーチェット病などの全身性疾患の症状
免疫力を高める。細菌の増殖を防ぐため、消毒剤での含嗽
ウイルス性
(ヘルペス性・カンジダ性など)
発熱、食欲不振、全身倦怠感など1週間の潜伏期があり、後に小水疱が多発し、破れてびらんとなる。円形ないし楕円形を呈し、接触痛が強く、易出血性で口臭がある。カンジダ性口内炎の場合は、口の中に白いこけ状の斑点ができる。 ・単純疱疹ウイルス(HSV-1)感染
・水痘帯状ヘルペスウイルス
・コクサッキーウイルス A群 など
アシクロビルやビダラビンなどの抗ウイルス薬
カタル性 よくみられる口内炎。発赤を主病変とし、灼熱感、刺激痛などを伴う。通常、一週間で治癒。 ・虫歯、入れ歯の不具合
・やけど
・口腔粘膜の損傷
・薬品の刺激 など
原因除去と含嗽剤による口腔内清掃
壊疽性 疲労、感冒、微熱、全身疾患で抵抗力低下時に発症。口腔粘膜表面に灰白色の潰瘍を生じ、その拡大とともに壊死が進行。発痛、摂食痛、流唾、口臭がある ブドウ球菌、レンサ球菌、紡錘菌、スピロヘータ、嫌気性菌などの口腔常在菌が潰瘍面に二次感染すると考えられているが、真の原因は不明。 全身状態回復のため補液と抗生物質の投与。口腔内の清掃、消毒剤での含嗽
潰瘍性 潰瘍はびらんより深い上皮下結合組織の欠損で、治癒後に瘢痕を残す。自発痛、接触痛、口臭、灼熱感。 口腔粘膜の潰瘍は、結核、らい、梅毒、カンジダ症、放線菌症、膠原病(全身性エリテマトーデス)など 原因が明確な場合には原因を除去する。原因不明の場合には対症療法を行う
びらん性 びらんは上皮の変性、壊死から剥離、欠損を生じる炎症性変化の現れで、比較的浅い表在性の上皮の欠損をいう。口中の粘膜がただれ、痛みや出血を生じる。 ウィルス、薬物、金属アレルギー ステロイド治療(4週間治癒しなければ天疱瘡を疑い皮膚科へ)

特に注意すべき人

ドライマウス患者、更年期女性、高齢者や乳幼児は注意が必要です。

ドライマウス患者:唾液は、ウイルス、菌類の口内接着を防ぎ、粘膜において外的刺激からの防御作用があります。唾液が減るドライマウス患者には、カンジダ性口内炎を発症している人が少なくありません。

更年期女性:性ホルモンは唾液分泌に影響を与えます。ドライマウス患者は中高年層、主に女性ホルモンが減少する更年期女性に多くみられます。

高齢者:口内の不衛生、入れ歯の不具合で発症することがあります。1番大切な事は口内を清潔に保つ事です。うがい・歯磨き・入れ歯の手入れをこまめにしましょう。

乳幼児:口内炎の痛みをうまく伝えられない場合があります。痛みのため、必要な水分、食事を口へ入れられず、ひどい場合は脱水症状をまねきます。口に物を入れたがらない場合は、口内をチェックしてみて下さい。また、発熱を伴う時はウイルス感染していることもあるので、小児科を受診しましょう。

口内炎と似ている他の病気

 口内炎に罹患した場合、多くは数日から約10日で自然治癒するのが一般的です。しかし、長期間(2週間以上)経過しても治癒しない、徐々に大きくなる、再発を繰り返す、薬を5〜6日用いても改善しない場合は、別の深刻な疾患かもしれません。口腔外科など受診して下さい。他には、歯科、耳鼻咽喉科、皮膚科、内科で受診できる場合もありますので事前に確認の上、早めに受診しましょう。以下に、口内炎に類似した主な疾患の特徴を挙げます。

 白板症・・・カンジダ性口内炎に類似
口腔内粘膜が白色変化する。癌化する可能性があり
特に、舌縁は舌癌に移行するリスクが高い
白い膜がこすってもはがれない
 舌癌・・・アフタ性口内炎と類似
主な患部は舌縁。初期は痛みを感じない。患部は白と赤が混在している色調で、口腔癌の約50%以上を占める。早期発見治療で90%以上が治癒可能

薬の選び方

現在市販されている口内炎の薬は、パッチ(貼り薬)・軟膏・スプレー薬などがあります。症状や使いやすさ等、その時の症状に合った薬を選びましょう(図2)。口内炎の薬は他の薬に比べ使用方法など特別な場合があります。適切な薬剤、使用方法などを薬剤師に是非、聞いて下さい。適切な状態での使用が痛みをかなり和らげ、早期の治癒に繋がります。

図2. 薬の選び方

図2. 薬の選び方

口内炎の薬には抗炎症、粘膜保護、殺菌消毒成分などが含まれています(表2)。

表2. 口内炎で使用される薬成分
図2. 薬の選び方
*:リゾチーム塩酸塩・・・鶏卵アレルギーの人は禁忌

貼り薬:刺激から患部をカバーし、鎮痛する。成分が持続的に作用。子供は飲み込む危険があり使用は避ける
軟膏: 炎症表面に膜を作って患部を保護するため、鎮痛効果も併せ持つ
スプレー薬:手を汚さず簡単に届きにくい患部へ噴射塗布
トローチ:舐めることで成分が溶出、口内全体の粘膜に作用
うがい薬:口内を清潔に保つため、殺菌効果のあるものを選ぶ。日常的に使用することで、予防効果が期待される

◎口内炎の原因がウイルスや細菌感染の場合は副腎皮質ホルモン剤(ステロイド性抗炎症薬)の使用は悪化させるので注意が必要

その他
レーザー治療:患部をレーザー照射する。主にアフター性口内炎治療に使用される。患部をピンポイントで治療、治癒も早い

予防

 予防には、ウイルスや細菌への抵抗力をつけることが大切です。その理由は、口内炎の多くは、免疫力が低下している時に発症するからです。免疫力を高めるために、食生活の乱れ、睡眠不足、疲労やストレスの蓄積などに配慮するなどして生活習慣を改善しましょう。  日頃から栄養状態を良好に保ちましょう。食生活の改善は免疫力アップに繋がります。特に、たんぱく質、ビタミンA、B群、Cは体の抵抗力を強め、感染防止効果があります。脂肪の少ない肉類やEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)を豊富に含んだ青背の魚などで蛋白質を摂取し、緑黄色野菜を食べてビタミン類を補給します。じゃがいものビタミンCは、加熱調理しても壊れにくいのが特徴です。体内に入るとビタミンAに変化するβ-カロテンが豊富なかぼちゃなどとともに、積極的に取るようにしましょう。強いストレスがかかると、ビタミンB2 やB6 不足をまねき易いのでストレスをためないようにしましょう。不足しがちなミネラルは、きのこや海藻に多いので、食事に取り入れるとよいでしょう。
     参考
     ビタミンA:人参・かぼちゃなどの緑黄色野菜、ウナギ、レバーなど
     ビタミンB:牛乳、チーズ、卵、魚、豚肉、レバー、大豆製品など
     ビタミンC:柑橘類、いちご、ブロッコリー、パプリカなど

 予防にさらに大切なのは、口内を清潔に保つことです。うがいによる口内衛生は、風邪予防にもなります。最初に3回程度口をすすいで、食べ物の残りかすや細菌を洗い落としてから、数回うがいをします。このような、習慣が身に着けば、特にうがい薬を使う必要はありません。また、食後の歯磨きも口内衛生に有効です。ハブラシのブラシ部分が小さめのものを選びましょう。歯を一本一本、丁寧に磨けます。力を入れ過ぎると歯肉を傷付けるので、毛先を歯の表面に軽くあて磨くのがよいでしょう。歯間ブラシやデンタルフロスを使い、よごれの落ちにくい歯間もしっかり磨いて下さい。

口内炎に関する科学的知見や関連情報は下記から得られます。

・「口内炎」健康の森「日本医師会ホームページ」(日本医師会)
 http://www.med.or.jp/forest/check/konaien/01.html

・「口の中のトラブル」(公益社団法人 日本口腔外科学会)
 https://www.jsoms.or.jp/public/soudan/kouku/

・「口内炎」(日本口腔・咽頭科学会)
 http://www.jssp.umin.jp/guide/qa_5.html

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