セルフメディケーションを実践のための200テーマ

福田千晶(セルフメディケーション推進協議会理事)

55. 夏の健康管理は生活の知恵を活用!!
 運動は健康に良いので穴津でも続けたいものです。また、運動好きな人にとっては、暑さにも負けず、運動に熱中する日もあるでしょう。そこで、心配なのが暑い中での運動による権衡管理。
 生活の知恵を医学的に、科学的に理論付けて検討してみました。納得できると実行できることもあるでしょう。

[濡れタオル]
 特に夏は運動すると汗をかきます。汗をかくことで、その汗が蒸発するときに体内の熱を気化熱として放散し、体を自然に冷やしてくれます。ただし、夏は気温だけでなく湿度も高いので、汗が蒸発しにくく、そのため体内の温度が上がりすぎる危険があります。気温も湿度も高い日は、熱中症になりやすく要注意なのです。
 濡れタオルで汗をかいた身体を拭くと気持ちよいです。乾いたタオルで拭くと、汗の水分を吸い取りすぎて、新たに大量の汗をかいていしまいます。汗を拭く、汗をかく・・・これを繰り返すと多くの汗が出てしまいます。ですから体内の水分が不足して熱中症になる危険が高まります。
 濡れタオルなら、身体の表面をひやしながら、皮膚に軽く水分を与えるので、無駄な汗をかかずに身体を冷やせるのです。使い捨てのウエットティッシュでも大丈夫です。

[打ち水]
 体育館など冷房装置がない場所での運動では、窓の近くに「打ち水」をすると、その水が蒸発するため地面の熱を奪い、その場所で空気の温度は数℃低くなります。その冷えた空気が窓から入り、やや涼しくなります。窓やドアの前に、水をまいておくとことは、涼しく過ごす昔からの知恵なのです。
 空調の機械が屋外にある場合、その近くの地面に水をまいておくと、少し冷えた空気を機械が取り込んで冷やすため、さらに冷房効果は大きくなります。節電にもなりますから、実行したいことです。

[和風の朝ごはん]
 汗をかく夏の運動では、水分補給が必要なことはよく知られていて、前号で長阪先生が詳しく書いて下さいました。体内の水分が不足すると体温が上がり熱中症になって倒れる心配があります。また、血液が濃縮されて普段から高尿酸血症のある人は痛風発作の激痛で苦しんだり、高血圧や脂質異常症などを有する人は、命に関わる脳梗塞などの発症のリスクが高まりますから要注意なのです。
 運動時に限らず、熱中症で私が診察を行う医療機関に運ばれる人は、朝食を摂っていない人がほとんどです。
 運動する日は、朝から水分摂取を心掛けることと同時に、水分を体内に保持するための適度な塩分も必要です。朝食に、和食ならご飯の他に味噌汁、野菜のお浸し、漬物、梅干など食事から水分と塩分を摂っておき、さらにお茶を飲んでおきます。
 デスクワークだけの日の朝食は、洋食でも良いし、シリアルと果物とコーヒーなど簡単なものでも良いでしょう。でも、運動する日は、食事からも水分もたっぷり摂れる和朝食が望ましいです。

[冷たい飲み物を持参]
 運動する場所に大きなペットボトルを持参している人を見かけます。ペットボトルは飲んだ途中にも栓ができるので便利ですが、これは暑い夏には衛生的に問題があります。
 口腔内には細菌が多数存在しているので、口を付けて飲むペットボトルの液体にも細菌は入り込みます。さらに、高温で置いておく液体内では、細菌がどんどん繁殖します。特にスポーツドリンク、清涼飲料水など糖分入りもの、ミルクコーヒーなど乳製品が入りのものは、細菌の餌も多いためなおさら細菌が増えやすいと考えられます。
ペットボトルに記された注意書きに「開栓後はすぐにお飲み下さい」「開栓後は冷蔵で保存し、なるべく早めにお飲みください」と記されています。ペットボトルは栓を開けて、暑い日に何時間も持ち運ぶためのものではないのです。暑い温度の中に2時間以上も置いた飲み物は、細菌性腸炎の原因になりかねません。細菌性腸炎は、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状が現れて、とても苦しむ場合があります。
 ペットボトルの飲み物も栓を開けたらすぐに飲みきりましょう。もしくは、保温バッグに保冷剤を入れて持参して、冷蔵保存の状態にします。便利なペットボトルも、記載されている注意書きに従ってじょうずに活用しないといけないのです。
 最近では、ペットボトルでも、冷凍できるボトルに入っていて凍らせて売られているものもあります。これを持参して、溶けたら飲んでいくと、冷蔵庫に入れた状態が保てます。または、魔法ビンなど保温性能のある容器に、飲み物と氷を入れて持参する方法もあります。
以前は、部活など集団で運動する場合、大きな容器に麦茶と氷を入れて持参して、各自がコップに入れて飲んでいました。美味しいだけではなく、容器に口はつけないし、保冷しているので衛生的だったのです。

[運動後にも忘れず水分補給を]
 学校の近くというとお菓子屋さんかパン屋さんがあり、運動部の学生さんが帰りに冷たいものを飲んだりしていたものです。これも夏の健康管理に役立っていたわけです。最近では、その役目もコンビニに変わりつつあるでしょうか?
 水分補給の大切さは、運動が終わってからも続きます。バスや電車を乗り継いだり、歩いたりして帰宅します。帰宅してからの入浴でもたっぷりと汗をかきます。炎天下に停めてあった車に乗り込んだ途端に、汗が噴き出した経験はありませんか?車内は50度以上にもなるため、車に乗ると急に暑くて汗が出るの当然です。あっというまにシャツの背中は汗で湿りますから、コップ1杯分くらいのあせが出ているはずです。

[入浴後のフルーツ牛乳?]
 最近、熱中症予防のために、日頃から運動で汗をかいた後に、タンパク質を含む牛乳と適度な糖分を摂取しておくとよいと言われ始めています。水分だけを摂取すると血液が薄まるとか、もしくは血液量が減少するため、水分と同時にタンパク質や適度な糖分も大切であり、水分と適度のタンパク質を摂れる牛乳は良いという説です。
 阿部寛さんが主演の今年の大ヒット映画「テルマエ・ロマエ」を御覧になったかたは、覚えているでしょう。かつてのお風呂屋さんでは、入浴後に「フルーツ牛乳」が好まれて飲まれていた場面。汗をかいた後に、水分だけではなくたんぱく質と糖分をも含むフルーツ牛乳は、理にかなった飲み物なのかもしれません。
 昭和の時代には、運動のときも「水を飲むとバテる」と言われていました。時代は変わり平成になり「『水を飲むとバテる』は、間違い」と言われるようになりました。
 でも、最近では水分補給には日頃から汗をかいた後に、水分と一緒にたんぱく質、適度な糖分を摂っておかないと、血液が薄められて貧血などになりやすいという説明が注目されています。となると・・・「水(だけ)を飲むとバテる」という説も考えようによっては正しかったというわけです。

 今年はオリンピックイヤー。オリンピックの後は、スポーツ医学の世界でも研究が進むのが一般的。運動に関係するどのような研究結果や新しい論説が出てくるか楽しみでもありますね。

2012年07月 掲載
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