セルフメディケーションを実践のための200テーマ

福田千晶(セルフメディケーション推進協議会理事)

46. 運動後の入浴について考える
 前回の長阪裕子先生の原稿で「アクティブレスト」の話が書かれていました。スポーツの秋、気持ちよく体を動かした後のケアは、もちろん大切です。ストレッチをしたり、入浴をしたり・・・。

 ところが最近「運動直後の入浴はダメ」という情報が広まりつつあります。このような説が登場すると、力説する指導者、情報として掲示する施設や団体なども登場するのが常です。

 医学的に考えて、運動後の入浴がダメと言われる理由は二つ挙げられています。

  • 運動直後の入浴で、脂肪燃焼効果が減少する。
  • 運動直後の入浴で疲労回復が遅れる。
 では、この各々について考えてみましょう。
脂肪分解について
 運動により脂肪分解が進んでいるのに、入浴によって体が温まるとその働きが低下して、脂肪燃焼の機会を奪ってしまうという説があります。確かに脂肪分解酵素のリパーゼの活性には特徴があります。リパーゼは運動によって活性化されて、脂肪が効率よく分解されるまでには運動後20分くらいかかります。

 その一方で、運動を停止した後も約30分間はリパーゼの余熱効果で脂肪燃焼が期待できます。ですから、この時間内に入浴で体が温まってしまうと、余熱効果が低下して、せっかくの脂肪燃焼効果も低下することになります。つまり、入浴は運動を終えて30分以上経過してからが望ましいと言えるのです。

 しかし、これも運動とリパーゼの効果だけに注目した場合の話です。現実には入浴でもエネルギー消費はあるので「痩せる」という目的に、わずかながら貢献しています。そもそも、運動により酵素リパーゼの活性が関る脂肪燃焼の働きは、運動量や体格、年齢などによってかなりの個人差があるでしょう。入浴の消費エネルギーも個人差が大きいものです。

 場合によっては、入浴で(内臓脂肪や皮下脂肪ではなく)血液中の脂肪などエネルギーを消費しておくことで、体に脂肪がたまらずに済むメリットがあります。ということは、「運動後の入浴は良くない」という理論は、全ての運動者に適応するとは思えません。

 運動の強度によっては、運動終了後まで脂肪燃焼効果が持続するかどうかも疑問です。仕事帰りに軽く体を動かす程度なら血液中の糖分や肝臓に蓄えていたグリコーゲンを使うだけで足りるので、体内で脂肪を燃焼する効果そのものが乏しいことも考えられます。

疲労回復について
 運動直後は、運動により負担がかかる筋肉に血液が多く集まります。送られた血液によって酸素の供給と(老廃物質である)乳酸などの排泄を積極的に行っています。

 ところが、入浴すると顔や体が赤くなることでもわかるように、皮膚へ分布する血液が多くなり、また全身に血液循環が良くなります。ということは、疲労した筋肉へ多く送られていた血液は、運動直後に入浴することで他の部位に移動しやすくなります。そのため、疲労回復が遅れると考えられるのです。

 そう考えると、フルマラソンを完走した直後や、限局した身体部位に疲労やケガがありうる格闘技の試合後などの入浴はお勧めできません。しかし、慣れた距離のジョギング、ジムで気持ちよく汗を流す、全身の筋肉を使って心地よいペースでの水泳などの後の入浴は、悪影響とはまでは言えません。

リラックスや気持ちよさも大切
 「運動直後の入浴はダメ」という説は、理論的には正しいです。本格的なマラソン、県大会など本格的な競技などかなり激しい運動をした場合には、その説は合うでしょう。

 でも、このHPで推奨している健康運動としての軽いジョギング、競技ではなく楽しむ目的のテニスやゴルフ、仕事の気分転換も兼ねたジムでのトレーニング、この程度の運動ならいろいろ考えると入浴のメリットも捨てがたいものです。入浴には、温浴効果での全身の血行促進、水圧によるマッサージ効果、乾燥したノドや目や肌を癒す加湿効果などがあります。

 熱すぎる湯は心臓にも負担になりますが、ややぬるめの湯にゆっくり浸かる半身浴は、リラックス効果もありむしろ勧められることでしょう。「ゴルフの後のお風呂が楽しみ」とか「会社帰りにジムで汗を流して入浴すると仕事の疲れも流される」いう人もいるはずです。運動に付随して気持ちよい入浴なら、ダメということもありません。日常的な運動の後の入浴は「気持良いならよし」「一気に疲れて不快なら運動直後は入浴しない」この程度に臨機応変に考えてみましょう。

2011年10月 掲載
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