加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)
(2014年02月 掲載)
(2022年8月 更新)
「かぜ症候群」の原因は約9割以上がウイルスに感染し発症する病気で、原因ウイルスは200種類以上あります。「インフルエンザ」はかぜ症候群の一種で、原因となるインフルエンザウイルス(主にA,B)は感染力が非常に強く、高熱を特徴とした様々な全身症状をおこします。「肺炎」とは、主に細菌やウイルスが肺に感染し炎症を起こす病気で、がん、心臓病に続いて、日本人の死亡原因の第3位です。肺炎の呼び方は、細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、マイコプラズマ肺炎など病原体で異なります。
それぞれ、病原体の種類が異なり発症します。したがって症状には違いがあります(表1.参考)。「かぜ症候群」は初期に喉や鼻の“上気道炎症状”が表れます。それに対し「インフルエンザ」は急激な発熱があり、続いて倦怠感、筋肉痛、関節痛などの“全身症状”や“上気道炎症状”が強くでます。大多数の人では、1〜2週間で自然治癒しますが、体力のない高齢者や乳幼児などは、気管支炎や肺炎を併発し易く、重症化すると脳炎や心不全を起こすこともあります。
表1. かぜ症候群、インフルエンザと肺炎の特徴
かぜ症候群 | インフルエンザ | 肺炎 | |
発症時の症状 | 鼻咽頭の乾燥 徐々に悪化 | 頭痛、悪寒 急激に悪化 | 高熱、咳・痰、呼吸困難、胸痛、食欲不振、倦怠感や悪寒、筋肉痛、関節痛、頭痛、呼吸数、脈が早くなる 上記症状がある場合とない場合がある。これは、肺に炎症を起こす原因菌により特徴は異なる |
症状 | 上気道炎症状*1が中心 | 発熱 全身症状*2が強い | |
発熱 | ない または 37度程度 | 38度以上 3〜4日間 | |
悪寒(寒気) | 軽い | 強い | |
合併症 | 少ない、中耳炎、副鼻腔炎 | 肺炎・気管支炎など | |
発生状況 | 散発性 | 流行性 | |
鼻・喉頭炎 | 先行する・顕著 | 全身症状に後続する | |
結膜 | なし | 充血 | |
経過 | 短いが長引く事もある | 一般的に短い | |
病原体 | ・ライノウイルス ・アデノウイルス ・RSウイルス ・コロナウイルス ・溶連菌 他 |
・インフルエンザウイルス A、B、C |
・細菌(ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌) ・ウイルス(インフルエンザウイルス、アデノウイルス、麻疹ウイルス、サイトメガロウイルスなど) ・マイコプラズマ ・真菌 他 |
*1 上記道炎症状:鼻水や鼻づまり、喉の痛み、咳や痰など
*2 全身症状:全身倦怠感、頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢、食欲不振など
インフルエンザウイルス自身が肺炎を引き起こすことは多くありませんが、インフルエンザに引き続いて発症する肺炎(二次感染)が危険です。二次感染の肺炎は、インフルエンザが治癒したと思えたころに発症します。二次感染は重症化しやすく、インフルエンザで死亡する人のほとんどが肺炎によるものです。かつてスペインかぜにより、全世界で約4000万人の命が奪われました。その死亡例の多くは、二次感染による肺炎といわれています。肺炎を誘発する理由はインフルエンザウイルスが感染して炎症を起こした喉や気道は、その表面細胞が壊れ感染に対する防御機能が弱くなっており、もともと上気道に常在している肺炎球菌やインフルエンザ菌(冬季に流行するインフルエンザウイルスとは異なる)が肺に感染し、増殖すると重い肺炎を引き起こします。肺炎を併発すると、痰の性状が以前と比較し濃い黄色や緑色などに変化します。10歳以下の子供の場合は、脳症を併発して死亡する場合もまれにあります。
厚生労働省・日本小児科学会では「発熱したお子さんを見守るポイント こんな症状を認めたらもう一度受診しましょう」という情報を提供しています。チェックしてみてください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/parents_pamphlet01.pdf
1. 50歳以上
2. 心臓や呼吸器などの慢性疾患
3. 糖尿病、腎臓病 、免疫不全など
※ 新型インフルエンザでは上記の2,3を持つ若年者や妊婦も肺炎を合併しやすい
予防にはその原因となるインフルエンザを早く治すことが最も重要です。インフルエンザに罹患した場合は十分に休養をとり、薬は指示通りに服用することです。インフルエンザの二次感染による肺炎を合併しやすい方(上述)はあらかじめ抗菌薬が処方されることがあります。症状が出て3〜4日後でも発熱が治まらない場合は、合併症を疑い、早めの受診をしましょう。また、以下に示す症状がある場合は合併症の可能性があります。できるだけ早く受診して下さい。

このように、インフルエンザは、人によってはとても怖い病気になり得ます。インフルエンザは強力な感染力をもつので、たとえ本人が短期間で治癒しても周囲に伝播し易く、特に高齢者や子供などに感染すると危険な状況に導く可能性があります。インフルエンザは本人だけの問題ではないことを知っておいて下さい。よって、以下にはインフルエンザについてお知らせします。
インフルエンザの診断は約15分で結果が分かる迅速診断法が普及しています。この方法は、綿棒で鼻粘膜などから検体を採取し、ウイルスに対する抗体を反応させ診断します。ただし、ウイルス量が少ない発症直後では偽陰性になる事もあり、翌日に検査が必要です。
抗インフルエンザウイルス薬を使用します。インフルエンザウイルスは
?脱殻 ?転写・複製 ?出芽の順番で増殖します。
「脱殻」:ウイルスがヒト細胞内へ侵入後、自身の膜を破壊しウイルスのRNAがヒト細胞内に放出⇒
「M2蛋白機能阻害薬」と呼ばれる
(注) M2蛋白機能阻害薬が効果を発揮するのはM2蛋白構造をもつA型インフルエンザウイルスだけ
「転写・複製」:細胞内へ放出されたRNAは核内に取り込まれ転写・複製が別個に行われウイルスが増殖⇒
「RNAポリメラーゼ阻害薬またはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性阻害薬」と呼ばれる
「出芽」:新たに増殖したウイルスは細胞から周囲へ拡散⇒
「ノイラミニダーゼ阻害薬」と呼ばれる
一般名 | 商品名 | 剤形 | A型 | B型 | 備考 |
ザナミビル水和物 | リレンザ | 吸入剤 | ○ | ○ | 気管支喘息の人:吸引時呼吸が苦しくなる可能性がある。吸引終了まで注意 ◼ノイラミニダーゼ阻害薬 |
ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 | イナビル | 吸入剤 | ○ | ○ | |
オセルタミビルリン酸塩 | タミフル | カプセル ドライシロップ |
○ | ○ | 異常行動の可能性が有り2−3日は保護者の観察が必要 ◼ノイラミニダーゼ阻害薬 |
ペラミビル水和物注射液 | ラピアクタ | 点滴注射剤 | ○ | ○ | 重症肺炎やインフルエンザ脳症など入院加療が必要な時に使用 ◼ノイラミニダーゼ阻害薬 |
バロキサビル マルボキシル | ゾフルーザ | 錠剤 顆粒 |
○ | ○ | 発売され間もないため不明 ◼キャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性阻害薬 |
アマンタジン塩酸塩 | シンメトレル | 錠剤 顆粒 |
○ | ✕ | あまり使われていない パーキンソン病治療薬 ◼M2蛋白機能阻害薬 |
- インフルエンザの感染経路は接触感染、飛沫感染や空気感染である。「こまめな手洗い」「マスク」「うがい」を心がける。また、インフルエンザウイルスは乾燥・低温に強いので、部屋は十分な湿度(60%〜80%)、温度20〜25℃(室温が低い場合は、湿度が60%でもインフルエンザウイルスの生存率が高まるため、部屋を暖める)に保つ。
- ワクチン接種・・・高齢者、子供、慢性疾患患者、およびその家族はワクチン接種を受ける方がよい。接種後、効果が表れるのに2〜3週間が必要。罹患者のピークは2月からなので11月中の接種を推奨。
- 熱の出始め・・・体温を逃がさないように寝具をしっかりかけて室温も高めにする。
- 熱が上がったら・・・薄めの掛け布団に変え、氷枕を敷くなどの直接的な方法と合わせ熱が逃げやすい環境にする。(インフルエンザウイルスは湿度に弱いので、汗をかき体周辺の湿度を上げることは、ウイルスの活動を抑える一因となる。6〜8時間に一度の着替えを目安に適温を保つ)
- 冷却部位・・・リンパの集まる部分(首の回りやわきの下、ももの付け根など)
- 脱水に注意・・・水分をこまめに摂る。体液に近い成分(経口補水液:水に電解質と糖が配合された飲料。薬局で購入できる)で補うことが重要。1日500〜1000mlの量を分割して摂取。
※夜間・休日に熱が出た場合
夜間は寒いので家で安静にし、翌日の早めに受診する。ただし、呼びかけても返事が遅い、痙攣がある、眼の焦点が合わない、いつもと様子が明らかに違うなどの場合は直ぐに受診する。 - 解熱後、2日間はウイルスが排出されているので外出は控える。
・かぜ症候群(日本呼吸器学会)
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-01.html
・インフルエンザ(日本呼吸器学会)
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-02.html
・インフルエンザ対策(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/index.html?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
・インフルエンザの基礎知識(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/file/dl/File02.pdf
・インフルエンザQ&A(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
・インフルエンザとは(NIID 国立感染症研究所)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/a/flu.html
・学校において予防すべき感染症の解説(学校保健ポータルサイト)
https://www.gakkohoken.jp/books/archives/211
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