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加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)
慢性疲労症候群
 「慢性疲労症候群」(CFS:chronic fatigue syndrome)は、原因となる疾病がないにもかかわらず、激しい全身倦怠感が長期にわたり日常生活に支障を来す病気です。

 一般的な慢性疲労(程度によらず疲労感を自覚し、半年以上続く場合)とは異なり、人によっては「箸やペンを持てない」「座るのもつらい」など、体を動かせない程の強い全身倦怠感に陥り、休養をとっても軽減されません。

 CFSの有病率は10万人に1〜38人程度と推定されていますが、このばらつきは、認知度の低さや、うつ病、神経症などに誤診されている患者が多いなど、症例発見の差によるものと考えられます。女性患者数は男性の1.3倍から1.7倍であると報告されています。
原因
 多くの研究がされているにもかかわらず、CFSの原因はまだ解明されていません。

感染症
 欧米各地でCFS集団発生が報告されたことで感染症の関与が疑われ、病因ウィルス発見を目指した研究が精力的に行われてきました。その代表例として、EBウィルスなどが挙げられ、さらに細菌感染症の可能性もでてきました。
 日本でも91年に肺炎クラミジアに感染した86人中12人がCFSに罹患したという集団発生例が確認されました。しかし、感染症の関与だけでは説明し難く、現在もなお議論が続いています。

内分泌(ホルモン系)、免疫系、神経系の異常
 健康でいるために体には「内分泌(ホルモン系)」「免疫系」「神経系」の仕組みが備わっています。
 これらは相互にバランスを保持しながら作用していますが、過剰なストレスが生体にかかると、様々なホルモンのバランスが崩れ、病原体から体を守る免疫系にも影響を及ぼします。細菌と闘うNK(ナチュラルキラー)細胞の働きが弱くなると、潜伏していたウィルスが活性化され、さらにそれを攻撃するため生体内で免疫物質が作られます。
 しかし、これら応答のすべてをコントロールできず、かえって内分泌系や神経系にまでダメージを与えてしまうことがあります。このような悪循環に陥ると、神経伝達物質が減少し、脳神経細胞の機能障害による異常な疲労感が発生すると想定されています。
 最近、患者さんの血液中で、「アセチルカルニチン」という神経伝達物質合成に必要な物質が特に脳内自律神経系を司る部位で減少していることがわかってきました。倦怠感という症状との関連で注目されています。

アレルギー疾患
 約65%のCFS患者さんにアレルギー疾患罹患歴があったことから、アレルギー反応も病因の一つとして挙げられています。
診断基準
 厚生労働省や米国防疫センターの診断基準を満たすものに対して、「慢性疲労症候群(CFS)」という診断名がつけられます。以下のような場合にCFSと診断されます。

  • 日常生活に支障をきたすほどの疲労感が半年以上続く。
  • 疲労の原因が、病気によるものでないこと。
  • 診断基準にある症状の8項目以上を満たすこと。
表 厚生省CFS診断基準試案(平成7年3月、一部改変)
A. 大クライテリア(大基準)
  1. 生活が著しく損なわれるような強い疲労を主症状とし、少なくとも6ヶ月以上の期間持続ないし再発を繰り返す(50%以上の期間認められること)。
  2. 病歴、身体所見、検査所見で表2に挙げられている疾患を除外する。
B. 小クライテリア(小基準)

ア)症状クライテリア(症状基準)
  (以下の症状が6カ月以上にわたり持続または繰り返し生ずること)
  1. 徴熱(腋窩温37.2〜38.3℃)ないし悪寒
  2. 咽頭痛
  3. 頸部あるいは腋窩リンパ節の腫張
  4. 原因不明の筋力低下
  5. 筋肉痛ないし不快感
  6. 軽い労作後に24時間以上続く全身倦怠感
  7. 頭痛
  8. 腫脹や発赤を伴わない移動性関節痛
  9. 精神神経症状(いずれか1つ以上) 羞明、一過性暗点、物忘れ、易刺激性、錯乱、思考力低下、集中力低下、抑うつ
  10. 睡眠障害(過眠、不眠)
  11. 発症時、主たる症状が数時間から数日の間に発現
イ)身体所見クライテリア(身体所見基準)
  (2回以上、医師が確認)
  1. 徴熱
  2. 非浸出性咽頭炎
  3. リンパ節の腫大(頸部、腋窩リンパ節)

  • 大基準2項目に加えて、小基準の「症状基準8項目」以上か、「症状基準6項目+身体基準2項目」以上を満たすと「CFS」と診断する。
  • 大基準2項目に該当するが、小基準で診断基準を満たさない例は「CFS(疑診)」とする。
  • 上記基準で診断されたCFS(疑診は除く)のうち、感染症が確診された後、それに続発して症状が発現した例は「感染後CFS」と呼ぶ。

 疲労や思考力低下などCFSと類似の症状を呈する疾病に「うつ病」がありますが、通常、うつ病症状は朝に重く、午後になると軽減される傾向があるのに対し、CSFでは朝は比較的軽く、午後から徐々に強まるという点が異なります。

 また、免疫などに関与している血中ホルモンのコルチゾール濃度はうつ病の場合やや高値を示すのに対し、CSFでは低い傾向がみられるなど違いがあります。
治療
 もっとも大切な事は、心身ともに休養をとることです。CFSの場合、軽く動くだけで翌日まで疲労感が残る時期には運動は逆効果になります。体を休め、疲労が軽減する状態になればウォーキング、水泳などの有酸素運動を医師の厳密な指示の下で定期的に行うことで、疲労感を軽減させ、身体機能を高められます。

 また、患者さんの特性として「完璧主義」の人が多く、ストレスに影響されやすいことがわかってきました。そこで、認知行動療法が行われることがあります。これはストレス対処法を医師と話し合いながら見つけていくものです。

 現在、治療の中心は薬物療法ですが、その効果には個人差があります。
補中益気湯 病後や術後の免疫力低下や、微熱・全身倦怠感などに処方され、CFSにも有効とされています。その他の漢方薬では十全大補湯・六君子湯などがあります。
ビタミンC(アスコルビン酸) 活性酸素を除去することにより細胞障害が減少し、微熱を軽減させた例があります。ビタミンCは大量に服用すると胃を痛めることがあるので、胃粘膜保護薬が併用されます。
メチコバール(ビタミンB12 末梢性神経障害に対し用いられています、睡眠障害にも有効で、脱力感・疲労感を軽減するという報告があります。
抗ウィルス薬 病因として考えられているウィルス感染を治癒します。
その他 コエンザイム、カルニチン、NADH、必須脂肪酸、リンゴ酸、マグネシウムなどのサプリメントで症状が緩和することもあります。自律神経系の乱れには、緑の香りのアロマテラピーが効き、脳の疲労が軽減するといわれています。
 また温熱療法・鍼灸・ヨガ・太極拳なども有効である場合があります。
 CSFは短期間での完治は難しく、一般にその治療は数ヵ月から数年かかります。調子が良くなったからといって早めに復職など無理をすると、症状が最悪時の状態に戻ってしまうことがあります。

 専門医による治療を続け、焦ることなく症状の改善を図っていくことが大切と考えられています。

―疲労度を自己確認する―

 慢性疲労があり病的と思われるときは、早期に医療機関で検査や治療を受けることが勧められます。疲労の状態を定期的に調べて変化をみることが有効ですが、簡便な自己診断疲労度チェックリストがあると、自分でチェックし自覚できるようになり便利です。

 身体症状と精神神経症状を基にチェックリストを作成し有用性などを検証する研究が行われ、そのチェックリストが公開されています。「このチェックリストで、すべての疲労が正確に評価できるわけではありません」と注意がありますが、上手に活用すれば健康な生活をおくるうえで参考になると思われるのでご紹介します。

文部科学省 生活者ニーズ対応研究 疲労及び疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究  慢性疲労症候群に関する情報は下記から得られます。
2008年05月 掲載