セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

アトピー性皮膚炎

(2015年09月 掲載)

 アトピー性皮膚炎は、遺伝的、体質的な素因と、生活環境や精神的ストレスが複雑に関与して湿疹が現れます。本疾患は良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら慢性化していく皮膚炎で、継続した痒みのため、皮膚をかいてその炎症を悪化させ、さらに痒みが強くなる、という悪循環をしばしば繰り返します。「アトピー(atopy)」という言葉が、「奇妙なこと」「分類のしようがないこと」という意味のギリシャ語「atopia」からきているように、発病のメカニズムは十分には解明されていません。

 アトピー性皮膚炎は、世界的にも、日本国内でも増加する傾向にあり、乳幼児期に始まることが多いですが、近年は小中学生や成人になってから発症するケースも増えてきました。

定義

 「アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因をもつ」と日本皮膚科学会で定義されています。アトピー素因とは(1)家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれか、あるいは複数の疾患)、または(2)IgE抗体を産生しやすい素因のことです。

症状

 多くは乳幼児の頃までに発症し、成長するにつれ軽快していく傾向があります。しかし、最近では、成人してから発症、再発する場合も多くなってきました。強い痒みを伴う湿疹が現れますが、年齢によって発症部位や症状が異なります。

乳児:顔、頭に発赤、かさかさと皮膚がむける、かさぶたのように付着物が生じる
時間とともに体、手足にも広範囲に乾燥、赤みが出て、いずれも痒い
耳切れ(耳の付け根に亀裂)が生じる
成長過程:体の皮膚では、毛穴に一致して軽く盛り上がる
乾燥皮膚(ざらざらしたような感触を与える皮膚)が明確になる
さらに肘の前、膝の後ろにはっきりとした湿疹の局面が出る
成人:主に顔や上半身の発疹
首は、しわに一致して色素沈着が目立つ

アトピー性皮膚炎以外の湿疹との区別

 乳児の湿疹とアトピー性皮膚炎は症状で見分けることは医師でも難しいといわれています。ただし、アトピー性皮膚炎は三つの大きな基準により診断されています。その基準とは、「痒みがある」「特徴ある発疹とその分布」「慢性的に繰り返す経過がある」です。従って、検査だけではなく、症状、経過によって診断されます。繰り返す期間については、乳児では2ヶ月間、その他では6ヶ月間以上とされています。

アトピー性皮膚炎の分布
(日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」より)
  ・左右対側性
    好発部位:前額、眼囲、口囲・口唇、耳介周囲、頸部、四肢関節部、体幹
  ・参考となる年齢による特徴
    乳児期:頭、顔にはじまりしばしば体幹、四肢に下降
    幼小児期:頸部、四肢屈曲部の病変
    思春期・成人期:上半身(顔、頸、胸、背)に皮疹が強い傾向

アトピー性皮膚炎とアレルギー性皮膚炎の違い

アレルギーとは
 異物が体内へ侵入した時、これを撃退する仕組みを免疫反応といいます。生体に有害な免疫反応をアレルギーといいます。アレルギー反応はこれを引き起こす物質等と、対応する人体の免疫防御成分や細胞(IgE抗体やTリンパ球など)の反応様式によって4つの型(?型(即時型)、?型(細胞障害型)、?型(免疫複合体型)、?型(遅延型))に分類され、発症する代表的な疾患も明らかとなっています。

◎アトピー性皮膚炎は、この中の即時型、または遅延型アレルギーに入ります。

皮膚炎とは
 皮膚炎という学術用語は広義の皮膚炎と狭義の皮膚炎の2つがあります。
   1. 広義の皮膚炎・・皮膚に炎症が生じている病態を広く意味する場合
   2. 狭義の皮膚炎・・皮膚の炎症反応の1つの様式である湿疹反応に限定して
             これを意味する場合(湿疹皮膚炎、例:アトピー性皮膚炎)

 通常、広義の皮膚炎の臨床症状を呈するアレルギー性炎症はアレルギー性皮膚疾患と総称されます。
 例:蕁麻疹(皮膚の限局性浮腫である膨疹が多発)や薬疹(薬によるアレルギー性の発疹)

 一方、アレルギー性皮膚炎はアレルギー性炎症によって発症する狭義の湿疹皮膚炎を意味します。
 例:接触皮膚炎(?型アレルギーが関与)やアトピー性皮膚炎(?型と?型アレルギーが関与)

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーとは別のもの

 ・食物アレルギーが、アトピー性皮膚炎の直接の原因にはなりません。逆に、アトピー性皮膚炎が、食物アレルギーの原因になる場合は考えられます。食物(抗原)は、口(消化管)からだけでなく皮膚からも体内に入り、食物アレルギーを誘発する場合があるからです。生後5〜6ヶ月のアトピー性皮膚炎の乳児では、まだ食べていない食物の特異的IgE抗体が検出されることが多く、乳児期早期に皮膚からの感作が起きたと想定されます。

発症の要因

 発症の要因は、遺伝的、体質的なものと環境的、精神的悪化因子が考えられます。
 乳幼児期には食べ物(特に卵)がアトピー性皮膚炎の悪化因子となることがよくあるので、食事に注意が必要です。
 乳幼児期以降はダニ、ハウスダスト、カビなどのアレルゲンがアトピー性皮膚炎に深く関係する悪化因子と考えられます。このような環境的な要素は生活の中の工夫や努力によって減らすことができます。普段からこまめな掃除を心がけ、室内を清潔に保つことが大切です。
 また精神的ストレスにも注意が必要です。親がアトピー性皮膚炎に神経質になりすぎることが、子どもに悪影響を与えているケースもあります。病気にこだわりすぎず、元気でのびのびとした子に育てることが大切です。

 体質は発症の要因になり、代表的なものは以下の2つです。

?アトピー体質:アレルゲンに過敏に反応するアレルギー体質(IgE抗体(免疫グロブリン)をつくりやすい体質)のことである。

?皮膚過敏症:外部からの刺激に対する防御機能が弱い皮膚の状態で、皮膚の乾燥(ドライスキン)とバリアー機能(皮膚の防御機能)の異常がある。皮膚に外部から様々な刺激物質やアレルゲンが加わった場合、アトピー性皮膚炎の症状が出やすくなる。

悪化因子

 症状を悪化させる要因として、アレルゲン、精神的ストレス、気候、発汗、体調、疲労、日光などがあります。

?アレルゲン:ダニやハウスダスト、花粉、カビ、食物などのアレルゲンが原因でアレルギー反応が起こり皮膚に炎症や強い痒みを伴う湿疹がでる。

?ストレス:怒り、不安、欲求不満などの精神的ストレスにより、アトピー性皮膚炎を発症したり、症状が悪化することがある。

?気候:夏には症状が軽くなり、皮膚が乾燥する秋から冬に悪化するパターンが多く見られる。

診断

 アトピー性皮膚炎の症状や程度は一人ひとり異なります。また、アトピー性皮膚炎以外の皮膚病と見分けることが必要です。自己診断はせずに、まずは医師の診断を受けて重症度など病気の状況を正しく把握することが大切です。病院へ行くときには次の項目をチェックしておくと良いでしょう。

受診時のチェック項目
  • 1.症状の現れた時期
  • 2.これまでに受けた治療の有無と内容
  • 3.症状が悪化する時の様子
  • 4.ほかのアレルギー病の有無
  • 5.生活の様子(睡眠、運動など)
  • 6.食事の様子

治療と対策

 正しい診断を受け、重症度の評価を行った状態で?〜?に取組みましょう。
  ?. 原因、悪化因子の検索と対策
  ?. スキンケア
  ?. 薬物療法

スキンケア

 アトピー性皮膚炎の人の肌は、健康な人に比べると皮膚の防御機能が弱いのが特徴です。皮膚の炎症を予防するには日常のスキンケアが特に重要です。皮膚を清潔に保ち、水分と油分を補給することで、皮膚をよりよい状態に保つことができます。毎日の入浴・シャワーで汗や汚れは速やかにおとし、その後は必要に応じて保湿剤を使用しましょう。軽い皮膚炎は保湿剤のみで改善することがあります。
 さらに皮膚の防御機能を健康な状態に近づけるためには、バランスのよい食事や規則正しい生活が必要です。

薬物療法

 アトピー性皮膚炎は遺伝的素因や内的、外的悪化要因を持った皮膚病です。現時点では病気そのものを治療する薬物療法はありません。従って対症療法が治療の原則になります。

 (1)炎症に対する外用療法
現時点で炎症を十分に鎮静する薬剤で有効性と安全性が科学的に立証されているのは、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏がある。

外用療法に使われるクスリ
  • 1)ステロイド外用薬
    • 炎症を充分に鎮静する
  • 2)非ステロイド系消炎外用薬
    • 炎症を抑える力は極めて弱い
    • 接触皮膚炎(かぶれ)を生じることがまれではなく、適応範囲は狭い
  • 3)カルシニューリン阻害外用薬(タクロリムス軟膏 新たな治療薬(1999年))
    • 薬効はステロイド外用薬のストロングクラスと同等
    • 顔の皮疹に対してステロイド外用薬のミディアムクラス以上の有用性がある
      (その他の部位にも使用可能)
    • 塗り始め(数日間)は刺激感がある。症状軽快と共に刺激感は消失
    • 重症度の高い皮疹では無効の可能性がある
    • 本薬剤は皮膚病を熟知した医師が使用

 (2)全身療法
痒さによる苦痛軽減と掻破による悪化予防の目的で抗ヒスタミン作用を有する薬剤(第一世代抗ヒスタミン薬(いわゆる抗ヒスタミン薬)または第二世代抗ヒスタミン薬(抗ヒスタミン作用をもつ抗アレルギー薬)を使用する。

 薬の種類や用量は重症度など病気の状況により異なります。医師、薬剤師の指示に従い、辛抱強く治療していくことが大切です。

アトピー性皮膚炎に関する情報は下記から得られます。

・アトピー性皮膚炎についていっしょに考えましょう。 改訂版
 (厚生労働省厚生科学研究)
 http://www.kyudai-derm.org/atopy/

・皮膚科Q&A アトピー性皮膚炎(日本皮膚科学会)
 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa1/index.html

・知って得する病気の知識「アトピー性皮膚炎」(日本医師会)
 http://www.med.or.jp/chishiki/atpy/001.html

・アトピー性皮膚炎(日本医科大学付属病院)
 https://www.nms.ac.jp/hosp/section/dermatology/guide/outpatient009.html

・新版よくわかる アトピー性皮膚炎(日本アレルギー協会)
 http://www.jaanet.org/pdf/atopi_tein.pdf

・日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」
 (日本皮膚科学会,アトピー性皮膚炎治療ガイドライン作成委員会 )
 http://derma.med.osaka-u.ac.jp/a-guideline.html

・アトピー性皮膚炎 よりよい治療のためのEvidence-Based Medicine(EBM)と
   データ集 (九州大学医学部 皮膚科科学教室)
 http://www.kyudai-derm.org/atopy_ebm/index.html

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