村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)
久しぶりの寒い冬も終わり、やっと春の訪れです。しかし、花粉症の方にとってはつらいシーズンでもあります。今年は例年より花粉は少ないという予測ですが、マスクなどの防護の用意や、やはり「くすり」による療法も必要な方もいらっしゃいます。今回から一般用医薬品の選び方と使い方について順次取上げていきますが、最初は「花粉症のくすり」をとりあげます。

花粉症の起きる仕組みから、薬としてこれを阻止または症状を緩和するには大きく二つの方法が考えられます。まず、アレルギー反応を抑えようとする方法として、ヒスタミンの遊離するのを阻止する抗ヒスタミン薬があります。もうひとつは、血管を収縮させて鼻水をとめる血管収縮薬、粘性の鼻汁を分解する消炎酵素薬、神経系に作用する抗アセチルコリン薬など症状緩和に役立つ成分を配合する方法です。前者は抗アレルギー薬、後者は鼻炎用内服薬のように分類されています。
抗ヒスタミン薬の代表的なものは、マレイン酸クロルフェニラミンで、市販されている該当する薬の多くはこれを用いています。かぜ薬にも鼻水をとめる目的で配合されています。類似したものとして、塩酸ジフェンヒドラミンがあります。また、スイッチOTCとしてメキタジンがあります。抗ヒスタミン薬は効果は確かで鼻水などはとまりますが、もうひとつの作用として「眠気」があります。眠り薬としても使われる位ですから、寝る前や安静にする場合はこれはプラス効果となりますが、眠ってはいけない場合はこれは危険な副作用です。服用したら車や機械操作はしてはいけない、「禁止」です。花粉症で勉強や仕事が手につかない、状況は十分察しますが眠ってしまったら困りますね。メキタジンは比較的眠気が少ない(医療用での再審査集計、副作用としての眠気2.17%)といわれていますが、車等の運転の「禁止」はついています。
上記の抗ヒスタミン薬はいずれも抗コリン作用という薬理作用を持っています。このため、緑内障の方には「禁忌」です。同じ理由から前立腺肥大の疾患のある患者には禁忌と医療用の添付文書には明記されていますが、OTCの使用上の注意にはなぜか記載されず、「高齢者は医師または薬剤師に相談すること」になっています。緑内障や前立腺肥大(男性だけですが)は一般に高齢者に起こる退行性疾患で、「患者」でなくても潜在的に進行している場合があります。60才以上の方が自己判断で大丈夫といって「花粉症対策」のため抗ヒスタミン薬を常用するのは止めてください。
なお、ジフェンヒドラミンは授乳によって移行するので授乳されている方は使用しないでください。抗ヒスタミン薬には胎児に影響するものもあるので、妊娠または可能性のある方は自己判断での使用はやめましょう。
抗アレルギー用薬としては他に抗炎症成分としてグリチルリチンがあります。これは、かゆみを抑える作用があります。指示されている用量ではまず心配はありませんが、むくみがあったり、排尿が困難な方は使ってはいけません。また、使用して尿が少なくなったと思ったら中止して相談することを勧めます。
抗ヒスタミン薬としては、前にあげたマレイン酸クロルフェニラミン、メキタジンのほかに、塩酸ジフェニルピラリン、マレイン酸カルビノキサミンなどがあります。
血管収縮成分としては、塩酸プソイドエフェドリン、塩酸フェニレフリンかあり、主として粘膜のうっ血状態を改善して鼻づまりを緩和します。この作用は交感神経興奮作用という薬理作用に基づくもので無水カフェインも同じです。ただし鼻だけに効くというように都合よくいきません。心臓を刺激したり、血圧上昇、気管支拡張、排尿障害などが「効き目」として出てきます。都合が悪い「有害事象」ですから副作用ですが、本来の薬の作用なのです。この中に入るフェニルプロパノールアミンという成分は最近まで使用されていましたが、中毒量と臨床で使う量の差が少ないので危険といわれ販売されなくなりました。血管収縮成分が配合されているくすりは本当に苦しいときに使うのは仕方がありませんが、連用、常用は「くせ」になるので注意してください。
薬理的には副交換神経を遮断しても同じ目的を達成できるので、抗アセチルコリン薬があります。典型はベラドンナアルカロイドというアトロピンなどナス科植物に含まれる成分です。また、ヨウ化イソプロパミドという合成化合物も同様の作用があります。目的の鼻水を抑えるだけの効き目に限らないのは抗コリン薬と同じですから、注意してください。
鼻粘膜の炎症を緩和するための消炎酵素薬として塩化リゾチーム、セラペプターゼがあります。消炎酵素は腫れの原因である炎症部位にたまってくるフィブリンなどのたん白質を分解するといわれています。注意してほしいのは、塩化リゾチームの原料が鶏卵なので卵アレルギーの方には使えません。特にお子さんに使う時は、保護者の方は気をつけてください。セラペプターゼは医療用での実績もある成分ですが、出血の気がある方は使用しないでください。
生薬の中には花粉症の症状を緩和するものがあります。細辛(さいしん)は発散作用があります。辛夷(しんい)はコブシの花蕾由来のもので葛根湯に加えて鼻閉に使われてきました。生姜(ショウキョウ)はしょうがの成分です。このような成分が配合されているくすりもあります。
さらに、ビタミン類が配合されていることがありますが、炎症などにおいて体力消耗を防ぐ補助的効果と考えてください。

現在市販されている一般用の花粉症のくすりを成分別に表にしました。表1はアレルギーの原因となる抗ヒスタミン薬の単味主体のくすりです。くすりの中には「じんましん」やかゆみ止めにも効くものがありますが、今回は説明書に鼻炎を明記しているものを選んであります。表2は鼻づまりなど症状の緩和を目的とした鼻炎用の内服薬です。成分の含量、比率などが違いますから、それは個々に確認した方がよいので記載していません。繰返しますが、わからないことは薬剤師にきいて納得されて購入してください。
表1 抗アレルギー用の一般用医薬品
抗ヒスタミン成分 | 抗炎症成分 | 交感神経刺激成分 | ビタミン類・生薬成分 | 販売名 | 販売会社 | 剤形 |
マレイン酸クロルフェニラミングリチルリチン | グリチルリチン | 複数配合 | アレギトール | 日東薬品工業 | 錠 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | アスコルビン酸のみ | タミナスA | 湧永製薬 | 錠 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | ビタミンB6 | アレルギール | 三共 | 錠 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | ビタミンB6 | ケラスギー | ゼリア新薬 | 糖衣錠 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | 複数配合 | アネミン内服錠 | 日水製薬 | 糖衣錠 | |
メキタジン | 複数配合 | ピロットA錠 | 全薬工業 | 錠 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | メチルエフェドリン | ビタミンB6 | スラジンシロップ | 佐藤製薬 | シロップ | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | プラタギン | 三宝製薬 | 錠 | ||
メキタジン | リリース錠 | アズウエル | 錠 | |||
塩酸ジフェンヒドラミン | レスタミンコーワ糖衣錠 | 興和 | 糖衣錠 | |||
塩酸ジフェンヒドラミン | グリチルリチン | 複数配合 | レスタミンコーワ錠 | 興和 | 錠 |
表2 鼻炎用内服薬(一般用医薬品)
抗ヒスタミン成分 | 抗炎症成分 | 交感神経刺激成分 | ビタミン類・生薬成分 | 消炎酵素 | 販売名 | 販売会社 | 剤形 |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | カフェイン | なし | 浅田飴鼻炎シロップ | 浅田飴 | シロップ | |
マレイン酸クロルフェニラミン | メチルエフェドリン | ショウキョウ | アルペンFこども鼻炎シロップ | 中外製薬 | シロップ | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | メチルエフェドリン | ベラドンナエキス | 宇津こども鼻炎シロップS | 宇津救命丸 | シロップ | |
マレイン酸クロルフェニラミン | カフェイン・メトキシフェナミン | エスタックこども用鼻炎シロップ | エスエス製薬 | シロップ | |||
マレイン酸クロルフェニラミン | 生薬配合 | こどもパブロン鼻炎液S | 大正製薬 | 液 | |||
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | カフェイン・プソイドエフェドリン | アナクール鼻炎錠 | 日水製薬 | 錠 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | カフェイン・プソイドエフェドリン | サイシン他複数配合 | アネトンアルメディ糖衣錠 | ファイザー | 錠 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | カフェイン | ベラドンナエキス | アルガード鼻炎クールチュアブルS | ロート製薬 | 錠 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン | カフェイン | ベラドンナエキス | アレルギール鼻炎薬 | 三共 | 錠 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン | ベラドンナエキス | エスタック鼻炎ソフトニスキャップ | エスエス製薬 | カプセル | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン | カフェイン | ベラドンナエキス | クールワン鼻炎チュアブル | 杏林製薬 | チュアブル錠 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン・グリチルリチン | カフェイン | ベラドンナエキス | コルゲンコーワ鼻炎ソフトミニカプセル | 興和 | カプセル | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | カフェイン・プソイドエフェドリン | ベラドリン | ジキニン鼻炎AG顆粒 | 全薬工業 | 顆粒 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | カフェイン | ベラドンナエキス | リゾチーム | スカイナー鼻炎N | エーザイ | カプセル | |
マレイン酸クロルフェニラミン | カフェイン・プソイドエフェドリン | ベラドンナエキス | スカイナー鼻炎S錠 | エーザイ | 錠 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | メチルエフェドリン・カフェイン | ベラドンナエキス・シンイ | スカイナー鼻炎クール | エーザイ | 錠 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | メチルエフェドリン・カフェイン | ベラドンナエキス | スカイナー鼻炎ソフトカプセル | エーザイ | カプセル | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン | カフェイン | ベラドンナエキス | リゾチーム | ストナリニ・サット | 佐藤製薬 | 錠 |
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン | ベラドンナエキス | ストナリニ・サット小児用 | 佐藤製薬 | 錠 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン・グリチルリチン | ベラドンナエキス・シンイ | スルーナ鼻炎顆粒 | ホーユー | 顆粒 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | プソイドエフェドリン | ベラドンナエキス | セピー鼻炎スティック | ゼリア新薬 | 顆粒 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | カフェイン・プソイドエフェドリン | ベラドンナエキス | セピー鼻炎ソフトN | ゼリア新薬 | カプセル | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | メチルエフェドリン・カフェイン・プソイドエフェドリン | ヨウ化イソプロパミド | ダン鼻炎錠 | 住友ヘルスケア | 錠 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | カフェイン | ベラドンナエキス | バイロンS鼻炎顆粒 | 塩野義製薬 | 顆粒 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | カフェイン・プソイドエフェドリン | ベラドンナエキス | バイロンS鼻炎カプセルA | 塩野義製薬 | カプセル | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン | カフェイン | ベラドンナエキス | ピエンドクールタブL | 明治製菓 | チュアブル錠 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | カフェイン・プソイドエフェドリン | ベラドンナエキス | リゾチーム | プラタギン鼻炎カプセルA | 三宝製薬 | カプセル |
マレイン酸クロルフェニラミン | カフェイン・プソイドエフェドリン | ベラドンナエキス・サイシン | プレコール鼻炎カプセルA | アステラス | カプセル | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | カフェイン | ベラドンナエキス | リゾチーム | ペラック鼻炎カプセルA | 第一製薬 | カプセル | |
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン | ベラドンナエキス | リゾチーム | ベンザAL細粒 | 武田薬品 | 細粒 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | カフェイン・プソイドエフェドリン | ベラドンナエキス | ベンザ鼻炎薬 | 武田薬品 | 錠 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | フェニレフリン | カフェイン | ベラドンナエキス | 龍角散鼻炎ソフトカプセルPE | 龍角散 | カプセル | |
マレイン酸クロルフェニラミン | グリチルリチン | カフェイン・プソイドエフェドリン | リゾチーム | ルックス鼻炎カプセル | 常盤薬品 | カプセル | |
マレイン酸カルビノキサミン | フェニレフリン | ベラドンナエキス | エスタック「ニスキャップ」12 | エスエス製薬 | カプセル | ||
マレイン酸カルビノキサミン | カフェイン・プソイドエフェドリン | ベラドンナエキス | パブロン鼻炎錠S | 大正製薬 | 錠 | ||
塩酸ジフェニルピラリン | グリチルリチン | カフェイン | ベラドンナエキス | クールワン鼻炎ソフトカプセルS | 杏林製薬 | カプセル | キキョウ等生薬エキス | ナザロンS | 日水製薬 | カプセル | ヨクイニン等生薬エキス | フジビトール | 湧永製薬 | カプセル | シンイ等生薬エキス | 「もり」ちくのう錠 | 大杉製薬 | 糖衣錠 |
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬