セルフメディケーションを実践のための200テーマ

村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)

1. 薬に関する仕組み

 連載のはじめの3回は薬に関する取決め(法・制度)、薬の作用などの概念を解説します。後は薬を効能別に解説しますが、主として大衆薬を中心にしたいと考えています。薬剤師の方にも知識の整理と薬を知らない人への説明に役立つと思います。

 かぜ薬、痛み止めといった「効果」を基準にして分けたり、のみぐすり、貼りぐすり、うがい薬といった「形態」から分けたり薬はたくさんの分類があります。ビタミンのように薬なのか食品なのかわからないものもあります。

 薬は「効くらしいけど副作用が怖いからのまない」「健康食品は副作用がないって聞いたけど、効くってホントウなのか」こういった質問はよくありますね。このような質問に答えるためには、やはり薬に関する仕組みを理解しておく必要があります。

 薬はからだに入って強い影響を与えるものですから、野放しにはできないという考えから各国が規制を行っています。規制とは法律や制度のことで、各国といったのは、各国によって違うということです。日本では「薬事法」を中心にしています。薬による被害―薬害の反省などによって法制度は改正されていますので、古い知識は役にたちません。

医薬品と他の商品との違い−薬事法が規定する明確な線引き

 薬事法は他の商品と区別して『薬』−正確には医薬品といいます−を特別に規定します。医薬品はからだに効く(有効性)ことと危険度が少ない(安全性)ことについて国(厚生労働省)が保証しています。当然そのためには証拠となる提出された研究結果について審査があり、製造販売後も調査報告する義務が課せられています。

 医薬品以外の商品、たとえばサプリメントや健康食品についてはこのような規定はありません。規制が全然ないわけではありませんが、医薬品とは違うということです。

 では医薬品以外のサプリメントや健康食品は効かないのかというとそうとはいえません。薬事法は医薬品以外の商品について、効果をうたって販売することを禁じていますから、それを行えば薬事法違反になります。

 医師や薬剤師は医療について専門知識をもっていますから、医薬品や医薬品以外の成分や製品について自分の考えをのべることは制限されていません。しかし、それはその医師、薬剤師の意見であって責任はその医師、薬剤師にあります。また、彼らも自分の意見に基づいて販売や宣伝をすれば薬事法違反になります。

 医薬品は承認、販売許可が必要といいましたが、厳密には目的に対する成分の量や方法の範囲を定めています。成分の性質(薬理作用)の限られた範囲を「医薬品」として利用して使うことが認められていると考えてください。外国では『薬』として認められているとか、薬理作用から当然この疾病に効くという論理は日本の薬事法にはまったく通用しません。

 最近、規制緩和に関連して、「医薬部外品」という言葉が目にふれます。医薬品は販売についても制約がありますから、薬局や薬店以外でも販売できるようにするには「医薬品」の指定をはずし、「医薬部外品」としたものです。成分や量を考慮していますがわかりにくいですね。「医薬部外品」は薬事法の対象ですが、「医薬品」ではありません。

医薬品の種類について

 医薬品の分類は目的に応じて、種々ありますが、必要に応じて解説していきます。

 まず、医療用医薬品とその他に分けます。日本で使われる比率は圧倒的に医療用医薬品が多く、ほぼ9割です。この比率は諸外国に較べても異常に高いのですが、理由や背景は複雑ですから説明は次の機会にしましょう。

 医療用医薬品は医師の指示によると規定されていますから、一般の方は買うことはできません。病院で点滴注射を受けたりするときに使われていますが、身近では処方せんによって薬局で調剤してもらう『薬』がこれにあたります。調剤した『薬』については、薬剤師が説明する義務があります。また、医師の指示や調剤薬はその時の「病状」に応じた医薬品ですから、余った薬が今または将来の病状に適切かどうかは答えられません。

 慢性的な病態や痛みの発生時に使う薬については、処方した医師が説明しているはずです。説明不足や患者の方が十分理解していない場合は、薬の成分や使い方について薬剤師が説明できることが多いので、薬剤師以外の方で相談を受けた場合は調剤した薬局に連絡するのがよいでしょう。

 その他の薬といいましたが、これらは一般用医薬品、大衆薬と呼ばれています。処方せんを必要としないで、患者(生活者)が自分の症状によって選んで使用することのできる薬といえます。

 症状といったのは、病態を正確に判断することは医師以外はできないとしているからです。通常は、症状の緩和を目的としていますが、予防的に用いるものも含まれています。一般用医薬品は処方せんは要りませんが、薬について知らない人が自由に選択するのはどうかという考えはあります。そのために相談するのは薬剤師が適切ということで、薬局や一般医薬品販売業には薬剤師がいなければならないとされています。

 欧米ではカウンターで薬剤師に相談すると後ろの棚やケースの中から薬を選んでくれて買うというのが定着してきました。そこから、カウンター越し(Over The Counter)、OTC Drugという名称が使われます。日本でもOTC薬という言葉は普及してきましたが、範囲や売り方はかなり違っていて、一般の方が他の商品と一緒に薬をとってレジに持参している光景がみられます。

 一般用医薬品には製品ごとに「説明書」をつけるか外箱に記載することになっています。大衆薬工業協会などが一般の方にもわかりやすいように、書き方などを工夫して統一する努力をしています。しかし、説明書は効き目や注意事項についての平均的記載で、使う本人の病態(症状)がないとわかりません。置いてあった、または以前の残りの薬をいざ飲もうとした時、「さぁ、困った!どうしよう」相談されるのはこういった場合でしょう。

 今回は薬に関する仕組みの一端をお話しました。これだけでは、何も具体的に役立たないかもしれません。しかし、薬の背景を知らないまま、薬を安易に説明すると、とんでもないことが生じる危険があります。次回から、一般用医薬品を中心に作用や使い方について述べていきます。

2005年12月 掲載
■テーマ
1. 薬に関する仕組み
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬