セルフメディケーションを実践のための200テーマ

池田義雄(セルフメディケーション推進協議会会長)

6. 「死の四重奏」〜高血圧〜

 「死の四重奏」を構成する4番目の病態は高血圧です。軽い場合はもちろん、重度の高血圧でも自覚症状のないことが多く、知らないうちに進行して、脳や心臓の血管に障害をもたらすところから、高血圧症は「サイレントキラー」「沈黙の殺人者」という異名を持っています。

世界の動き

 2003年、海外において立て続けに高血圧診療ガイドが発表されました。それらは、高血圧の治療を専門とする医師の間に、さまざまな論争の種をまく基になりました。

 まずはじめに、米国合同委員会が「高血圧の予防、発見、診断、及び治療に関する第7次報告(JNC7)」を発表しました。そして、その中で「高血圧前症」という用語を初めて導入し、収縮期血圧120mmHg以上、139mmHg未満、拡張期血圧80mmHg以上、89mmHg未満を「高血圧前症」と定義しました。

 また、血圧を下げるための薬剤ついても新たな見解を示し、薬物による初回治療では利尿薬を第一選択すべきだとしました。利尿薬は、現在用いられている血圧を下げるための薬剤として最も歴史が古く、また廉価な薬剤です。

 それに対し、欧州高血圧学会(ESH)と欧州心臓病学会(ESC)は、JNC7における「高血圧前症」という用語の使用と第一選択する薬剤についての主張に反論するガイドラインを発表しました。まず「高血圧前症」に関しては、JNC7で記された数値に該当する人すべてが高血圧に至るわけではなく、「前症」という言葉を使ってしまうと本来健康な人までもが、「高血圧前症」に含まれてしまうと主張しました。また、薬剤の使用に関しても、現在用いられている主な降圧薬は、いずれも初回治療の第一選択には適しているとしています。

治療のすすめ方

 高血圧治療の目的は、血圧を下げることで、動脈硬化に起因して起こりうる重大な脳や心臓の病気を未然に防ぐことにあります。そのため、薬剤による治療の際も単に血圧の降下のみが目的ではなく、臓器機能そのものに良い影響を与える薬剤の使用も重視されるようになってきています。

 以上のようなことから、WHO(世界保健機構)/ISH(国際高血圧学会)のガイドラインは米国流の「利尿薬の第一選択」を踏襲しつつ、肥満、糖尿病、高脂血症などを伴う高血圧については、より積極的な治療で対応することを強調しています。

2007年06月 掲載
■テーマ
1. 不適切な生活習慣と「生活習慣病」
2. 体重コントロール
3. 「死の四重奏」〜肥満〜
4. 「死の四重奏」〜糖尿病〜
5. 「死の四重奏」〜高脂血症〜
6. 「死の四重奏」〜高血圧〜
7. 快便は健康のバロメーター
8. 定期的に健診を受けて生活習慣病の予防をはかる
9. 人+良=食 〜たんぱく質〜
10. 人+良=食〜脂質〜
11. 人+良=食〜炭水化物〜
12. 健康維持の助っ人、サプリメント
13. ストレスをためない生活
14. 快眠のために
15. 基礎代謝
16. 酒と肝臓の深い関係
17. 喫煙習慣とがん
18. 大腸がんの早期発見
19. ウイルス性肝炎とがん
20. 乳がんの早期発見
21. 前立腺がんが増えている
22. 新しいタイプの肝障害―NASH(ナッシュ)―
23. とても多くなった高尿酸血症・痛風
24. 糖尿病への取り組み
25. 糖尿病とは「畏」の気持ちをもって付き合う
26. 加齢とともに増える眼の病気―白内障、網膜症、緑内障、黄斑変性症―
27. 高血圧の自己管理―家庭血圧をはかりましょう
28. コレステロールが気になる人へ
29. 歯周病を予防し「8020(ハチマル・ニイマル)」を目指す
30. アンチエイジング(抗加齢)とセルフメディケーション
31. 快適生活のための「四快」