セルフメディケーションを実践のための200テーマ

菅野 隆(セルフメディケーション推進協議会理事)

17. 「ストレス」や「こころの病い」への運動、リラクゼーションの効果
 4月も中旬となり、東京ではあっという間に桜も葉桜に変わりました。新年度ともなり、生活や仕事の環境が変わった方も多いのではないでしょうか?環境の変化は、往々にしてストレスフルです。また、「5月病」という時期も控えていますのでご注意ください。
ストレスに負けないタフで柔軟な体を
日常生活の中で養いましょう
 私は、THP(「心とからだの健康づくり」の指導)に関わっていた15年前に心理相談員という資格もとり、メンタルヘルス関係のカウンセリングや講演、リラクゼーション指導などのご依頼を、現在でも年間30回程いただいております。メタボリックシンドロームも大きな健康リスクですが、ストレスも同様に、いや、それ以上に大きな健康リスクだと感じています。特に今、世界的経済不況のご時勢ですから、ストレスのかかっている方は多いのではないでしょうか・・・。

過度のストレスを放置していると、ホメオスタシス(体を安定した恒常的状態に保とうとする仕組み)に悪影響があらわれます
過度のストレスは体を緊張させ
恒常性を狂わせます
 ストレスのSOSサインの代表といえば「不眠」ですが、交感神経過剰優位が継続して心身が過緊張状態ですから、寝巻きに着替えて床に就いても、体はきついスーツをきたような状態ですので眠れないわけです。

 5時間未満の睡眠の生活が続くと疾病発症の確率が高くなることが報告されていますので注意したいものです。過度のストレスを放置すると、自律神経だけではなく、内分泌系、免疫系といったホメオスタシス機能全てを狂わせてしまいます。

 自律神経失調症やうつ、強いストレスを受けている方などにリラクゼーション指導をさせていただいた経験では、多くの方の体は、やはりガチンガチンに固まっていて、私が全体重をかけて押しても、『何か触れられているのは分かるって程度の感じ・・・』とか、集団で横になってボディワークをしていると、『グゥ〜ッ、ゴロゴロ』、とお腹の鳴る音が響き渡ったりすることもあります。

 それだけ、骨格筋だけではなく、腸などの内臓(消化器)までも緊張しており、ストレッチやボディワークで体をゆるめほぐすことで腸の蠕動運動も回復したということなのですね。

 また、1年間継続して、15人程の脳卒中の片麻痺の方の集団運動指導をさせていただいたことがありますが、休み時間に『どんな時に発病したのですか?』とお聞きしましたら、ほとんどの方が『強いストレスがかかっていた時』とおっしゃっており、今でいう「メタボではなかった」いう方も多く、素因は別として、発病の引き金の多くは「ストレス」とのことでした。

 さらに、こんな事例もありました。エルゴメータをこぎながら漸進的負荷をかけて心電図をとる「負荷心電図」の測定時に、何のリスクファクターもない若い30代後半の男性が、ST低下で心虚血の兆候を示し、ストレス状況を伺ったところ、『この数ヵ月、全国の営業部門の責任者となり凄まじいプレッシャーの毎日』とのことでした。「心筋梗塞」も「脳梗塞」も、そして「動脈硬化」も語彙的解釈で共通するのは、「硬まる」ということですね。

 素因がない方でも、「ストレス」で血糖値が上がり、糖尿病が発症することも、よく知られているところです。

うつ病予防やストレス解消への運動効果
 右図は、医学の運動療法のテキストから引用したうつ病の患者を運動群、投薬群、併用群の3つのグループに分けて4ヵ月間治療後、6ヵ月間経過観察した研究結果です。何と、運動群が最も寛解率が高く、再発率も低かったという結果が出ています。

 また、うつ病の治療にはセロトニンの投与により症状が軽減することが知られていますが、セロトニンは、適度なリズミカルなウォーキングや腹式呼吸によっても分泌が促進されることが分かっています。うつ病の予防や改善にも、「適度な運動」は有効だということでしょう。

 また、別の研究では、2匹のネズミに定期的継続した電気刺激による苦痛ストレスを与え、1匹には口元に割り箸をおき噛めるようにし、もう1匹の方には口元に何も置かず、一定期間後にがん細胞の増殖状態を比較してみたところ、箸を噛めずにストレスを受け続けたネズミのほうがあきらかにがんの増殖が進んでいたとの報告があります。

 このことは、受けたストレスに対して何らかの代償転化行為を行なうことの重要性を示唆しており、その大きな要素のひとつが割り箸を噛むという行為(運動)なのですね。例えば、卑近な例では、おもしろくないことがあった時など、サンドバックを蹴ったり、空き缶を蹴飛ばしてスカッとするといった経験などあるかと思いますが、拡大解釈すれば、ストレス解消の矛先が変わって、いじめや自傷行為、きれるなどといった問題行動にエスカレートする可能性もあるということではないでしょうか。


ウォーキングやストレッチなどの運動には、心身をリラックスさせる効果もあります。
積極的に体を動かして
ストレスを上手に解消しましょう!
 「こころ」と「体」はシンクロして連動しているひとつのシステムです。ウォーキングやストレッチなどの運動は、固まった心身を開放しリラックスさせるという効果もありますし、ストレスによるマイナス感情(マイナスエネルギー)を運動エネルギーに転換し発散(ゼロ化)するという作用をもたらすものと思われます。

 例えば、運動習慣のない人に、20分程度の軽度のウォーキングを指導させていただくと、ほとんどの方は、「疲れた」というより、「気持ちいい」、「スッキリした」とおっしゃる人の方が圧倒的に多いですし、臥位でのリラクゼーションストレッチをしていただきますと、「体が軽くなった」、「体が温かくなった」とこわばった顔もゆるみ、表情に輝きさえ出てきます。

 また、教室に来られる不眠症でお悩みの方も、『教室のある日はぐっすり眠れる』、と口を揃えておっしゃいますし、リウマチで関節の骨が変形して固まった方も、『もっと早く指導を受けたかった』といわれます。ストレッチするだけでも、胸郭のストレッチで肋間筋がほぐれたり、大腰筋をストレッチすることで、つながっている横隔膜の動きも大きくなれば、呼吸が驚くほど深くなり、セロトニンの分泌も増加させることにもつながります。

 物理では、「背反する2つの性質は同時に同じ場には存在することができない」と定義しています。ということは、「リラックスした体には、マイナス感情は存在できない」という理解もできましょう。私はよく、「リラックスした体で、怒ることはできないんです。体をリラックスさせたままでバカヤローって怒ってみてください」と申し上げ、やっていただきます。体をゆるめたままだと、「バァ〜ヤロォ〜」となってしまうんですねぇ〜(これ、笑っていただき用のネタです、笑)。

 ストレスフルだという方、風薫る5月、GWも間近です! じっとしてストレスに悩み、エネルギーを消耗し、ダメージを受けるより、上手に切り替え、気持ちよくウォーキングやストレッチをして、スッキリ壮快に心身ともにリラックスして、活力エネルギーを高めましょう!

2009年04月 掲載
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