セルフメディケーションを実践のための200テーマ

加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)

ピロリ菌

2015年12月 更新
(2015年11月 掲載)

 我が国では総人口の半分近くが「ピロリ菌感染者」といわれています。保菌者は若年者では比較的少ないですが、中高年人口の70〜80%の人が「ピロリ菌感染者」と推定されます。ピロリ菌は胃炎や胃潰瘍のほかに、胃癌や胃のリンパ腫などの重大な病気にも関わりがあることが分かってきました。

ピロリ菌とは

 ピロリ菌の正式名はHelicobacter pyloriです。この細菌は、らせん形(ヘリコ)をした細菌(バクテリア)で胃の幽門部(胃の出口=ピロルス)付近に好んで生息することから、ヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌、H. pyloriと略す)と命名されました。この菌は、胃炎や胃潰瘍などの病気に深く関わっている重要な細菌であることが明らかになり、WHOでは胃がんのリスクファクターとして「 H. pylori 」を挙げています。

 ピロリ菌に関する研究発見者のWarren先生とMarshall先生(オーストラリア人)は2005年ノーベル医学・生理学賞に輝きました。
 それまで、胃粘膜の表面には昔かららせん状の細菌らしいものが存在することはわかっていましたが胃の強酸性(pH1〜2)下では、細菌は生きられないと考えられていました。ところが、ピロリ菌は胃粘膜(特に粘液層)に生息するグラム陰性菌で、ウレアーゼという酵素によって胃の中で尿素からアンモニアを生成し、このアンモニアが胃酸を中和することにより強酸性の胃の中でも生存できることがわかりました。また、胃粘膜上皮細胞に好中球を遊走させるインターロイキン8を産生し炎症を起こします。さらに、ピロリ菌は第己泌機構を介して蚊が刺すように胃粘膜上皮細胞内にピロリ菌の病原物質CagA蛋白を注入して上皮細胞の増殖を盛んにし、インターロイキン8を産生させることが分かってきました。

 *第己泌機構;グラム陰性菌には気ら昂燭泙任諒泌機構が存在する。厳燭和燭のグラム陰性菌が備え、病原因子を標的宿主細胞へ直接「注射」することのできるデリバリーシステムである。

ピロリ菌と潰瘍

 胃や十二指腸に潰瘍があると、胃重感や食欲低下、腹痛、出血(吐血、下血)などの症状が現れてくることが知られており、その原因は、ストレスや食事・生活の不摂生にあるとされていました。しかし研究がすすむにつれ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍患者のほとんどがピロリ菌に感染していること、さらにピロリ菌を除菌すると殆ど再発しないことがわかってきました。これらの事実は、ピロリ菌が潰瘍に深く関わっている重要な証拠となります。ただし、ピロリ菌に感染した人のすべてが胃・十二指腸潰瘍になるわけではありません。
 ピロリ菌に感染するとまず、慢性胃炎が起こります。その中の一部が進行して萎縮性胃炎や胃・十二指腸潰瘍になりますが、潰瘍にまで進行するのは約2〜3%程度と言われています。
 ピロリ菌の感染経路は、まだよくわかっていませんが、小児期に口から入って感染すると言われています。

ピロリ菌の検査と除菌の方法

感染診断から除菌療法
検査方法:
ピロリ菌の検査には内視鏡での生検組織を必要とするものとそうでないものがあります。

■内視鏡を用いる検査・・・胃炎や潰瘍などがあるかを直接観察し、胃粘膜を少し採取し検査する方法
(1)迅速ウレアーゼ試験
(2)組織鏡検法 (3)培養法

■内視鏡を用いない検査・・・ピロリ菌のウレアーゼ活性を利用し検査する方法
(1)尿素呼気試験
(2)抗H. pylori抗体測定
(3)便中H. pylori抗原測定

除菌方法:
ピロリ菌の除菌治療は「プロトンポンプ阻害剤(PPIと略す)と2種類の抗生物質」という組み合わせ(3剤併用療法)で行われます。

◎抗生物質がピロリ菌を死滅させる。PPI自体に静菌作用はあるがその主な働きは、強酸による抗菌薬失活の防止(抗菌薬を効き易くする)
一次除菌の除菌率は約80-90%

◎一次除菌不成功例を対象に、引き続き二次除菌治療を行う
これは、抗生物質をメトロニダゾールに変更した3剤併用療法を実施。変更理由は不成功の原因がクラリスロマイシン耐性であることが多いためである(H. pylori二次除菌治療(PPI+アモキシシリン+メトロニダゾールを1週間投与)は2007年8月から保険適用となった)

除菌治療時の生活:
禁煙をしましょう。
たばこ吸うことは胃粘膜の血流を減少させ、除菌治療の成功率を低下させます。

二次除菌にてメトロニダゾール服用中は禁酒をしましょう。
メトロニダゾールは、アルコールの代謝過程のアルデヒド脱水素酵素阻害を有し、血中アセトアルデヒド濃度を上昇させます。従って、二次除菌中に飲酒すると、腹痛、嘔吐、ほてり等が現れることあります。

副作用:
発熱や腹痛を伴う下痢や血便が出た場合(出血性腸炎など)は、直ぐに服用を中止し主治医へご相談下さい。

便がゆるい・軽度の下痢・味覚がないなどの症状が出ることがあります。その場合は自分の判断で薬を中止、減らすなどはせずに、残らず最後まで飲み続けて下さい。除菌の治療は中途半端でやめたりすると、ピロリ菌が薬に対して耐性をもち、次に除菌しようと思っても薬が効かなくなるおそれがあります。以上のような理由により、必ず医師の指示通りに薬を飲むことが重要です。下痢になるのは、抗菌薬を大量に服用するために発症します。除菌治療の際に乳酸菌製剤を補充すると低減する場合があります。ただし、症状が重い場合は、主治医または薬剤師にご相談下さい。

除菌後:
ピロリ菌の除菌に成功すると、胃粘膜の炎症が改善し、良好な潰瘍治療が進むため、潰瘍の再発がおさえられます。
その後も潰瘍の治療は一定の期間必要になることがありますが、維持療法(潰瘍が治った後も、再発予防のために薬を飲み続けること)がない状態、すなわち消化性潰瘍からの離脱が可能となります。

他疾患の関連性

 ピロリ菌は上部消化管疾患以外にも、皮膚、心・血管、血液など多数の疾患に関連性が指摘されています。特に、慢性蕁麻疹、特発性血小板減少性紫斑病や失欠乏性貧血では、ピロリ菌除菌で改善がみられたとの報告があります。

■ピロリ菌感染症に関する情報は下記から得られます。
・ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の診断と治療(日本ヘリコバクター学会)
 http://www.jshr.jp/pdf/journal/supplement.pdf

・ヘリコバクター・ピロリに感染している場合、治療はどう行うのでしょうか?
 (一般社団法人 日本臨床検査薬協会)
 http://www.jacr.or.jp/topics/010helicobacter-pylori/04.html

・細菌を駆除しよう ―ピロリ菌と除菌―(日本医師会 健康プラザ)
 http://dl.med.or.jp/dl-med/people/plaza/325.pdf

・ピロリ菌と胃がん(日本消化器病学会)
 http://www.jsge.or.jp/citizen/2007/hokuriku2007.html

・「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対する除菌治療に関するQ&A一覧
(日本消化器病学会)
 https://www.jsge.or.jp/member/shikkan_qa/helicobacter_pylori_qa

・ピロリ菌外来(北里大学 北里研究所病院)
 http://www.kitasato-u.ac.jp/hokken-hp/section/soc/pylori.html

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