福田千晶(セルフメディケーション推進協議会理事)
52. マラソンは健康に良いか、悪いか

健康に良い理由
マラソンが健康に良い点としては、まず有酸素運動のメリットがあります。走ることで体内では、血液中で余っている糖分や脂肪を酸素を使って燃焼して消費できます。さらに、走る距離によってはすで蓄積してしまった内臓脂肪も消費できます。長期的にマラソンを継続することで、皮下脂肪さえも減少して、体重減少も可能となります。
マラソンに備えて日頃から週3回以上は走る生活を送ると、健康診断で高めになったと指摘された血糖値を下げられる場合もあるし、糖尿病対策につながることもよく知られています。その上、高くなってきた血圧が低下する場合や、脂質異常症(高脂血症)も改善する場合があります。つまり「生活習慣病」の生活改善と呼べる場合もあるのです。
人間の体は約7200kcalを消費すると、体重が1kg減少する計算です。走ることで使うエネルギーの概算は、体重(kg)に走行距離(km)をかけたものです。体重60kgの人が10km走ると、600kcalを消費します。食事などはそれまでのままでも、10kmマラソンを週3回、1ヵ月間(4週間とする)つまり12回を続けると7200kcal消費して1kg体重が減ります。これを継続すると徐々に体重が減少して、スリムで若々しいボディを目指せることになります。
もちろん走ることで、心臓や肺も強化され、筋肉は強くなり、軽やかに動ける、スタイルが良くなるなどよいことはいろいろあります。
多くのマラソンランナーにとってマラソンの一番の魅力は、走ることでの爽快感。または、完走したり良い記録がでたときの達成感ではないでしょうか? 走るなど特に足の筋肉をリズミカルに使うことで脳内にエンドルフィンと呼ばれる一種のホルモンが分泌されます。そして俗にハッピーホルモンとさえ呼ばれるエンドルフィンが分泌されて、良い気分になります。まさに動くことで日頃のストレス発散になると考えられます。
マラソンは自分との戦いでもあり、記録が分かりやすいものです。また距離が長いため、練習を積んだり、忍耐力を養ったり、フォームの改善など工夫をすると、年齢を経ても短距離よりはベストタイムがでる余地が残っています。記録への挑戦や記録更新の楽しみもマラソンを続ける意欲につながります。ときには精神的な鍛錬にもなり、社会生活で役立つこともあるでしょう。
旅で訪れた街を走ったり、各地で行われるマラソン大会に参加しながら、景色やそれぞれの季節を感じる楽しみもあります。
体を鍛え、心を鍛え、走る楽しみを味わいながら健康になる、健康を維持できればなによりです。
マラソンが体に与える悪影響
残念ながらロンドンオリンピックの代表選手になれなかったが、多くの人々に好印象を与えた川内選手は、マラソン競技のゴールの後に倒れ込むことでも有名です。マラソンは、心臓や肺をはじめいろいろな臓器に普段よりかなり大きな負担がかかります。
また、体温が上昇しその熱を冷ますために多くの汗をかきます。体内の水分が不足して脱水になり汗をかきにくくなると熱中症にもなり、意識がもうろうとすることもあります。
前日までは体調良好でも、1回のマラソンで倒れて救急搬送される場合があるのです。つまり危険も多いスポーツと考えておく必要があります。
長期的に見ても、さまざまな健康問題を起こす危険があります。たとえば腰痛、股関節痛、膝の痛み、足底筋膜症、外反母趾などは、マラソンで起こりやすい整形外科的な問題です。足部の疲労骨折もマラソンランナーに起こりがちな病気のひとつです。
心臓に関しても人によっては、負担が大きすぎるため悪影響もありえます。血圧も上昇する人もあるので、日頃の健康管理は大切です。その他、内科的にも過剰な負担が課からための病気もあるので侮れません。
足が着地するときに、足底の血管には体の重みと速度が加わるため、血管の中を流れる血液中の成分のひとつである赤血球の一部は破壊されます。これは、ジャンプの多いスポーツや舞踊でもおこりますが、マラソンは足底着地の回数がとても多いのです。足底で赤血球が破壊されすぎると、体内で赤血球が不足して、貧血になります。
マラソンに熱中しさらに走る快感のとりこになると、多少の不調でも走り続けることになります。そして、「運動しているから健康」と過信しているうちに、身体の状況を悪くしかねないのが一番の問題でしょう。
結論は?
マラソンが体に良いか、悪いかはスポーツ医学の世界でもいろいろな専門家が討論しているテーマのひとつです。
私は、マラソンは走る気持ちよさ、完走や記録の向上など達成したときの快感も魅力で、そのため体調が少し悪くても、仕事が忙しくて疲労気味でも、走ってしまうことに問題があると思います。まずは、「マラソンするなら体と相談してから」が、ポイントです。
さらに、健康的なイメージが強調されすぎるのも問題です。「○○健康マラソン大会」などと名づけられると、健康面への危険は忘れられがちです。他のスポーツでは、格闘技やラグビー、アメリカンフットボールなどは「危険もあるスポーツ」と認識されて、その上で行われていますが、マラソンはちょっと違います。リスク管理を怠りがちなスポーツと考えられますから、ここにもリスクがあります。
マラソン人口が急増して、自己流の初心者ランナーも増えている今、正しい知識を身につけ、徐々に経験を積み、安全にマラソンを楽しみたいものです。脚の調子が悪かったり忙しい時期なら、日頃の練習も無理せずやや減らす配慮も必要です。大会でもフルマラソンだけではなくときにはハーフマラソンや10kmコースを選び、ゆとりを持って走る楽しみも味わってはいかがでしょうか? マラソンが健康に及ぼす影響も「過ぎたるは及ばざるが如し」と言うわけです。
2012年04月 掲載
■テーマ
1. オリンピック年こそニコニコペースで
福田千晶
2. 特定健康診断、保健指導スタート! 準備はOKですか? 菅野 隆
3. いよいよ花粉シーズン到来!そんなときこそ‘気づき’の運動を! 長阪裕子
4. 知っておきたい健康の雑学:運動習慣と糖尿病予防 福田千晶
5. メタボ解消の簡単日常運動法! 菅野 隆
6. あなたに合った運動とは? 続けられる運動こそが効果的! 長阪裕子
7. 熱中症の対策 ウエア選びと水分補給 福田千晶
8. 夏だ!街中を実用サイクリングで、エコに、爽快ダイエット! 菅野 隆
9. 水の中ってすばらしい! 長阪裕子
10. スポーツの秋には腹筋強化も 福田千晶
11. 引き締め効果抜群の「2ステップ3D法」のすすめ! 菅野 隆
12. 糖尿病に効く運動―食後運動のすすめ― 長阪裕子
13. 大掃除でエクササイズ 福田千晶
14. 痛みや不定愁訴の70%は簡単運動でらくらく解消! 菅野 隆
15. 科学的根拠に基づいた糖尿病の運動療法 長阪裕子
16. 花粉症シーズンの運動のワザ 福田千晶
17. 「ストレス」や「こころの病い」への運動、リラクゼーションの効果 菅野 隆
18. 太っている人と痩せている人の驚くべき運動以外の消費エネルギーの違い 長阪裕子
19. 健康運動にもサングラスを 福田千晶
20. 積極的「身体活動」のすすめ(気持ちよく体を動かしましょう!) 菅野 隆
21.着けるだけで身体活動量アップ!? -歩数計の活用- 長阪裕子
22.登山、アウトドアスポーツの注意 福田千晶
23.秋のダイエット大作戦! 菅野 隆
24. 朝に運動をする方・したい方へ 長阪裕子
25.冬の運動は、こんな注意を 福田千晶
26.筋トレ生活習慣化のすすめ!〜大事な筋肉に習慣的に負荷をかけて、自己身体管理してますか?〜 菅野 隆
27. トレーニングの原理・原則を知って、効果的な運動を! 長阪裕子
28.生活習慣病を有す人の運動で注意したいこと 福田千晶
29. しなやかで柔軟な身体をつくる ストレッチ! 菅野 隆
30. メタボ対策と一緒に「ロコモ」対策も始めませんか! 長阪裕子
31.ロコモティブシンドロームは健康寿命を延ばす? 福田千晶
32. 自分の「歩き」を、とことん研究してみる! 菅野 隆
33. 自分の体力をご存知ですか?体力テストにチャレンジ! 長阪裕子
34.メンタルな不調に運動療法 福田千晶
35. 即効、肩こり解消エクササイズ! 菅野 隆
36. 運動は禁煙にも効果的! 長阪裕子
37.花粉症治療で知っておきたいインペアード・パフォーマンス 福田千晶
38.毎日の身体活動の基本、「足」のメンテナンス! 菅野 隆
39. 女性からはじまる健康づくり運動を! 長阪裕子
40. みんなで運動し、心も体も元気になろう!集団運動指導の注意点 福田千晶
41. 普段から「非常時」に備えたセルフケア、健康運動を! 菅野 隆
42. がんばろうニッポン! 運動はがんばる?がんばらない? 長阪裕子
43. 夏の運動時、健康管理の注意点 福田千晶
44. お腹引き締め、ダイエットに効果的な筋力トレーニング! 菅野 隆
45. 身体と心をほぐす運動? ―アクティブレストを知っていますか?― 長阪裕子
46. 運動後の入浴について考える 福田千晶
47.有酸素運動はウォーキング派?サイクリング派? 菅野 隆
48. 身体と心をほぐす運動? ―リズムにのって楽しく心地よく― 長阪裕子
49.しなやか物質 福田千晶
50. お勧めの「お家中運動」、ホームサーキットトレーニング! 菅野 隆
51. 心と身体をほぐす運動(3)―気がつかないで緊張していた筋肉をほぐす― 長阪裕子
52. マラソンは健康に良いか、悪いか 福田千晶
53. 呼吸法でダイエット!呼吸をもっと活用しましょう!! 菅野 隆
54. 熱中症を予防して、快適な運動を! 長阪裕子
55. 夏の健康管理は生活の知恵を活用!! 福田千晶
56. 「コンビ・ウォーク」完成!オリンピック(スポーツ)と健康運動(日常) 菅野 隆
57. 安全な運動で快適に「スポーツの秋」を楽しもう 長阪裕子
58. 老化の原因の一つ「糖化」を予防する運動 福田千晶
59. ロコモ、メタボ解消から美容、若返りまで、「チューブ筋トレ」! 菅野 隆
60. ニート(NEAT)を増やす意外な方法 長阪裕子
61.運動の継続は健康の源。1日10分間でも20年間には計1000時間、差が出て当たり前!? 福田千晶
62. 他分野のエッセンスを取り込んだ身体調整健康運動 菅野 隆
63. 最終回:夢をもって続けよう健康運動 長阪裕子