長阪裕子(セルフメディケーション推進協議会会員)
42. がんばろうニッポン! 運動はがんばる?がんばらない?

あれから2カ月以上経ちましたが、皆様いかがお過ごしですか?前回の菅野先生のコラムにもありましたように、未だ運動どころではないと思われている方もいらっしゃると思います。しかしながら、私たち人間は「動物」です。生きていくためにはある程度、動くことがとても大切なのです。そこで、このコラムを書かせて頂きます。皆さまにお読み頂ければ幸甚です。
さて、当SMACでは被災された方々、避難されている方々への支援活動を行っています。私も「健康支援隊」の一人として同行させて頂き、そこでたくさんの方々とお逢いしてきました。
運動は頑張る?頑張らない?
『がんばろう!日本』。今、この「がんばる(頑張る)」という言葉の使い方について、賛否両論されています。実際、避難されている方々にお逢いすると、「こんなに頑張っているのに、もうこれ以上頑張れない。頑張ろうって言われると辛いんです。」と涙ながらに話された方々もいました。この「頑張る」という言葉の意味を改めて調べてみると、「我意を張り通す」「どこまでも忍耐して努力する」などとあります(広辞苑より)。運動の場面では、「頑張って運動しましょう」「もう少し頑張って」などと使われることが多くあります。もちろん、子供を対象にした運動では、この使い方も良いと思います。しかし、大人を対象にした運動では、私はあまりお勧めしません。なぜかと言うと、人は頑張ろうとすると、知らずと筋肉が過剰に緊張したり、苦痛があっても我慢して無理な状態を続けてしまうことがあるからです。すると、ケガや疾病の悪化につながる危険性や、良い動きが引き出せないこともあります。では、頑張らない運動ってあるのでしょうか?
筋肉は「弾力性」が大切!
そもそも、運動において大きな鍵となる筋肉は、緊張と弛緩を繰り返す「弾力性」が重要です。筋肉をゴムに例えてみると解り易いでしょう。新しいゴムは縮んだり伸びたり弾力性がありますが、古くなったり使わずに硬くなったゴムでは弾力性がなくなり、引き伸ばそうとすると簡単に切れてしまったり、元の長さに戻りにくい(縮みにくい)ことがあり、ゴムとしての機能が低下します。これは、太いゴムでも細いゴムでも同じです。もちろん、筋肉は細いより太い方が力強くて良いかもしれませんが、古くなったり(加齢したり)硬くなると弾力性が失われて機能が低下しますので、単に太いだけではダメだということです。
また、筋肉はゴムと違って縮んだり伸びたりすることだけでなく、緊張と弛緩をします。筋肉は収縮する時だけ緊張するのではなく、伸ばされながらも緊張すること(腕相撲で負けている時など)や長さを変えなくても緊張すること(長時間同じ姿勢など)があります。息を止めて動かない壁を動かそうと押し続けるなど、高強度で筋肉を緊張し続けると、血圧を上げて血管に負担をかけてしまうことがあります。
また、低強度でも筋肉が持続的に緊張し続けると、血液循環の不良や筋肉内に疲労物質を蓄積させてしまうことがあり、肩こりや腰痛、ケガなどを招くこともあります。日頃、筋力トレーニングに励むことは良いことですが、筋肉を緊張させ続けていませんか?運動後は、ゆっくり筋肉の緊張をほどいていますか?
つまり、いかにして弾力性のある筋肉をつくるかがとても重要で、そのためには筋肉を弛緩させる運動、頑張らない運動はとても大切なのです。
頑張らない運動をやってみよう!
では、頑張らない運動ってどうしたら良いでしょうか?筋肉を伸ばすストレッチングでも、奥歯をかみしめて、できるだけ遠くに手を伸ばそうと必死に行っている人を見かけます。ストレッチングでもやり方によっては頑張って筋肉を緊張させていることがあります。そこで、どんな運動でも他人と競争するのではなく、まず自分の身体と会話をしてみて下さい。奥歯をかみしめていないか、肩に力が入っていないか、眉間にしわが寄っていないか、息が止まっていないか、無理をしていないかなどを確認しながら、余計な緊張をほどいて行ってみて下さい。最近では、この頑張らない運動を身体ほぐし運動と呼んでいたりもしますが、具体的な方法については、次回以降ご紹介したいと思います。
私が避難所での運動をお薦めする際、「心と身体を一緒にほぐしてみませんか。」と皆さんに声をかけました。すると、たくさんの方が運動のお付き合いをして下さり、笑顔を見せてくれました。もちろん、私と同業者の中には「大変な時だけど、ちょっと頑張って運動しましょう。」と薦める者もいます。何が良いかはわかりませんが、先日、ある著名人が「頑張る」を「顔晴る」と書いていました。『がんばろう(顔晴ろう)!日本』皆の顔が晴れやかになる日本を目指していこうという意味だそうです。そう考えると、『顔晴る(がんばる)運動』もありそうですね。
皆様のご健康と晴れやかな顔があふれる日々を心よりお祈り申し上げます。
2011年05月 掲載
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