セルフメディケーションを実践のための200テーマ

村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)

5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり

 久しぶりの寒い冬も終わり、やっと春の訪れです。しかし、花粉症の方にとってはつらいシーズンでもあります。今年は例年より花粉は少ないという予測ですが、マスクなどの防護の用意や、やはり「くすり」による療法も必要な方もいらっしゃいます。今回から一般用医薬品の選び方と使い方について順次取上げていきますが、最初は「花粉症のくすり」をとりあげます。

花粉症はどうして起きるのか

 花粉症はアレルギー反応の典型的なもので、花粉という抗原が鼻から吸入されて、鼻粘膜の肥満細胞の表面にある抗体と反応します。この反応によって肥満細胞からヒスタミンという物質が遊離されます。ヒスタミンは炎症を起こすメカニズムの中で重要な役割を担っていて、血管の透過性が亢進されて鼻水が出たり、神経末端を刺激してくしゃみが出るなどの症状が現われます。でも、なぜ抗体のできかたやどの花粉によるのかなど個々の症状が生じる経過などは、食物や生活習慣など様々な要因が関与することは確かですが、詳細は完全には解明されていません。
花粉症に対する薬はどんなものがあるか

 花粉症の起きる仕組みから、薬としてこれを阻止または症状を緩和するには大きく二つの方法が考えられます。まず、アレルギー反応を抑えようとする方法として、ヒスタミンの遊離するのを阻止する抗ヒスタミン薬があります。もうひとつは、血管を収縮させて鼻水をとめる血管収縮薬、粘性の鼻汁を分解する消炎酵素薬、神経系に作用する抗アセチルコリン薬など症状緩和に役立つ成分を配合する方法です。前者は抗アレルギー薬、後者は鼻炎用内服薬のように分類されています。
抗アレルギー薬の種類

 抗ヒスタミン薬の代表的なものは、マレイン酸クロルフェニラミンで、市販されている該当する薬の多くはこれを用いています。かぜ薬にも鼻水をとめる目的で配合されています。類似したものとして、塩酸ジフェンヒドラミンがあります。また、スイッチOTCとしてメキタジンがあります。抗ヒスタミン薬は効果は確かで鼻水などはとまりますが、もうひとつの作用として「眠気」があります。眠り薬としても使われる位ですから、寝る前や安静にする場合はこれはプラス効果となりますが、眠ってはいけない場合はこれは危険な副作用です。服用したら車や機械操作はしてはいけない、「禁止」です。花粉症で勉強や仕事が手につかない、状況は十分察しますが眠ってしまったら困りますね。メキタジンは比較的眠気が少ない(医療用での再審査集計、副作用としての眠気2.17%)といわれていますが、車等の運転の「禁止」はついています。

 上記の抗ヒスタミン薬はいずれも抗コリン作用という薬理作用を持っています。このため、緑内障の方には「禁忌」です。同じ理由から前立腺肥大の疾患のある患者には禁忌と医療用の添付文書には明記されていますが、OTCの使用上の注意にはなぜか記載されず、「高齢者は医師または薬剤師に相談すること」になっています。緑内障や前立腺肥大(男性だけですが)は一般に高齢者に起こる退行性疾患で、「患者」でなくても潜在的に進行している場合があります。60才以上の方が自己判断で大丈夫といって「花粉症対策」のため抗ヒスタミン薬を常用するのは止めてください。

 なお、ジフェンヒドラミンは授乳によって移行するので授乳されている方は使用しないでください。抗ヒスタミン薬には胎児に影響するものもあるので、妊娠または可能性のある方は自己判断での使用はやめましょう。

 抗アレルギー用薬としては他に抗炎症成分としてグリチルリチンがあります。これは、かゆみを抑える作用があります。指示されている用量ではまず心配はありませんが、むくみがあったり、排尿が困難な方は使ってはいけません。また、使用して尿が少なくなったと思ったら中止して相談することを勧めます。

鼻炎用内服薬

 抗ヒスタミン薬としては、前にあげたマレイン酸クロルフェニラミンメキタジンのほかに、塩酸ジフェニルピラリン、マレイン酸カルビノキサミンなどがあります。

 血管収縮成分としては、塩酸プソイドエフェドリン塩酸フェニレフリンかあり、主として粘膜のうっ血状態を改善して鼻づまりを緩和します。この作用は交感神経興奮作用という薬理作用に基づくもので無水カフェインも同じです。ただし鼻だけに効くというように都合よくいきません。心臓を刺激したり、血圧上昇、気管支拡張、排尿障害などが「効き目」として出てきます。都合が悪い「有害事象」ですから副作用ですが、本来の薬の作用なのです。この中に入るフェニルプロパノールアミンという成分は最近まで使用されていましたが、中毒量と臨床で使う量の差が少ないので危険といわれ販売されなくなりました。血管収縮成分が配合されているくすりは本当に苦しいときに使うのは仕方がありませんが、連用、常用は「くせ」になるので注意してください。

 薬理的には副交換神経を遮断しても同じ目的を達成できるので、抗アセチルコリン薬があります。典型はベラドンナアルカロイドというアトロピンなどナス科植物に含まれる成分です。また、ヨウ化イソプロパミドという合成化合物も同様の作用があります。目的の鼻水を抑えるだけの効き目に限らないのは抗コリン薬と同じですから、注意してください。

 鼻粘膜の炎症を緩和するための消炎酵素薬として塩化リゾチームセラペプターゼがあります。消炎酵素は腫れの原因である炎症部位にたまってくるフィブリンなどのたん白質を分解するといわれています。注意してほしいのは、塩化リゾチームの原料が鶏卵なので卵アレルギーの方には使えません。特にお子さんに使う時は、保護者の方は気をつけてください。セラペプターゼは医療用での実績もある成分ですが、出血の気がある方は使用しないでください。

 生薬の中には花粉症の症状を緩和するものがあります。細辛(さいしん)は発散作用があります。辛夷(しんい)はコブシの花蕾由来のもので葛根湯に加えて鼻閉に使われてきました。生姜(ショウキョウ)はしょうがの成分です。このような成分が配合されているくすりもあります。

 さらに、ビタミン類が配合されていることがありますが、炎症などにおいて体力消耗を防ぐ補助的効果と考えてください。

どのようにして「くすり」を選ぶか

 以上花粉症に対する内服薬の成分別に解説しましたが、実際に自分の症状に合わせて「くすり」を選ぶのは簡単ではありません。また、ほとんどのOTC薬は複数の成分を組合わせた配合剤になっているので、ますますわかり難いですね。このシリーズでは一般の方や看護、介護にあたる方がくすりを選ぶにあたって役立つ情報を提供することを目標にしています。症状にあったくすりを選ぶ際にわからないことや、使い方については薬剤師にきいてください。薬剤師の方は個々のケースにあたって、成分、含有量を再確認して丁寧に説明してください。使用して不具合が起こったときの対応もしっかりお願いします。

 現在市販されている一般用の花粉症のくすりを成分別に表にしました。表1はアレルギーの原因となる抗ヒスタミン薬の単味主体のくすりです。くすりの中には「じんましん」やかゆみ止めにも効くものがありますが、今回は説明書に鼻炎を明記しているものを選んであります。表2は鼻づまりなど症状の緩和を目的とした鼻炎用の内服薬です。成分の含量、比率などが違いますから、それは個々に確認した方がよいので記載していません。繰返しますが、わからないことは薬剤師にきいて納得されて購入してください。

表1 抗アレルギー用の一般用医薬品

抗ヒスタミン成分抗炎症成分交感神経刺激成分ビタミン類・生薬成分販売名販売会社剤形
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチングリチルリチン 複数配合アレギトール日東薬品工業
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチン アスコルビン酸のみタミナスA湧永製薬
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチン ビタミンB6アレルギール三共
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチン ビタミンB6ケラスギーゼリア新薬糖衣錠
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチン 複数配合アネミン内服錠日水製薬糖衣錠
メキタジン  複数配合ピロットA錠全薬工業 
マレイン酸クロルフェニラミンメチルエフェドリンビタミンB6スラジンシロップ佐藤製薬シロップ
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチン  プラタギン三宝製薬
メキタジン   リリース錠アズウエル
塩酸ジフェンヒドラミン  レスタミンコーワ糖衣錠興和糖衣錠
塩酸ジフェンヒドラミングリチルリチン 複数配合レスタミンコーワ錠興和

表2 鼻炎用内服薬(一般用医薬品)

抗ヒスタミン成分抗炎症成分交感神経刺激成分ビタミン類・生薬成分消炎酵素販売名販売会社  剤形
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンカフェインなし浅田飴鼻炎シロップ浅田飴シロップ
マレイン酸クロルフェニラミンメチルエフェドリンショウキョウアルペンFこども鼻炎シロップ中外製薬シロップ
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンメチルエフェドリンベラドンナエキス宇津こども鼻炎シロップS宇津救命丸シロップ
マレイン酸クロルフェニラミンカフェイン・メトキシフェナミンエスタックこども用鼻炎シロップエスエス製薬シロップ
マレイン酸クロルフェニラミン生薬配合こどもパブロン鼻炎液S大正製薬
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンカフェイン・プソイドエフェドリンアナクール鼻炎錠日水製薬
マレイン酸クロルフェニラミンカフェイン・プソイドエフェドリンサイシン他複数配合アネトンアルメディ糖衣錠ファイザー
マレイン酸クロルフェニラミンカフェインベラドンナエキスアルガード鼻炎クールチュアブルSロート製薬
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリンカフェインベラドンナエキスアレルギール鼻炎薬三共
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリンベラドンナエキスエスタック鼻炎ソフトニスキャップエスエス製薬カプセル
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリンカフェインベラドンナエキスクールワン鼻炎チュアブル杏林製薬チュアブル錠
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリン・グリチルリチンカフェインベラドンナエキスコルゲンコーワ鼻炎ソフトミニカプセル興和カプセル
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンカフェイン・プソイドエフェドリンベラドリンジキニン鼻炎AG顆粒全薬工業顆粒
マレイン酸クロルフェニラミンカフェインベラドンナエキスリゾチームスカイナー鼻炎Nエーザイカプセル
マレイン酸クロルフェニラミンカフェイン・プソイドエフェドリンベラドンナエキススカイナー鼻炎S錠エーザイ
マレイン酸クロルフェニラミンメチルエフェドリン・カフェインベラドンナエキス・シンイスカイナー鼻炎クールエーザイ
マレイン酸クロルフェニラミンメチルエフェドリン・カフェインベラドンナエキススカイナー鼻炎ソフトカプセルエーザイカプセル
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリンカフェインベラドンナエキスリゾチームストナリニ・サット佐藤製薬
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリンベラドンナエキスストナリニ・サット小児用佐藤製薬
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリン・グリチルリチンベラドンナエキス・シンイスルーナ鼻炎顆粒ホーユー顆粒
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンプソイドエフェドリンベラドンナエキスセピー鼻炎スティックゼリア新薬顆粒
マレイン酸クロルフェニラミンカフェイン・プソイドエフェドリンベラドンナエキスセピー鼻炎ソフトNゼリア新薬カプセル
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンメチルエフェドリン・カフェイン・プソイドエフェドリンヨウ化イソプロパミドダン鼻炎錠住友ヘルスケア
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンカフェインベラドンナエキスバイロンS鼻炎顆粒塩野義製薬顆粒
マレイン酸クロルフェニラミンカフェイン・プソイドエフェドリンベラドンナエキスバイロンS鼻炎カプセルA塩野義製薬カプセル
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリンカフェインベラドンナエキスピエンドクールタブL明治製菓チュアブル錠
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンカフェイン・プソイドエフェドリンベラドンナエキスリゾチームプラタギン鼻炎カプセルA三宝製薬カプセル
マレイン酸クロルフェニラミンカフェイン・プソイドエフェドリンベラドンナエキス・サイシンプレコール鼻炎カプセルAアステラスカプセル
マレイン酸クロルフェニラミンカフェインベラドンナエキスリゾチームペラック鼻炎カプセルA第一製薬カプセル
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリンベラドンナエキスリゾチームベンザAL細粒武田薬品細粒
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンカフェイン・プソイドエフェドリンベラドンナエキスベンザ鼻炎薬武田薬品
マレイン酸クロルフェニラミンフェニレフリンカフェインベラドンナエキス龍角散鼻炎ソフトカプセルPE龍角散カプセル
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチンカフェイン・プソイドエフェドリンリゾチームルックス鼻炎カプセル常盤薬品カプセル
マレイン酸カルビノキサミンフェニレフリンベラドンナエキスエスタック「ニスキャップ」12エスエス製薬カプセル
マレイン酸カルビノキサミンカフェイン・プソイドエフェドリンベラドンナエキスパブロン鼻炎錠S大正製薬
塩酸ジフェニルピラリングリチルリチンカフェインベラドンナエキスクールワン鼻炎ソフトカプセルS杏林製薬カプセル
キキョウ等生薬エキス ナザロンS日水製薬カプセル
ヨクイニン等生薬エキス フジビトール湧永製薬カプセル
シンイ等生薬エキス 「もり」ちくのう錠大杉製薬糖衣錠

2006年04月 掲載
■テーマ
1. 薬に関する仕組み
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬