セルフメディケーションを実践のための200テーマ

池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)

1. 不適切な生活習慣と「生活習慣病」

 昔から四百四病といわれるほど、病気の種類というのは多様です。現代では、それらを感染性疾患と非感染性疾患に大きく分けて考えています。

 かつて国民病といわれた結核をはじめ、エイズのように人から人へとうつる病気が感染性疾患です。環境の整備、衛生状態の改善、抗生物質に代表される治療法の進歩は多くの感染性疾患を克服し、乳幼児死亡、若年死亡を激減させ、人々の寿命は大きく延びました。

 しかし現代では、これらに代わって脳卒中、心臓病、癌などの疾患が多くの人の生命をおびやかし、「快適人生」を阻害しています。これらは、人から人に移ることはないため、非感染性疾患と言われています。そして、非感染性疾患の背景には生活習慣が大きく関わっていることが分かっています。

健康習慣と病気の関係

 昭和50年、米国の医学者ブレスローとエンストロムは、30歳以上の成人男女約
7,000人について、


  1. 規則的に7〜8時間の睡眠をとる
  2. 朝食をきちんと食べる
  3. 間食をしない
  4. 深酒をしない、または酒を飲まない、
  5. 喫煙をしない
  6. 毎日適度な運動をする
  7. 適正な体重を維持している

の7点について詳しく調査し、10年余の経過観察の中で、これらの健康習慣と死亡率やその原因疾患との関係を調査しています。

 その結果、7つの健康習慣と不健康度とが強く相関していることが明らかになりました。例えば、30歳で7つの健康習慣のうち当てはまるものが3つ未満の人は、健康度から見た年齢は60歳の人に相当するという結果が出ました。すなわち、生活習慣の善し悪しと寿命は、密接に関係しているということです。また、寿命の短縮化をもたらす原因疾患としては、脳や心臓の血管障害(脳卒中、心臓病など)と各種の悪性腫瘍(癌など)が挙げられています。

生活習慣からみたメタボリックシンドローム

 以上のことからも、脳卒中などの非感染性疾患の背後には、遺伝的影響だけではなく、生活習慣も深く関わっていることが広く知られるようになりました。日本国内においても、それまで「成人病」としていた一連の非感染性疾患を、平成8年からは「生活習慣病」と呼ぶようになりました。加えて、平成17年からはこの中のメジャーな病態、肥満(内臓脂肪型)、高血圧、高脂血症、耐糖能障害は、「メタボリックシンドローム」として診断されています。

 不適切な生活習慣がもたらすメタボリックシンドロームには、飽食と肥満、2型糖尿病、高血圧、高脂血症と、運動不足が深く関係しています。また、喫煙との関係では肺癌が、飲酒については肝障害が広く知られています。

 このような見方から、たとえ遺伝的素因がある人でも、若い時から健康的な生活習慣を心がけていれば、生活習慣病の予防は可能です。一方、不適切な生活習慣を続けていれば生活習慣病、中でもメタボリックシンドロームへの罹患度を高めてしまうことになってしまいます。

2007年01月 掲載
■テーマ
1. 不適切な生活習慣と「生活習慣病」
2. 体重コントロール
3. 「死の四重奏」〜肥満〜
4. 「死の四重奏」〜糖尿病〜
5. 「死の四重奏」〜高脂血症〜
6. 「死の四重奏」〜高血圧〜
7. 快便は健康のバロメーター
8. 定期的に健診を受けて生活習慣病の予防をはかる
9. 人+良=食 〜たんぱく質〜
10. 人+良=食〜脂質〜
11. 人+良=食〜炭水化物〜
12. 健康維持の助っ人、サプリメント
13. ストレスをためない生活
14. 快眠のために
15. 基礎代謝
16. 酒と肝臓の深い関係
17. 喫煙習慣とがん
18. 大腸がんの早期発見
19. ウイルス性肝炎とがん
20. 乳がんの早期発見
21. 前立腺がんが増えている
22. 新しいタイプの肝障害―NASH(ナッシュ)―
23. とても多くなった高尿酸血症・痛風
24. 糖尿病への取り組み
25. 糖尿病とは「畏」の気持ちをもって付き合う
26. 加齢とともに増える眼の病気―白内障、網膜症、緑内障、黄斑変性症―
27. 高血圧の自己管理―家庭血圧をはかりましょう
28. コレステロールが気になる人へ
29. 歯周病を予防し「8020(ハチマル・ニイマル)」を目指す
30. アンチエイジング(抗加齢)とセルフメディケーション
31. 快適生活のための「四快」