セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

慢性疼痛

2015年02月 掲載

 近年、人口構造や疾病構造の変化により、慢性疾患を対象とする対策の重要性が高まっています。我が国の慢性疼痛に対する大規模調査を行った結果、13.4%の人が痛みを抱え、その多くは、周囲での理解を得られず、一人で苦悩し生活している実態が明らかになりました。こうした問題意識の下、社会的対策が望まれ、厚生労働省健康局では平成21年に「慢性の痛みに関する検討会」が発足しました。慢性の痛みを来す病気は、筋骨格系、リウマチ疾患、線維筋痛症、複合性局所疼痛症候群等の原因不明のものまで、多種多様です。

慢性疼痛とは

 国際疼痛学会では「治療を要すると期待される時間の枠組みを超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疾患に関する痛み」とされています。すなわち、「痛み」は、けがや病気など、体の異変を驚告する大切なサインで、通常では、病気の治癒過程で痛みも鎮まっていきますが、治癒しても痛みだけが残る、診察しても痛みの原因が不明の場合があります。それが慢性疼痛です。

慢性疼痛の発生メカニズム(図1)

〜末梢・脊髄神経系〜
 「痛み」が慢性化するのは外傷などの急性的なものがきっかけになる場合がほとんどです。慢性的な状態でも末梢組織が傷害されると、神経ペプチド(サブスタンスP(SP)やカルシトニン遺伝関連ペプチド(CGRP))が活性化され損傷部は腫脹し、組織は炎症状態に陥ります。その後、回復とともに線維芽細胞が増生されることにより、線維化や瘢痕化に至ります。瘢痕組織内では痛みに関与する神経ペプチドやサイトカイン、または痛みを伝達する感覚神経線維の発現が見られるため、この瘢痕組織は痛みの発生や維持に関わっているといわれています。傷や瘢痕において神経が再支配(慢性化)する際に、SPやCGRPが増加していることもわかってきました。

〜脊髄機能変化と痛みの慢性化〜
 脊髄は末梢-脳への神経伝達における中継点、すなわち上位に伝達される情報を修飾したり、反射として末梢組織に対して大きな影響を与える役割を担っています。 特に痛み伝達を担っている脊髄視床路細胞は持続的な侵害インパルスの持続により感作や変化を引き起こします。正常な状態では反応しなかった弱い非侵害刺激にも応答を示すようになる他、当初は反応しなかった感覚領域にも過剰に反応を示すようになります。

図1. 脊髄-末梢神経における
痛みの発生と維持のメカニズム

図1. 脊髄-末梢神経における 痛みの発生と維持のメカニズム

原因(図2)
図2. 慢性の痛みとは

図2. 慢性の痛みとは

 心と体、複雑に絡む慢性疼痛は大きく分けて3つの原因があります。

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 変形性膝関節症、関節リウマチなど現在の医療では完治が難しい病気による痛みで、がんの痛みも含みます。

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 神経障害性疼痛と呼ばれ、帯状疱疹などの感染症、交通事故による外傷などの原因で神経が傷つき、痛みが続くものです。糖尿病も病気が進むと末梢の神経にダメージを与えるため、慢性的な痛みを感じる場合があります。

心理的な影響
 中枢機能障害性疼痛と呼ばれ、脳に過剰な痛みを抑えるオピオイド系という神経が、ストレスなどにより機能を失い、軽度な刺激でも激痛を感じるようになります。
 慢性疼痛の中で最も患者数の多い腰痛も、椎間板ヘルニアなど原因が分からないことが多く、中枢機能障害が強く関与すると言われています。
 うつ病は、脳の神経伝達系の機能低下により、心理的な負担や疲労などストレスが発症のきっかけと考えられています。うつ病患者は、体の「痛み」などの身体的症状を訴える場合があり、頭痛、腰痛、肩、首、歯、胃腸などの痛み、胸痛、関節痛など、漠然とした慢性痛です。これらの痛みはうつ病を悪化させる可能性が考えられ、この痛みも中枢機能障害性疼痛の一部とされています。
 さらに、全身に原因不明の痛みを生じる線維筋症も中枢機能に関係していると考えられています。

治療

 痛みを解消するために、痛みの原因を遡って考えてみましょう。とはいうものの、慢性疼痛は上述した3つの原因要素が複雑に絡み合って症状を悪化させている場合もあります。それが、慢性疼痛の治療と診断を難しくしてきました。

〜痛みの専門科へ〜
 原因が分からない場合には我慢せず、痛みの専門診療科のペインクリニックや痛みセンターで相談するのがよいでしょう。痛みの不快な感覚は脳へ記憶されるので、痛みをゼロにするのは難しいものです。従って、痛みの時間を出来るだけ少なくすることは、次の痛みを生まないためにも重要です。適切な指導を受ければ、QOLを少しずつ高めていくことが可能です。

〜生活改善、運動プラス投薬(市販薬)〜
 生活を見直すことも大切です。痛いので外出するのが億劫になり、出ないことでストレスが蓄積し、体の変調症状が悪化するという悪循環になります。1日5分でも負担にならない適度のウォーキングなどに取り組んだり、心理的なアプローチも取り入れ、気持ちが前向きになっていけば症状も軽くなることがあります。
 日本整形外科学会公認ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト(https://locomo-joa.jp/locomo/)では、個々に適した安全な運動ができるよう紹介しています(「ロコモティブ シンドローム」本サイト2013年10月 掲載)参考にしてみてください。

 先に述べましたが、痛みを限界まで我慢することは得策ではありません。市販薬においても鎮痛剤はあります。しかし、効果が出にくいからと増量したり、頻回に服用するなどの行為は薬物乱用に繋がります。薬剤師に相談しながら適切な鎮痛剤を適量使用し、痛みと上手に付き合うことが大切です。市販されている主な薬を下に示します。

市販されている鎮痛薬
分類 一般名 特徴 禁忌
NSIDs
(サリチル酸系)
アスピリン

サリチルアミド

サリチル酸ナトリウム
・微量で血小板凝集抑制作用をもつ

・胃虚弱はアスピリンアルミニウム,
  制酸薬配合薬, アセト 推奨
・痛風患者はイブプロフェン 推奨
消化性潰瘍

出血傾向のある人

アスピリン喘息
NSIDs
(プロピオン酸系)
イブプロフェン
ロキソプロフェンナトリウム
・アスピリンの20倍強力 作用持続時間長い
  (痛風疾患に使用可能
アスピリン喘息
NSIDs
(サリチル酸アミド系)
エテンザミド ・作用増強のためイソブやアセトなど他の
  解熱鎮痛成分と配合される
・胃粘膜障害起こしにくい
  (代謝されサルチル酸にならない)
アスピリン喘息
非ピリン系
(アニリン系)
アセトアミノフェン
アセト
・中枢で作用
・胃粘膜障害, 喘息発作誘発など起こしにくい
・他のNSAIDsを使用し難い時に勧める
・空腹時服用可. 抗炎症作用弱い
・血小板凝集作用なし
アルコール多量飲者
ピリン系
(ビラゾロン系)
イソプロピルアンチピリン
(イソプ)
・中枢で作用, 高熱, 他の解熱
  鎮痛薬で無効の時に使用
・鎮痛作用弱い 抗炎症作用なし
アスピリン喘息

配合剤の種類
配合薬剤 配合目的
無水カフェイン 鎮痛補助
 催眠鎮静成分やヒスタミン成分による眠気予防
 頭痛, 疲労感軽減を目的とし配合
ブロムワレリル尿素
アリルイソプロピルアセチル尿素

乾燥水酸化アルミニウムゲル
合成ヒドロタルサイト
催眠鎮静
 中枢神経抑制作用で, 解熱鎮静作用の増強
 眠気や集中力低下の回避には単味成分の薬剤を選択
制酸
 消化性潰瘍治療薬(酸中和, 胃粘膜保護作用)
ビタミンC
(アスコルビン酸カルシウム)

ビタミンB(チアミン)
ビタミン
 酸化還元反応に関与し酵素を活性化し代謝を
 正常化に保つ. ストレスに対し抵抗力を増強
 ビタミンB1代謝の活性化. 神経痛などに有効


〜内科的治療〜
 神経障害性疼痛や中枢機能障害性疼痛では、一般的な鎮痛剤では効果が得られない場合があります。

 慢性疼痛の内科的治療に使用される薬剤を以下に示します(日本神経治療学会 標準的神経治療-慢性疼痛の内科的治療 治療ガイドライン)。
 第一選択薬⇒三環系抗うつ薬、カルシウムチャンネルα2-δサブユニット結合薬
       セロトニンとノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
       局所リドカイン
 第二選択薬⇒オピオイド系鎮痛薬(短期に限る)
 第三選択薬⇒選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)、抗てんかん薬、
       N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬

 内科的治療の他に心療内科的治療、レーザー照射、神経ブロック、刺激療法等があります。

自分の痛みには鎮痛剤が効かないと諦める前に治療に詳しい「痛みの専門家」と相談しながら自分にあった治療方法を見つけることが大切です。

〜こんな症状は痛みの専門家に相談〜

痛みの専門家に相談

〜痛みとの向き合い方〜
痛みと上手に付き合う生活にチェンジ
  • 痛みを完全になくすのではなく、痛みと上手に付き合う
  • 少しの時間でも運動をする
  • バランスのよい食事をする
  • 今までやりたかったことを始める
  • サプリメントの服用は担当医に相談

■慢性疼痛に関する情報は下記から得られます。
 慢性疼痛学会
 http://www.mansei-t.jp/chairman.htm

 標準的神経治療:慢性疼痛(日本神経治療学会)
 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/mansei.pdf

第1〜3回 慢性の痛みに関する検討会(厚生労働省)
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/s0312-10.html
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/s0601-7.html

今後の慢性の痛み対策について(厚生労働省)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ro8f.html

■薬の検索、副作用など医薬品情報が検索できます。
 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構PMDA
        医薬品医療機器情報提供ホームページ
 http://www.info.pmda.go.jp/

■テーマ
  1. 紫外線
  2. 細菌性食中毒
  3. 熱中症
  4. 脳卒中(夏に多発する脳梗塞)
  5. 気管支喘息
  6. ロコモティブ シンドローム(locomotive syndrome):運動器症候群
  7. 睡眠時無呼吸症候群「Sleep Apnea Syndrome:SAS」
  8. 逆流性食道炎
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  10. かぜ症候群、インフルエンザと肺炎について
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  21. 慢性疼痛
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  33. 歯周病
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