セルフメディケーションを実践のための200テーマ

村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)

6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬

 4月は新しい年度の始まりです。入学、進学また新しく社会人になられた方、それぞれの場所で活躍しようとはりきっていることでしょう。そして、陽射しも強く新緑の絶好の行楽シーズンがやってきます。遠足やグループでの旅行もいいですね。・・・でも、ちょっと浮かない顔をされている方もいますね。「私、・・・車に酔うの・・・」
 今回は、「乗物に酔う」方には大変気の重い問題をとりあげます。これこそ、「病気」になってから病院に行くより、自分で「症状」が起こらないよう予め防御するセルフメディケーション適用の典型です。

乗物酔いはどうして起こるのか

 「乗物酔い」は乗物に乗ることによって生じる揺れが内耳という耳の奥にある器官に影響して、感覚に混乱が生じる現象と説明されています。しかし、病因にはいくつかの説がありますが、詳しいことはわかっていません。乗物ばかりでなく、大画面の映像を見ても同じような症状を起こす人もいて、個人差が大きいのです。頭が重い、あくびや脱力感が起こり、さらに吐き気、顔面蒼白といった当人には辛い耐え難い苦しい状況になります。このような症状はいずれも自律神経系の失調と考えられます。身体のバランス感覚が繊細で過敏な人がなりやすいといわれますが、睡眠不足、疲労の蓄積、胃腸障害などが伏線となっていることも多く、同じような状況においても酔うときと酔わないときがあります。
乗物酔いに対する薬にはどんなものがあるか

 乗物酔いが内耳の感受性に関連することから、感受性を低下させ、これと連動する嘔吐中枢の興奮を抑える作用を有する薬があげられます。専門用語では鎮うん作用と呼ばれる薬理作用を持つもので、医療用医薬品ではめまい治療薬として使用されていて、この中で「動揺病」に適用が認められている、塩酸ジフェニドールジフェンヒドラミン・ジメンヒドリナートの配合剤がOTCでも販売されています。これらの薬は抗ヒスタミン薬と呼ばれる系統のもので、鎮静を兼ねて酔う前、乗物に乗る前に服用するのがよいでしょう。塩酸ジフェニドールは医療用ではめまい治療に使用される成分で、比較的眠気が少なく、また症状が生じてからでも「めまい」を抑える効果はあるでしょう。

 薬理的には、副交感神経遮断作用を有する生薬のロートエキス臭化水素酸スコポラミンが効果を有します。また中枢神経系を興奮させる作用を有するキサンチン誘導体が使用されます。コーヒー等に含まれるカフェイン(無水カフェイン)や喘息薬のテオフィリンか配合されています。テオフィリンは喘息薬としてこれを常用していた患者が船酔いに抵抗性を示したという現象報告を基に使用されていますが、確かな検証はわかりません。

 一方、乗物酔いには多分に心理的要因も関連することから、不安症状を和らげる、鎮静するという目的で抗ヒスタミン薬が使用されています。先にあげた成分の他、塩酸メクリジン、塩酸ジフェニドール、サリチル酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミンなどが配合されています。

 この他に催眠鎮静に使用されるブロムワレリル尿素があります。以前は配合されている製剤が多かったのですが、現在は乗物酔い防止薬としては少なくなりました。

どのようにして薬を選ぶか

 乗物酔いは酔ってしまってからでは苦しいので、あらかじめ飲んでおき、症状の発現を抑えたい薬です。前回の花粉症対策でも登場した抗ヒスタミン薬には催眠作用があり、特にジフェンヒドラミンは眠り薬にもなる位ですから、少々眠っていてもいいならこれらが配合されているものがよいでしょう。メクリジンは吐き気止めとして古くから使用されています。酔ってしまってからでもムカムカする場合効くでしょう。車の運転者は酔わないといわれますから、これらの薬をのむことはないでしょうが、メクリジンなど抗ヒスタミン薬は半減期が長く、効き目が持続します。メクリジンは眠気はジフェンヒドラミンに比べて少ないですが、飲む場合は車や機械の操作はしないと決めてください。

 薬理的には相反するのですが、中枢神経を興奮させるカフェインが配合されているものは頭痛などには効果があるでしょう。ロートエキスやその成分であるスコポラミンが配合されているのは、不快な気分をなおすという理由で配合されています。その他にビタミン剤などを配合しているのは、少なくとも乗物酔いとは無関係です。

 剤形としては錠剤が基本で、ドリンクタイプや水なしでのめるという便宜性を強調しているものがありますが、値段も考え選択されるとよいでしょう。

薬を使う上での注意事項

 まず乗物酔いの薬の主成分は抗ヒスタミン薬であることをもう一度確認しましょう。そこで同じまたは類似した成分を有するかぜ薬や花粉症の薬などと一緒に飲むと量が増えてしまいます。注意書をよく読むことと、個々のケースでは薬剤師に確認してもらいましょう。次に抗ヒスタミン薬は眠くなるので、車の運転はダメということです。また、高齢者、特に男性の方は抗ヒスタミン薬とロートエキスなどが排尿困難を起こしたり、促進させる危険がありますから、薬剤師に相談してください。

 乗物酔いは小さい子供さんにとっても、遠足や旅行の悩みになっていますね。成分によって6才未満の方と15才未満には禁止のものがありますから、大人(成人)の薬を子供にもと安易に使ってはいけません。お子さんの乗物酔いの状況と年令をいえば、薬剤師が相談に応じてくれます。

 先にも述べましたが、乗物酔いは心理的影響も大きいことと、配合されている抗ヒスタミン薬は効果が比較的長く続きます。このことから、ドライブなどの場合、先に飲んでおけば、繰返し飲む必要はありません。特に小さいお子さんに対しては、不安からまた飲みたいとせがまれても、「大丈夫、おくすりは効いていますよ」と言ってあげてください。なるべく薬に頼らないように気持ちを切替えていきましょう。

市販されている主な乗り物酔い防止薬と成分

抗ヒスタミン成分1抗ヒスタミン成分2副交感神経遮断成分中枢神経興奮成分その他の成分販売名販売会社剤形
塩酸ジフェニドール 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン トラベルミンRエーザイ
塩酸メクリジン    センパアS大正製薬
塩酸メクリジン    タイザーファイザー
塩酸メクリジン    タイザー小児用ファイザー
塩酸メクリジンマレイン酸クロルフェニラミン   アネロンチュアブルエスエス製薬チュアブル錠
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン エアミットサット佐藤製薬
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン こどもエアミットサット佐藤製薬
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン トリベミン杏林製薬錠・液
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン ハイサピア日水製薬
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン フロッキスAホーユー
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン 小児用フロッキスホーユー
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン  センパア大正製薬
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミンテオフィリン こどもセンパア液大正製薬内用液剤
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン ビタミンB6パンシロントラベルNOWロート製薬
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミンテオフィリン センパア内服液大正製薬内用液剤
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン  こどもセンパアS大正製薬
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン  タケダ乗り物酔い止め武田薬品工業
塩酸メクリジンマレイン酸クロルフェニラミン 無水カフェイン チュアマイシン廣貫堂
塩酸メクリジン 臭化水素酸スコポラミン  トラベルミンファミリーエーザイ
塩酸メクリジンジプロフィリン  スヨロミン三宝製薬
塩酸メクリジンジプロフィリン臭化水素酸スコポラミン  スヨロミン内服液B三宝製薬内用液剤
ジフェンヒドラミンジプロフィリン  トラベルミンエーザイ
ジフェンヒドラミンジプロフィリン  トラベルミンジュニアエーザイ
ジフェンヒドラミン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン トラベルミン内服液エーザイ内用液剤
ジフェンヒドラミン カフェインビタミンB6レジャーシックーSジェーピーエス製薬
ジメンヒドリナート 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン エアミット佐藤製薬
ジメンヒドリナート  無水カフェインビタミンB6エアミット内服液佐藤製薬内用液剤
ジメンヒドリナート  無水カフェインビタミンB6エアミット内服液「小児用」佐藤製薬内用液剤
ジメンヒドリナート  無水カフェイン トルクロン錠浅田飴
マレイン酸クロルフェニラミン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェインアミノ安息香酸エチル・ビタミンB6アネロン「ニスキャップ」エスエス製薬カプセル
マレイン酸クロルフェニラミン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェインアミノ安息香酸エチル・ビタミンB6アネロン内服液エスエス製薬内用液剤
マレイン酸クロルフェニラミン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン こどもクールスカイ久光製薬内用液剤
マレイン酸クロルフェニラミン 臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン 小児用フロッキス内服液ホーユー内用液剤
マレイン酸クロルフェニラミン 臭化水素酸スコポラミン  センパア・QT大正製薬
マレイン酸クロルフェニラミン 臭化水素酸スコポラミン  センパア・QTジュニア大正製薬
  臭化水素酸スコポラミン無水カフェイン フロッキスD内服液ホーユー内用液剤

2006年05月 掲載
■テーマ
1. 薬に関する仕組み
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬