セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

(2014年12月 掲載)

 痔とは「肛門や肛門周辺に起こる病気」で、代表的な病気とし、「痔核(じかく)(いぼ痔)」、「裂肛(れっこう)(きれ痔)」、「痔瘻(じろう)」の3種類があります。その中で一番多いのは「痔核」で、成人の半数以上が痔を患っているといわれており、特別な疾患ではありません。男女の差もほとんどなく、10〜20代の若い世代の人でも痔になります。

肛門の形態と働き(右図)
肛門の形態と働き

 肛門は肛門管ともよばれ消化器管の最末端にあります。直腸粘膜とおしりの皮膚がつなぎ合わさる部分を「歯状線」と言います。お尻の穴から歯状線の間の皮膚の部分を「肛門管上皮」と呼びます。肛門の内側には内肛門括約筋が、外側には外肛門括約筋が存在し、前者は不随意運動、後者は横紋筋が協力して随意に働き、この両者が協調して肛門を開閉しています。よって、肛門は普段は肛門括約筋で閉じており、排便のときだけ押し開けられます。
 肛門の周辺には、静脈叢と呼ばれる細い静脈血管が網の目の様に発達しており、排便のたびに血管も引き延ばされたり、縮んだりを、繰り返しています。長いあいだの繰り返しには、弱くなった静脈血管は弾性を失ってしまい、もとに縮まなくなり、コブ状に隆起します。この静脈のコブが痔の正体です。痔はその発症部分で痛みの感じ方が異なります。それは、歯状線より上は自律神経が、下は知覚神経が支配しているためです。

痔核
痔核

 いぼ痔とよばれ、肛門周囲の静脈叢がうっ血して一部の静脈が異常に拡張し、コブをつくったもの。歯状線を境として、口側(上方)に発生しるものを内痔核、外法(下方)のものを外痔核といいます。その他には中間痔核があり、歯状線をまたがって発症したものです。痔核は痔疾の中でも最も多いタイプです、少し、詳しく見てみましょう。

分類

 痔核には内痔核、外痔核とに分類されます。

内痔核:歯状線より直腸側に発生するコブを内痔核とよび、出血を伴い疼痛は少ない。
痔疾患全体の約80%を占める。
*歯状線より直腸側は知覚神経がないので、内痔核では疼痛が少ない

内痔核の進行度
(内痔核は症状の進行程度において、4度に分類される)
Goligher分類1度2度3度4度
Miles分類1期2期3期
痔核の脱出なし
(肛門管内に少し突出)
 
・排便時に脱出
・自然還納あり
 
・排便時に脱出
・自然還納あり
・用手還納あり
・常時脱出
・用手還納なし
 
症状出血のみ出血、肛門違和感 痔核嵌頓に陥り易く日常生活困難
*自然還納あり:排便が終わって肛門が絞まるとすっと奥に自然に戻っていく
*用手還納なし:手で推しても戻らない・戻ってもすぐに(歩いているだけでも)肛門の外に脱出
*痔核嵌頓:血流障害のため激しい疼痛。脱出・腫脹した内痔核が括約筋により絞扼された状態

外痔核:歯状線より肛門側にできるものを外痔核とよび、出血は少なくひどい痛みを伴う

裂肛
痔核

 切れ痔と呼ばれ、肛門の皮膚粘膜が裂けたり、潰瘍が生じている状態で痛みを伴います。肛門付近の皮膚が切れているため排便時に痛みがあります。そのため排便を我慢するようになると、便は硬くなり、再度裂肛を起こし悪循環となり、その後慢性化します。慢性化したものは治りにくく慢性肛門潰瘍となります。主な症状は排便時の激痛と排便後における持続する肛門痛、少量の出血が特徴です。慢性化し潰瘍化、ポリープを形成すると外科的手術が必要となります。

痔瘻(じろう)

 一般に肛門管および肛門周辺に存在する瘻孔(ろうこう)(組織中の異常な管状欠損)のこと。下痢などで便中の細菌が肛門陰窩1)に入り炎症がおき、化膿すると組織のすきまに膿瘍(膿がたまった状態)を作り、瘻管が開口して膿がでます。膿が出て行った後は症状は治まりますが瘻孔がのこり、膿瘍の内壁からの滲出物を長期間排出します。肛門陰窩から内外に貫通し穴が空き痔瘻(じろう)になります。治療には外科的手術が必要です。若い男性に多く、発熱を伴うことがあります。痔瘻(じろう)の場合は、化膿しているので患部を温めると悪化させます。従って、痔瘻(じろう)の場合は、おしりを冷やすようにしましょう。

肛門陰窩1)直腸と肛門の境目にある歯状線の小さなくぼみ

治療

A.保存療法
痔疾患治療薬

 初期の軽い痔核や裂肛に伴う痛みや出血、痒みなどが適応します。外痔核には軟膏、内痔核には坐薬や注入軟膏を選択して下さい。患部に化膿がない場合は副腎皮質ステロイドが使用できます。また、排便時の出血には止血作用のある成分や組織修復作用のあるアラントインやビタミンA配合を選択します。便秘が原因の場合は、瀉下作用のある内服薬や便秘薬を併用します。慢性化している場合は痔疾患内服薬や便秘薬の併用が効果的です。
下の表を参考にして下さい。

・痔はその種類により使用できる市販薬の成分や剤形が違います。

タイプ使用できる患部の状態使用できる市販薬剤形の種類
内痔核初期(2期位まで)副腎皮質ステロイド薬、抗炎症薬、局所麻酔薬、抗ヒスタミン薬坐剤、注入軟膏、内服
外痔核初期副腎皮質ステロイド薬、抗炎症薬、局所麻酔薬、抗ヒスタミン薬軟膏、注入軟膏の塗布、内服
裂肛単純裂肛副腎皮質ステロイド薬、抗炎症薬、局所麻酔薬、抗ヒスタミン薬、便秘薬坐剤、軟膏、注入軟膏の塗布、内服
痔瘻受診  

注意)内服薬は外用薬の補助として使用して下さい。内服薬の中には瀉下作用を有しているものもあります。下痢気味の人は避けましょう。

・一般的に市販されている痔に用いられる成分

成分分類作用代表的な成分名
消炎成分抗炎症【ステロイド】プレドニゾロン酢酸エステル、ヒドロコルチゾン酢酸エステル
【非ステロイド】グルチルレチン酸、リゾチーム塩酸塩
殺菌消毒成分細菌による感染を防ぐクロルヘキシジン塩酸塩、セチルピリジニウム塩化物水和物
局所麻酔成分痔の痛み・痒みの抑制アミノ安息香酸エチル、リドカイン、ジブカイン塩酸塩
抗ヒスタミン成分鎮痒作用クロルフェニラミンマレイン酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩
鎮痒成分鎮痒作用クロタミン
血管収縮成分出血抑制dl-メチルエフェドリン塩酸塩、テトラヒドロゾリン塩酸塩
組織修復成分傷口修復アルミニウム・クロルヒドロキシアラントイネート、アラントイン
ビタミン類血行改善・創傷治癒を促進トコフェロール酢酸エステル(ビタミンE酢酸エステル)
生薬抗炎症セイヨウトチノキ種子(セイヨウトチノミ)、シコン

◎副腎皮質ステロイド薬での注意
・治療薬には副腎皮質ステロイド配合の有無があります。この成分は炎症を抑える場合に用いますが化膿している時は、悪化しますので使用しないで下さい。
・ステロイドは作用が強ければ、副作用も強く出る可能性があります。長期使用は避けて下さい。1週間から10日使用しても変化がない、または悪化する場合は受診して下さい。
・症状に改善が見られたら、ステロイドの効力の弱いものを使用するかまたは中止し、配合されてない薬に変更しましょう。
・1日の使用回数や量、期間などを正しく守りましょう。

B.手術
1.内痔核(自然還納が不能な場合)
 結紮・切除術(Milligan(ミリガン)-Morgan(モルガン)法)
2.外痔核(疼痛が強く、生活に支障をきたす場合)
 血栓除去術

下記の場合は、受診しましょう。

症状考えられること
痔核が肛門から飛び出しもとに戻らない内痔核が進行し脱肛の可能性
排便時に激痛を伴い排便困難出血がひどい場合は症状が進行している可能性
肛門周辺に膿を出す穴があいている痔瘻のため、手術が必要
患部に化膿や発熱がある感染症の疑いがある
排便時、便に血液が混入直腸ポリープや直腸・大腸がんなどによる出血の可能性

予防

 痔の発症には、普段の生活習慣が大きく関わっています。予防または悪化させないためにも生活習慣の改善とおしりの健康を保ちましょう。

  • 便秘、下痢を起こさない
     バランスの良い食生活を心がける
  • 正しい排便習慣を身につける
     スムーズな便通にするよう癖づける
     トイレを我慢すると、自然な排便ができず、便秘気味になる
  • 水分をこまめに補給する
     便が硬くなる原因の1つに水分不足がある
  • 常におしりを清潔に保つ
  • 長時間いすに座らない、同じ姿勢を続けない(排便時、時間をかけ過ぎない)
     おしりに大きな負担
  • アルコール、香辛料、タバコを控える
     アルコールのとり過ぎやタバコは下痢やうっ血を起こしやすくする
  • お風呂にゆっくりつかる
     血行を良くする
  • ストレスをためない
     精神的な要因でも便秘や下痢をおこしてしまう

痔に関する情報は下記から得られます。

・痔疾(日本消化器病学会)
 http://www.jsge.or.jp/cgi-bin/yohgo/index.cgi?type=50on&pk=D51

・痔とは(健康の森 日本医師会)
 http://www.med.or.jp/forest/check/zi/01.html

■テーマ
  1. 紫外線
  2. 細菌性食中毒
  3. 熱中症
  4. 脳卒中(夏に多発する脳梗塞)
  5. 気管支喘息
  6. ロコモティブ シンドローム(locomotive syndrome):運動器症候群
  7. 睡眠時無呼吸症候群「Sleep Apnea Syndrome:SAS」
  8. 逆流性食道炎
  9. 不整脈「心房細動」
  10. かぜ症候群、インフルエンザと肺炎について
  11. 帯状疱疹
  12. 腰痛
  13. 痛風
  14. 口内炎
  15. 夏に気をつけたいアデノウイルス感染症
  16. 過敏性腸症候群
  17. 食物アレルギー
  18. 緑内障
  19. 食欲不振
  20. かゆみ [皮膚そう痒(よう)症]
  21. 慢性疼痛
  22. ニキビ(尋常性痤瘡)
  23. 尿路結石
  24. 骨粗しょう症
  25. 慢性疲労症候群
  26. 光線過敏症
  27. 冷房病(冷え性)
  28. アトピー性皮膚炎
  29. めまい
  30. ピロリ菌
  31. 虫歯
  32. 受動喫煙
  33. 歯周病
  34. 片頭痛