34.メンタルな不調に運動療法 | やってみよう健康運動 | セルフメディケーション・ネット

福田千晶（セルフメディケーション推進協議会理事）

34.メンタルな不調に運動療法

　スポーツの秋が到来。運動で体を動かすのは、気持ちよいですね。我が国では、自殺者数が12年連続で３万人を超えています。さらに、自殺・うつ病での失業による経済的損失が2.7兆円と報道されています。不景気による悩みの増大もあり、メンタルな障害は社会的問題にもなっています。

　もちろん、うつ病は脳内での伝達物質の異常によると考えられる病気ですから、医療機関での治療が必要です。しかし、軽症のうつ状態もしくはその予備軍は、セルフケアで改善できる場合もあるでしょう。その、手段の一つが運動です。

　うつ病やうつ状態に、適度な運動が良いという報告はいろいろあります。その中の代表的なものとして、デユーク大学医学部のブルメンサル教授の研究があります。うつ病の患者を３つのグループ、「有酸素運動のみを行ったグループ」、「抗うつ役を服用したのみのグループ」、「抗うつ薬と有酸素運動を併用したグループ」に分けます。そして、４ヵ月後の治療成績を比較したら、有酸素運動のみを行ったグループの回復率が最も高かったという結果だったそうです。

　さらに、６ヵ月後の再発率は、有酸素運動のみを行ったグループが最も低かったという研究結果でした。
この報告を医学的に検討すると、まず脳内の神経伝達物質であり、鎮痛、安眠、精神安定に関るセロトニンの関与が考えられます。セロトニンは脳内で、アミノ酸の一種であるトリプトファンから作られます。トリプトファンは、赤身の肉、卵、大豆などから摂れますが、脳内には届き難いものでもあります。脳は他の部位より、体内で大切にされています。そのため、血液が脳に入る所で「血液脳関門（Blad-Brain-Barrier）」と呼ばれる関所があります。通常は、トリプトファンはたんぱく質の一種であるアルブミンと結合していて、なかなか血液脳関門を通過できません。

　しかし、運動をして血液中で脂肪の分解がおこると、アルブミンは（トリプトファンから離れて）分解された遊離脂肪酸と結合します。アルブミンから離れたトリプトファンは、血液脳関門を通過しやすくなります。脳に入ったトリプトファンからセロトニンが豊富に作られて、不安が減り、癒されて、気持ちの落ち込みも解消されるというわけです。

　その他に、脳内では運動することによって満足感や幸福感をられるエンドルフィン、ドーパミンなどの物質も増えるため、明るい前向きな気持ちになりやすいのです。

　ストレスの多い現代ですが、適度な運動を定期的に続けて、体の健康を目指すとともに、明るい気持ちで過ごせる精神的な健康も養いたいですね。　　

2010年10月掲載