菅野 隆(セルフメディケーション推進協議会理事)
41. 普段から「非常時」に備えたセルフケア、健康運動を!
3月11日の東日本大震災は、大地震、大津波、原発事故と重なり、それ以前には想像もできなかった程の「非常時」となり、約50日を経過した今もその混乱は続いています。被災された地域の方や避難所での生活を余儀なくされている方の状況は、察するに余りあり、絶望感、喪失感、様々な不安、心労などによる気力の枯渇、やり場のない怒り、生活環境の激変、また、避難所では、プライバシーのない集団生活や、固い床の上で寝るということだけでも不眠のリスクとなり、極限的心身へのストレスは想像を絶するものだと思います。
「非常時の健康セルフケア」
〜「運動運動」による心身のセルフコンディショニングのすすめ〜
〜「運動運動」による心身のセルフコンディショニングのすすめ〜

NPO法人セルフメディケーション推進協議会 東日本大震災救援対策委員会 | |
制作: | 日本健康運動研究所 |
非常時の健康リスク
- エコノミークラス症候群
避難所や車の中など狭い場所で長時間同じ姿勢を取ることで、身体活動量が著しく減少することとストレスがあいまって、特に鬱血した脚部で血栓ができやすくなる病態で、肺塞栓や脳梗塞の発症原因となり、最悪の場合死に至ります。一度できた血栓は慢性化し、数年経ってもなかなか消えず、慢性化した血栓がある人は、ない人に比べ脳梗塞の発症頻度が「6倍」も高いという報告があります。- 2004年新潟県中越地震…車の中で泊まっていた人などを中心に多発。小千谷市では78人中29人(37.2%)に血栓が認められ、 エコノミー症候群で4人が死亡。
- 2007年新潟県中越沖地震…柏崎市の避難所で受診者400人中65人(16.3%)に血栓。
- 今回の大震災で宮城県南三陸町、石巻市など13市町の避難所で被災者655人の足を調べたところ、93人(約14%)に血栓(11/3/20調査データ)
- ロコモティブ・シンドローム
「運動器症候群」ともいわれ、不活動な生活が継続すると、膝、腰などの運動器(関節等)の障害リスクが高まり、骨、関節、筋肉などの運動器の廃用性弱化、萎縮を加速し、全身、特に膝・腰の血液循環を低下させ、痛みなどの愁訴を増幅させ、特に高齢者などでは立ち座りにも支障をきたし、自立した生活が困難となります。
→不活動な生活の継続を避け、できるだけ下肢関節を動かし、下肢関節の血液循環を良くする。また、脚、腰を使う事を心がけ、適度な負荷をかけ(筋力トレーニングで) 強化する。 - 低体温症
心臓や肝臓など体の体幹深部の温度が35度を下回った場合の病態で、重度の場合、自律神経の働きが損なわれ、死に至る事もあります。体幹部の温度が重要で、わきの下などで測る体温が下がっても低体温症の目安にはなりません。避難所では多くの高齢者が低体温症でお亡くなりになっています。
→体幹部(骨盤周辺、腰、腹背部、胸郭)の筋や結合組織をストレッチでほぐしたり、意識的に動かして、血液循環を促進し、体温を上げる。 - 重度の心身ストレスダメージ
極限的重度のストレスは、自律神経の交感神経を過剰優位にし、心身の過緊張により不眠症や末梢血管収縮による血行疎外、低体温症等の健康リスクを助長し、また、免疫を低下させ感染症リスクを高め、内分泌機能をも変調させますので、様々な疾病発症や持病等の悪化リスクを高める要因となります。
→ストレッチや腹式呼吸を励行し、できるだけ気持ちの良い程度に全身を動かし、副交感神経を優位にシフトさせ、心身をリラックスさせることでバランスをとる。
非常時でも平常時でも、被災者でも被災者じゃなくても、原理原則は同じ
以上に述べました、1〜4の非常時の健康リスクは、極限的状況、環境下で一気にそのリスクが拡大し、表出するために「特異的」となりますが、ふだんからの一般的な毎日の生活においても、「慢性的不活動な生活の継続」による、血栓生成や血管性疾患、膝痛、腰痛などの関節障害の痛みによる生活活動への支障、慢性的低体温傾向による健康障害や不定愁訴、または、「ストレス」に起因した疾病や心の病などは、まったく変わらない、多くの人が抱えている健康リスクであり、要は、一気に凄まじい強さでそれらにさらされるのか、慢性的でゆるやかなのかという点が異なるだけといえましょう。
ぜひ、今日からご自身の生活をあらためて見直し、いつ、何があっても健康のリスク管理としての運動や身体活動のスキルを、自然に、身近に、当たり前に生活習慣化していただき、「セルフケア」の意識を高め、災害に負けず、皆なで、健康で明るい未来を築いていきましょう!
2011年04月 掲載
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