セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

過敏性腸症候群

2014年08月 掲載

 過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、腸管、主に大腸の機能性疾患で、腹痛と便通異常が慢性に持続し、「排便により症状が軽快する」「便通異常などの症状を理由づける器質的病変は腸管などに存在しない」という点が特徴です。この疾患は、心理社会的因子との関連も強く、心身症の代表的な疾患の一つです。

 IBSは、機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders; FGIDs)の一つに分類されます。このFGIDsの中で、他には慢性機能性便秘症(便秘)、機能性胃腸症(機能性ディスペプシア、functional dyspepsia;FD)などが含まれます。

発症頻度

 健常成人の15〜20%、そのうち30〜50%が医療機関を受診しています。思春期の女性、40歳代男性などに多い現代病の1つで、患者さんの生活の質(QOL)を障害し、生活や仕事に支障を来すことも多く、最近注目されています。

症状
 過敏性腸症候群は、その症状から大きく分けて3つのパターンに分類できます。
症状のパターン特徴
下痢型
  • 慢性の下痢が1日何回も起こる。1回の排便量は少なく、便意が強いにも関わらず十分排便できないため、残便感がある。
  • 血便はなく、また下痢による体重の減少は見られない。
便秘型
  • 腹痛があって便意をもようして、トイレに行っても便が出にくく、出てもコロコロとした便しか出ない。
  • 一般的に女性に多く見られる。
交替型
  • 数日間泥状便、水様便、粘液の混じった便などの下痢が続き、その後は、便秘やコロコロとした便が出るなどの症状を交互に繰返す。

 「症状のパターン」の全てに起こり得る症状:
  • 排便で軽快する傾向のある下腹部の痛み、不快感、おなら、腹鳴(お腹がゴロゴロ鳴る)、膨満感、吐き気など
  • 自律神経失調症状(めまい・頭痛・動悸・肩凝りなど)
  • 精神症状(不安感・落ち込み・イライラ・不眠など)
原因

 IBSの病因は、「消化管の運動異常」「内臓知覚過敏」「心理的要因」の3つが相互に関連していると考えられています。ストレスにより消化管の運動異常は増悪され、消化管の内臓知覚が大脳辺縁系に伝達され、腹痛・腹部不快感と同時に、抑うつや不安などの情動変化が誘発され、さらに消化管の運動異常を悪化させるのです。消化器はストレスによって影響を受けることはよく知られ、「ストレス→脳→消化器」と考えられますが、反対に「消化器→脳→情動」という経路も重要です(脳と腸の機能的関連、脳腸相関と呼ぶ)。下図で説明をします。


 ストレスがかかると視床下部で副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin releasing hormone; CRH)が放出されます。ストレス反応に深い関与を持つCRHは、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone; ACTH)分泌を活性化します。ACTHは糖質コルチコイド分泌を促し、ストレスに対して様々な生体反応を起こします。しかし、この生体反応も長期間続くと悪影響を及ぼし、病気の原因となるのです。
 ストレスで発生したCRFはCRF type 2受容体を介して上部消化管(胃・十二指腸)の運動を抑制、一方、CRF type 1受容体の活性化は下部消化管(結腸)の運動を亢進すると考えられています。この副交感神経の興奮はすなわち、平滑筋の収縮を起こすわけです。これは“脳腸相関”と呼ばれています。“脳腸相関”は脳から腸への反応だけでなく、腸から脳への伝達もあると考えられています。消化管内腔の粘膜細胞が刺激されると、迷走神経下神経節を介し延髄孤束核へ、また、脊髄後根神経節を介して皮質・視床へ伝達されます。これは内臓知覚(visceral sensitivity)といわれています。
 IBSは内臓知覚が過敏に反応することも一つの原因であると考えられています。その知覚の情報伝達にはセロトニン受容体が関与していると推測されます。また、ストレスにより分泌されるCRFが誘発する下部消化管運動亢進にもセロトニンが関与しているとされています。
 以上のようにストレスがIBSを誘発させたり、悪化させたりすることが解明され、ストレスと“脳腸相関”や“セロトニン受容体”の観点からその治療薬の開発が進んできています。

診断・検査
 診断にはRomeIII基準が用いられています。特徴は腹痛や腹部不快感という腹部症状が重視されている点で、その症状が排便状況や便の性状の変化により悪化および改善する点が重要です。
Rome型巴粘霆
反復する腹痛または腹部不快感が、最近3ヶ月のうち少なくとも1ヶ月に3日以上存在し、しかもそれらの症状が以下の3つのうち2つ以上を伴うこと
   (1) 症状が排便により軽快する
   (2) 症状の発現が排便頻度の変化を伴う
   (3) 症状の発現が便性状の変化を伴う
◎症状は診断時より少なくとも6ヶ月以前に発現し、少なくとも最近の3ヶ月において診断基準を満たすこと
 検査は、一般的な検便、検尿、血液検査(白血球、炎症反応、血液生化学など)、腹部レントゲン検査、大腸透視、大腸内視鏡検査などがあり、器質的病変(腫瘍、潰瘍、炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎など)がないことが前提となります。
治療

・薬物療法
下記の薬剤を単独または組み合わせて使用します。
 a. 腸管機能改善薬
 b. 下痢・便秘の緩和薬
 c. 抗不安薬、抗うつ薬、自律神経調整薬

 今年7月には、国内初の「過敏性腸症候群(IBS)の再発症状改善薬」効能を持つスイッチOTC医薬品要指導医薬品**として一部地域で発売されます。有効成分のトリメブチンマレイン酸塩は腸管運動が亢進している時は抑制し、低下している時は亢進させるという作用を持ち、腸の動きを正常化します。効能はIBSの諸症状の緩和(腹痛又は腹部不快感を伴い、繰り返し又は交互にあらわれる下痢及び便秘(以前に医師の診断・治療を受けた人に限ります))です。

スイッチOTC医薬品それまでは医療用医薬品であった成分の有効性、安全性などに問題がないと判断され、薬局で店頭販売できる一般用医薬品に転換(スイッチ)された薬物。
要指導医薬品**医療用から一般用に移行して間もない薬で、発売から原則3年間は薬剤師による対面での情報提供や指導を通じた販売が義務付けられている。

・心理療法
 IBSは、心理的要因が発症に深く関与しているため、心身医学的治療や心理療法などが用いられることもあります。

こんな症状に注意!
 便秘や下痢と思っても、IBSや深刻な病気が潜んでいることがあります。長期間続く腹痛・腹部の不快感・下痢・便秘などは、消化器科を受診しましょう。
 IBSの可能性
  • 何週間も下痢や便秘が続いている
  • 便秘がちで、便の形はウサギの糞のようなコロコロした状態
  • 下痢と便秘が交互にあらわれることがある
  • お腹の痛みや不快感は、排便をするとやわらぐ
  • 排便後も、まだ便が残っている感じがする
  • 朝出かけるときにはお腹の調子が悪くなり、帰宅時には症状が治まる
  • 休日や遊んでいる時、睡眠時には症状が治まることがある
  • 神経質で几帳面である

IBSと症状が類似している病気
疾患名便の性状病状
大腸ガン血便、細い便結腸や直腸などにできるガン
大腸ポリープ血便大腸の粘膜にイボ状やキノコ状の突起ができる
潰瘍性大腸炎血便、粘血便大腸の粘膜に潰瘍ができる
クローン病血便、粘血便消化管に潰瘍ができる
予防
(1) 生活習慣の改善
  • 規則正しい生活を送る
  • 十分な睡眠と休養をとる
  • バランスのよい食事を三食きちんと食べる
  • 適度な運動を行なう
  • 趣味などで気分転換をする
  • リラックスできる時間や空間を作る

(2) 食事(避けたいもの)
 アルコール、カフェイン、香辛料の強いもの、冷たいもの、不規則な食事、暴飲暴食

過敏性腸症候群に関する情報は下記から得られます。
●過敏性腸症候群とは(健康の森 日本医師会HP)
 http://www.med.or.jp/forest/check/kabinsei/index.html
●過敏性腸症候群(IBS)および補完療法について知っておくべきこと
(厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』」「統合医療」情報発信サイト)
 http://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/communication/c03/11.html
●過敏性腸症候群とは(日本消化器病学会)
 http://www.jsge.or.jp/cgi-bin/yohgo/index.cgi?type=zouki&pk=D47

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