セルフメディケーションを実践のための200テーマ

村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)

4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係

 前回までの説明で体内に入った薬は効果が現れ、そして消えていくまでかなり複雑な経過をたどることがわかったと思います。

 薬の作用についての仕上げとして、薬物動態に影響を与える薬物側の因子をとりあげます。この因子に関係するのは用法と用量ですが、今回は“飲んだ”あるいは“使った”薬の量とその効果との関係を中心に説明していきます。

一般用医薬品の説明書の記載 

 一般用医薬品の外箱や説明書には、「使用上の注意」、「効能・効果」に次いで「用法・用量」という項目があり、年令、1回量、服用回数が記載されています。年令は15才以上、あるいは成人(15才以上)のような表現をしています。その後に小児(5〜14才)とか5才未満とか、もう少し年令幅を細かく分けて記載されている場合もあります。一見わかるようですが、ハテナ?と思った方はいらっしゃいませんか? 成人って皆同じなのかなとか、どうして5才を境に量が違うのかと考えたことはありませんか?

 この年令による用量の設定は、選挙権や乗車賃のような社会ルールによる区分ではありません。そうか、やっぱり俺は体重が多いから、倍のまないと効かないのだなんて早合点してはいけません。記載の書き方と内容には、理由も根拠もあるのですが、その意味を正しく把握している必要があります。

薬は量が増せば作用も比例して強くなる

 薬の量と作用の関係をみると、薬の量を増していくと作用も強くなります。当り前じゃないかと言われそうですが、そんなに単純ではありません。

 薬の量を0からだんだんと増やしていってもある程度までは作用として現れません。その後次第に作用(効果)が用量に比例して現れてきます。この関係を用量依存性があるという表現をします。

 用量を対数で横軸にとり、それによって起こる作用を0から100%まで縦軸にとりこの関係を印していくとSの字に似た曲線が描けます(図1)。これを用量―反応曲線と呼んでいます。作用が現れてくる最低の濃度を最小有効濃度とし、それ以上を有効域といいます。

ED50:約50%の効果が出る量
LD50:約50%に死亡が生じる量
Aの方が効果は高いが、治療係数を考えるとBの方が臨床上有用性が期待できる。

薬の毒性も同じように現れてくる

 薬の量を上げていくと、作用も強くなりやがて100%に近づきます。この辺りでは、薬の量を増やしても効果は変らない、言い換えれば限界に達します。さて、ここで重要なことがあります。今まで作用といっても効果―薬のいい面にだけ注目していましたが、薬は色々な作用を有していて、臓器や組織に対して毒性がでることも不思議ではありません。この毒性の現れ方も先と同じような用量―反応曲線を描きます。

 少量では毒性として現れなくても、ある最小中毒濃度を超えて中毒域(危険域)に達すると身体に有害作用を呈します。さらに、量を増していき、最小致死量を超え致死量域では死亡する例が出てきます。

薬の安全性をどうして保持していくのか

 薬は効いてほしいし、毒性や副作用が出ては困る―こんな当たり前のことを実現させるには、薬を創る人、薬を販売する人、そして実際に薬を使う人が正しい共通の知識を持つことが基本です。薬の効果毒性も量によって強さは増しますが、その発現濃度は差があります。

 その差が少なかったり、効果が十分に発揮するかしないかの量で、毒性や、まして致命的な有害作用が出る「物質」は薬にはなりません。創る段階で、この差を較べることは人ではできませんから、マウスなどの動物実験を重ねて人に使っても安全と判断した候補を選び、臨床試験を経て薬となっています。この差は大きい方がいいのですが、中には有効域と中毒域が近接しているものがあります。

 薬事法ではそれらを「毒薬」「劇薬」として区別しています。毒薬とは毒があるという意味ではありません。また、一般用医薬品では医療用医薬品での実績や作用がマイルドな成分が使用されているので心配は少ないでしょう。しかし、普通薬でもむやみに量を増やしても効くわけではないこと、薬には適正な量が設定されていることをしっかり認識してください。

薬の効き目は時間で変化する

 用量と作用の関係はわかったと思いますが、ここで前回説明したADMEのことを思い出してください。薬は体内に入る吸収から排泄までの過程で変化していきます。つまり、正確にいえば作用に関係するのは、錠剤などに含まれている量ではなく体内または目的とする組織などに存在する量なのです。

 しかし、実際に組織にどの位の薬やその代謝物が存在するかを測定することは困難なので、血中濃度を目安にしています。内服薬や外用薬では投与(服薬)した薬の量の中、どの位が血中に移行するかが指標となり、この割合を生物学的利用率という表現をします。医療用で汎用されている静脈注射では、血管もれがないとして利用率はほぼ100%と考えてよいでしょう。

 体内への吸収は投与後徐々に進み、血中濃度は時間と共に増加していき、やがて最高濃度Cmaxに達します。注射の場合は一気に血中濃度が上昇します。急激な上昇を避けるには、ゆっくり注入するか希釈して時間をかけて点滴するなどの方法をとりますが、多くの場合、点滴修了時に最高血中濃度に達します。

 最高血中濃度に達した時間をTmaxといいますが、この時点から濃度は徐々に減少していきます。(図2)これは、前回述べたように薬が代謝され、排泄されていく結果でやがて血中濃度が0に近づき、目的とする効果もなくなります。減少する速度は薬によってそれぞれ異なりますが、最高血中濃度の1/2になる時間を速さの目安として半減期T1/2と呼んでいます。

 ここまでの説明によって、この血中濃度が有効域にある間が薬が効いている時なのだということは容易に考えられるでしょう。その通りで、残存効果とかプラシボ効果とか複雑に影響するものがありますが、薬の作用は基本的にはこのように説明できます。

具体的な製剤の設計と薬の使い方の説明
 さて、血中濃度を有効域内に維持するためには、少なくともいくつかの工夫をしなければなりません。血中濃度を高くすれば、最小有効濃度以下に要する時間を長くすることはできますが、高すぎると中毒域に入ってしまう危険があります。一般的には、服用回数は少ない方が煩わしくなくて便利ですが、半減期によってはそれが困難なので効果の維持という観点から、1日3回とか、6時間毎という使用法が定められているのです。

 薬の成分の性質は変えられませんので、半減期の短い成分を含む薬を製剤学的工夫によって、徐々に成分を放出する形で持続型にしているのもあります。内服の場合、1日3回毎食後のような指示をみて、食事が必ずしも等間隔ではないとか、等間隔にすると食後と重ならないという質問がよくあります。

 説明書は平均した食事時間と、内服薬は一般的には空腹時をさけた方がよいという考えでこのように記載しています。一般用医薬品の場合は、3回は大体5〜6時間間隔を目安という指示が多いのですが、薬剤師に直接聞いて確かめるのがよいでしょう。

説明書は平均値で、人によって薬の効き方は違う

 今回は主として薬(成分)を中心に話をしてきました。図や説明を聞いていると、ついつい薬は誰にも同じように作用するように思っていませんでしたか? 実は、有効域中毒域も人によって違って幅があるのです。また、代謝や排泄も人によって差があります。同じ人でも、年令とともに臓器、特に腎臓の機能が衰えてくると薬の作用している時間が長くなる傾向があります。

 では、薬の説明書に書いてあることは信用できないのでしょうか。そうではありません。成人への投与量を例にとると、15才以上から大体60才位までの方100人を対象として指示された用量と投与回数で服用すると大部分の方の血中濃度曲線はある幅の中で、有効域内に維持されます。もちろん、何人かの方は上下にはみ出すかもしれませんが、血中濃度が中毒域に達することはありません。成分の性質や製剤設計によって、安全で、かつ多くの人に効き目がでるような量と回数を定めているのです。

 記載の用量はいわば、平均値ですから人によって薬の効き方は違うのは当然なのです。薬とは少し違うのですが、わかりやすい例として「お酒」があります。ワインを同じグラス一杯飲んでも平気な人もいれば酔っ払う人もいることを考えてみてください。

 年令によって投与量を設定しているのは、体格の他に代謝機能などを考慮しています。高齢の方にも配慮が必要なので、薬剤師に相談された方がよいでしょう。

薬を使うのは慎重に、わからないことは薬剤師に聞く

 ここまで、薬の作用について詳しく説明してきました。少し難しかったかも知れませんが、薬を実際に使うのは、患者さんまたは生活者ですから、このことは知っていてほしいのです。

 医師や薬剤師は薬を使うにあたってのアドバイザーです。各々の症状や各々の薬の成分や製剤の特長については知識もあり、また不明なことはどうやって調べるかについて熟知しています。一般の方が、薬の基本を知っていると説明が非常に効率よくなります。

 また、看護や介護、さらに栄養や運動の指導にあたられる方は、患者さんや生活者から相談されることも多いでしょうから、薬の基本はぜひ知っておいてください。繰り返しますが、個々の不明なことや薬の詳細は薬剤師に聞いてくださればと思います。

 次回から、目的や各症状別に使用する薬を一般用医薬品を中心に紹介していく予定です。

2006年03月 掲載
■テーマ
1. 薬に関する仕組み
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬