加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)
(2014年04月 掲載)
平成22年国民生活基礎調査における有訴者率(病気やけが等で自覚症状のある者)は腰痛が上位をしめています(図1)。それほど、多くの人を悩ます腰痛ですが、その原因が判明しているものは全体の約15%です。それ以外は加齢、生活習慣、ストレスなど、さまざまな要因が複雑に絡んで起こると考えられ、明確な原因は分かっていません。

図1. 性別にみた有訴者率(人口千対)の上位5症状
厚生労働省 平成22年国民生活基礎調査
腰痛の原因が医師の診察などから厳密に把握できるものを「特異的腰痛」、できないものを「非特異的腰痛」と呼びます。腰痛の約85%が非特異的腰痛です。特異的腰痛の内訳を表1に示します。
表1. 特異的腰痛の内訳 | ||||||||||||
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成人頭部の重量は体重比で約10〜13%(50kg成人の頭部重量は約5〜6.5kg)といわれ、脊柱は重い頭部を支えています。脊柱が横側から見てS字になっているのは、頭部からの負荷を分散し、腰への負担を軽減させるためです。脊柱は椎骨と呼ばれる骨が連なって形成され、腰の部分は5つの椎骨で構成され、腰椎といいます。椎骨は軟骨組織である椎間板で連結され、椎間板は重力や衝撃を吸収するクッションのように働きます(図2)。

図2. 脊柱、腰椎の構造
「NATOM IMAGES ⒸCallimedia」
腰椎を含めた脊柱全体を支えているのが筋肉です。腰椎の前側が腹筋、後側が背筋で腰をしっかりと支えています。過度な肉体労働、加齢、肥満、喫煙、運動不足、疲労、ストレスなどの要素が腰の負担をより大きくし、腰痛がおこります。

図3. 加齢における腰痛の悪循環
腰痛は病名ではなく体に表れる症状の総称です。特別な場合を除き、多くの人は年齢とともに腰痛になります。これは、加齢により腰部筋肉の脆弱化がすすみ、さらに運動不足で衰え、姿勢保持が困難となります。しかし、体は姿勢を保持しようと、筋肉緊張状態を続けるため、それが凝りや痛みになり、その後は「動かすと痛い⇒運動しなくなる⇒筋肉脆弱⇒筋肉柔軟性の消失⇒可動領域が狭くなる」を繰り返し、悪循環に陥ります。(図3)。上述したように、原因が明確なものはありませんが関節・椎間板、特に筋肉などに関係する場合が多いと考えられています。原因が分からないからといって過度な心配はしないようにしましょう。かえってストレスになり症状を悪化させることにもなりかねません。正しい方法で対応すれば痛みも軽減でき、予防も可能です。
2012年に作成された日本整形外科学会・日本腰痛学会監修の「腰痛診療ガイドライン」では以下の3点に焦点をあて、治療を進めていきます。
?危険信号腫瘍など重篤な脊椎疾患でも腰痛は発症。
ここでは、「危険信号」となる危険因子を指摘(表2)。
表2. 重篤な脊椎疾患の合併を疑うべき危険信号 | |||||||||
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「危険信号」以外にも以下の症状がある場合は専門医へ。
●安静にしていても痛みが軽減しない
●時間経過とともに悪化
●下肢がしびれたり力が入らない
●尿漏れがする
?神経症状を伴う腰痛
腰痛よりも片側の強度の下肢痛、足趾や足部に放散性疼痛、同部位の感覚麻痺としびれ等
?非特異的腰痛
?と?以外の一般的腰痛で、腰痛の中で最も多い。慢性化していることが多い。
若年層(10〜20代)は椎間板ヘルニア、中高年(50〜70代)では脊柱管狭窄症、高齢者(70代〜)の特に女性に圧迫骨折が発症しています。 また、最近は子どもでも腰痛が増えています。長時間のゲームでの悪い姿勢が腰痛の原因になったり、激しいスポーツにより腰椎に負担がかかり疲労骨折を起こすことがあります。また、子供の椎間板ヘルニアの症状は下肢の痺れや神経麻痺よりも、「身体の硬さ」が特徴です。子どもは骨が未発達で柔らかく、悪い姿勢や外的刺激の影響を受けやすいのです。成長痛と思い見逃すこともあります。腰痛症状をよく観察し、心配な場合は早期に受診し、後遺症が残らないようにしましょう。
薬物療法、運動療法、手術治療、コルセットなどの装具療法、牽引などの理学療法、運動器リハビリテーション、注射療法、があります。それぞれの病態での具体的な治療については個人により差があります。
表3〜4には腰痛診療ガイドラインで示された内容を抜粋しました。
表3. 腰痛に有効か 腰痛診察ガイドライン 2012より | ||||||||||||||
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1)認知行動療法とは
- 気分や行動が認知のあり方(考え方や受け取り方)の影響を受けることから認知の偏りを修正することを目的とした、精神療法。行動療法と認知療法を併せたもの。
- 医療専門家管理下で運動療法を含めた教育や技術プログラムで構成されたレッスンをグループ受講する介入療法。
表4. 腰痛の薬物療法 腰痛診察ガイドライン 2012より | |||||||||
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表5. 腰痛は予防可能か 腰痛診察ガイドライン 2012より | ||||||
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腰痛になると生活範囲が狭まり、体力・筋力・気力も低下し、先に述べたような悪循環に陥ります。これらを断ち切るためにも、姿勢に注意したり、腰部筋肉を鍛える運動などを継続するように心がけましょう。整形外科で状態に適した運動プログラムなど相談されることをおすすめします。また、近年は腰痛発生件数が社会福祉施設などで増加しています。職場における腰痛リスクを減少させるには、作業の環境管理、健康管理及び労働衛生教育を総合的かつ継続的に、取り組むことが必要です。2013年に厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」が19年ぶりに改訂されました。職場での腰痛予防対策にご活用ください。
・「第2章 腰痛対策」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/1911-1_2d.pdf
・「職場における腰痛予防対策指針」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/youtsuushishin.html
・「腰痛」(公益社団法人日本整形外科学会)
http://www.joa.or.jp/jp/public/sick/condition/lumbago.html
・「腰痛」健康の森「日本医師会ホームページ」(日本医師会)
http://www.med.or.jp/forest/check/youtsu/01.html
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