村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)
‘万病に効く薬’‘不老長寿の薬’という表現は、薬とは人の身体に益となる貴重な物質であるという意味がこめられています。一方、薬には副作用がある、または副作用が起こりそうだから怖いという表現には、薬によって生じる思わしくない、または危険な現象を指していると考えます。どちらも、薬という物質が体内に入ることによって生じる作用をいっています。簡単にいえば好ましいものを「効果」といい、不都合なものを「副作用」といっているようです。今回は薬の作用について説明します。
薬という物質、すなわち薬物が身体に入って、生理機能に影響を与えることを薬理作用といいます。しかし、この薬理作用はそう簡単、単純ではありません。例えば、生理機能を高める場合もありますし、逆に抑える場合もあります。
身体は循環器官、消化器官、内分泌系などの臓器によって成立していて、それらの働きは神経系によって調節されています。ある目的の臓器に対して、一つの作用だけを持っているならば説明もやさしいのですが、それはまれで大抵の場合身体に入れば各臓器に対して様々な影響を与えると考えるべきでしょう。今、使われている「医薬品」はこの作用(影響)について検討された結果、疾病などによって機能が損傷または異常となった状態を修復する「効果」が期待されるとしたもので、そのためには使い方を守る必要があります。
“身体に入って”と言いましたが、薬の中には身体に入らないものもあります。消毒剤(殺菌剤)などは、人体に有害な微生物を殺すことによって感染を防ぐ目的で使われます。抗生物質製剤も病原微生物を殺すためで、経口や注射によって身体に入っても身体の生理機能には作用しない、というより作用しないことが望ましい薬です。
また、抗がん剤で問題になる副作用は、目的とする対象はがん細胞の破壊にあるのですが、正常細胞に全く影響しないでその作用を有する薬はまだ出現していないからです。では、たくさんある薬を使う目的別に分けてみましょう。
まず疾病などの原因を取除く目的で使う薬です。原因療法といわれます。
これは、感染対策が第一にあげられます。疾病の原因が分かれば、その原因である病原微生物に有効な薬物が選択されます。20世紀前半までは赤痢菌、コレラ菌さらに結核菌など感染の主犯が細菌で死亡原因のトップでしたが、ペニシリン発見以後抗生物質製剤の目覚しい進歩によって激減しました。かわってウイルスの脅威が懸念されています。
病因を取り除くことが困難な場合には、症状を緩和する対症療法があります。
不快な症状である痛みをとる薬は、手術時の麻酔薬、がん性疼痛に対する麻薬、頭痛や胃の痛みを緩和する市販の大衆薬まで様々です。感染症にかわって、疾病の上位を占める生活習慣病とよばれる高血圧症や高脂血症に対する「血圧を下げる薬」や「コレステロール値を下げる薬」もこの分類に入ります。しかし、薬をのむのは大切ですが、生活の改善なしでは治療にはなりません。
身体の機能を維持するために必要な物質を補うのが補充療法です。すい臓からのインスリン分泌が不足の場合、インスリンを自己注射するなどが典型的な例です。輸血療法もこれに入ります。身近な例では、ビタミン剤をのむ、乾き目に目薬をさすのもそうです。
もうひとつ予防療法というものがあります。警戒を要する鳥インフルエンザの対応策として「ワクチン療法」が考えられています。ポリオや肝炎に対してワクチンは実績をあげています。手術室や病室の消毒剤も感染予防という意味でここに入ります。
薬の作用を説明するために、主として医療用で使う薬を例にあげましたが、これらは医師や薬剤師にしっかり管理し、使用してもらうべきです。
生活者が判断して使う一般用医薬品については、生活者やそれを支援する方にも使う目的をしっかり把握してほしいのです。一般用医薬品は自分の症状によって選んで、その緩和を目的として使用するのですから、対症療法、補充療法が主で、疾病等の原因を判断して行う原因療法の「薬」は少ないと考えてよいでしょう。世界でも日本においても、大衆薬(一般用医薬品)での売れ筋は、かぜ薬(:解熱鎮痛薬を含む)、胃腸薬(消化器官薬)、栄養補助薬、そして外用薬の4種類です。
かぜ薬は‘かぜ’という症状を緩和する対症療法です。発熱、頭痛、鼻水、咳や痰などが一般的で、それぞれに対応した成分が配合されています。かぜ薬は症状を和らげますが、かぜを治すわけではなく、また肺炎などを予防する作用はありません。治すのも予防するのも本人の体力です。
胃腸薬や下痢止め、便秘薬もほとんどが症状の緩和を目的とした対症療法です。抗ヒスタミンH2遮断薬というスイッチOTCがありますが、これは胃酸分泌を抑える原因療法のひとつです。それだけに、使い方など薬剤師から説明を受けて使ってください。詳しくは、各論で解説します。
栄養補助薬といいましたが、栄養は一部の病人の方を除いて、食品として摂るのが正しい生活です。白米によって脚気が起こる、野菜嫌いで壊血病といった過去の歴史から、不足した栄養素を補充する目的でビタミン剤などが使用されました。のみやすいドリンク剤が登場し、コマーシャルが拍車をかけています。最近は医薬部外品として薬局、薬店以外でも購入できます。さらに、目新しい物質がサプリメント、健康食品としても宣伝されています。サプリメントが補助という意味であることを知ってください。
外用薬も詳しくは後で説明しますが、皮膚に塗ったり、貼る薬で腰痛やかゆみを抑える対症療法を主としています。もうひとつ、感覚器官用として目薬がありますが、先にあげた洗浄、あるいは補充を目的としたものと一部治療を目的としたものがあります。
気がつかれたかも知れませんが、セルフメディケーション推進の立場からは疾病の予防に役立つ一般用医薬品がもっとあってほしいと思います。確かにビタミン剤やサプリメントの使用が健康維持に役立っているかも知れませんが、生活習慣病の予防には食事をはじめ運動など生活改善が先と考えます。
薬理作用の分類
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薬が身体内に入ると様々な作用が起こります。薬の目的は「効果」ですから、主作用と効果はほとんど同じ意味で使われます。主作用に対比する言葉は副作用ですが、副作用が全て悪い作用というわけではありません。
たとえば、花粉症の場合、鼻水を止める抗ヒスタミン薬はアレルギーなどによって生じるヒスタミンの分泌を抑えますが、同時に眠気を催すという「副」作用があります。煩わしい鼻水を止めて仕事をしようとする人にとって眠気は困ります。特に車の運転などは事故につながりかねません。眠気は都合の悪い副作用です。しかし、眠りたい人にはこれは好ましい「主」作用になります。事実、一般用医薬品として販売されるようになりました。
薬事法では副作用という用語を薬物有害反応の意味で使うとされています。薬が使われたことで生じる好ましくない出来事を有害事象としていますから、副作用を不都合な作用という意味で使っていきます。
私たちはよく生活者の方から、「このお薬は副作用がありますか」という質問を受けます。「副作用のない薬なんてありません」というのが正確な答えかも知れませんが、それでは質問された方はますます不安になるでしょう。「このお薬を使用すると、私に副作用が起こらないでしょうか」というのが、ほんとうに聞きたいことなのかも知れません。
ところがこの質問になるとさらに答えるのは苦労します。副作用(主作用も)は、薬にあるというより身体に入っての作用によって生じるからです。入り方―薬の量や使い方と入った身体内の状況―年齢、病状、そして最近は使用する人の遺伝子型も関係することがわかってきました。
やはり、薬は危険だなんて早まらないでください。一般用医薬品も含めて、すべての医薬品はヒト以外の動物試験の後、ヒトでの臨床試験の結果から、目的とする効果に対して副作用が生じる危険が少ないように量や使い方を定めています。それでもこの使用方法は平均的なものですから、万一に副作用が生じることは有り得ます。薬を使う人は、使用方法を守り、何か不都合なことに気づいたら医師、薬剤師にすぐ相談してください。
副作用にもいくつかの種類があります。この中には自分で気がつくものとわからないものがあります。胃腸の具合がおかしい、かゆみやしみなどの皮膚の異変などは誰にも気がつきます。しかし、肝臓や腎臓の機能への影響は自覚症状がないことが多いので、定期的に相談することをお勧めします。
また、副作用に入る中で他の薬や食物との「のみ合わせ」「食べ合わせ」−相互作用は一般の方には難問です。薬物療法をはじめる時には、薬剤師に一般薬や健康食品など使用中のものを話してアドバイスを受けてください。
今回は、薬の作用について話してきましたが、身体内で作用を発揮する過程を知るともっと具体的にわかると思いますので、次回はそれをお話しします。
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬