村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)
4月は新しい年度の始まりです。入学、進学また新しく社会人になられた方、それぞれの場所で活躍しようとはりきっていることでしょう。そして、陽射しも強く新緑の絶好の行楽シーズンがやってきます。遠足やグループでの旅行もいいですね。・・・でも、ちょっと浮かない顔をされている方もいますね。「私、・・・車に酔うの・・・」
今回は、「乗物に酔う」方には大変気の重い問題をとりあげます。これこそ、「病気」になってから病院に行くより、自分で「症状」が起こらないよう予め防御するセルフメディケーション適用の典型です。

乗物酔いが内耳の感受性に関連することから、感受性を低下させ、これと連動する嘔吐中枢の興奮を抑える作用を有する薬があげられます。専門用語では鎮うん作用と呼ばれる薬理作用を持つもので、医療用医薬品ではめまい治療薬として使用されていて、この中で「動揺病」に適用が認められている、塩酸ジフェニドールやジフェンヒドラミン・ジメンヒドリナートの配合剤がOTCでも販売されています。これらの薬は抗ヒスタミン薬と呼ばれる系統のもので、鎮静を兼ねて酔う前、乗物に乗る前に服用するのがよいでしょう。塩酸ジフェニドールは医療用ではめまい治療に使用される成分で、比較的眠気が少なく、また症状が生じてからでも「めまい」を抑える効果はあるでしょう。
薬理的には、副交感神経遮断作用を有する生薬のロートエキスや臭化水素酸スコポラミンが効果を有します。また中枢神経系を興奮させる作用を有するキサンチン誘導体が使用されます。コーヒー等に含まれるカフェイン(無水カフェイン)や喘息薬のテオフィリンか配合されています。テオフィリンは喘息薬としてこれを常用していた患者が船酔いに抵抗性を示したという現象報告を基に使用されていますが、確かな検証はわかりません。
一方、乗物酔いには多分に心理的要因も関連することから、不安症状を和らげる、鎮静するという目的で抗ヒスタミン薬が使用されています。先にあげた成分の他、塩酸メクリジン、塩酸ジフェニドール、サリチル酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミンなどが配合されています。
この他に催眠鎮静に使用されるブロムワレリル尿素があります。以前は配合されている製剤が多かったのですが、現在は乗物酔い防止薬としては少なくなりました。
乗物酔いは酔ってしまってからでは苦しいので、あらかじめ飲んでおき、症状の発現を抑えたい薬です。前回の花粉症対策でも登場した抗ヒスタミン薬には催眠作用があり、特にジフェンヒドラミンは眠り薬にもなる位ですから、少々眠っていてもいいならこれらが配合されているものがよいでしょう。メクリジンは吐き気止めとして古くから使用されています。酔ってしまってからでもムカムカする場合効くでしょう。車の運転者は酔わないといわれますから、これらの薬をのむことはないでしょうが、メクリジンなど抗ヒスタミン薬は半減期が長く、効き目が持続します。メクリジンは眠気はジフェンヒドラミンに比べて少ないですが、飲む場合は車や機械の操作はしないと決めてください。
薬理的には相反するのですが、中枢神経を興奮させるカフェインが配合されているものは頭痛などには効果があるでしょう。ロートエキスやその成分であるスコポラミンが配合されているのは、不快な気分をなおすという理由で配合されています。その他にビタミン剤などを配合しているのは、少なくとも乗物酔いとは無関係です。
剤形としては錠剤が基本で、ドリンクタイプや水なしでのめるという便宜性を強調しているものがありますが、値段も考え選択されるとよいでしょう。
まず乗物酔いの薬の主成分は抗ヒスタミン薬であることをもう一度確認しましょう。そこで同じまたは類似した成分を有するかぜ薬や花粉症の薬などと一緒に飲むと量が増えてしまいます。注意書をよく読むことと、個々のケースでは薬剤師に確認してもらいましょう。次に抗ヒスタミン薬は眠くなるので、車の運転はダメということです。また、高齢者、特に男性の方は抗ヒスタミン薬とロートエキスなどが排尿困難を起こしたり、促進させる危険がありますから、薬剤師に相談してください。
乗物酔いは小さい子供さんにとっても、遠足や旅行の悩みになっていますね。成分によって6才未満の方と15才未満には禁止のものがありますから、大人(成人)の薬を子供にもと安易に使ってはいけません。お子さんの乗物酔いの状況と年令をいえば、薬剤師が相談に応じてくれます。
先にも述べましたが、乗物酔いは心理的影響も大きいことと、配合されている抗ヒスタミン薬は効果が比較的長く続きます。このことから、ドライブなどの場合、先に飲んでおけば、繰返し飲む必要はありません。特に小さいお子さんに対しては、不安からまた飲みたいとせがまれても、「大丈夫、おくすりは効いていますよ」と言ってあげてください。なるべく薬に頼らないように気持ちを切替えていきましょう。
市販されている主な乗り物酔い防止薬と成分
抗ヒスタミン成分1 | 抗ヒスタミン成分2 | 副交感神経遮断成分 | 中枢神経興奮成分 | その他の成分 | 販売名 | 販売会社 | 剤形 |
塩酸ジフェニドール | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | トラベルミンR | エーザイ | 錠 | ||
塩酸メクリジン | センパアS | 大正製薬 | 錠 | ||||
塩酸メクリジン | タイザー | ファイザー | 錠 | ||||
塩酸メクリジン | タイザー小児用 | ファイザー | 錠 | ||||
塩酸メクリジン | マレイン酸クロルフェニラミン | アネロンチュアブル | エスエス製薬 | チュアブル錠 | |||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | エアミットサット | 佐藤製薬 | 錠 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | こどもエアミットサット | 佐藤製薬 | 錠 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | トリベミン | 杏林製薬 | 錠・液 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | ハイサピア | 日水製薬 | 錠 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | フロッキスA | ホーユー | 錠 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | 小児用フロッキス | ホーユー | 錠 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | センパア | 大正製薬 | 錠 | |||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | テオフィリン | こどもセンパア液 | 大正製薬 | 内用液剤 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | ビタミンB6 | パンシロントラベルNOW | ロート製薬 | 錠 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | テオフィリン | センパア内服液 | 大正製薬 | 内用液剤 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | こどもセンパアS | 大正製薬 | 錠 | |||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | タケダ乗り物酔い止め | 武田薬品工業 | 錠 | |||
塩酸メクリジン | マレイン酸クロルフェニラミン | 無水カフェイン | チュアマイシン | 廣貫堂 | 錠 | ||
塩酸メクリジン | 臭化水素酸スコポラミン | トラベルミンファミリー | エーザイ | 錠 | |||
塩酸メクリジン | ジプロフィリン | スヨロミン | 三宝製薬 | 錠 | |||
塩酸メクリジン | ジプロフィリン | 臭化水素酸スコポラミン | スヨロミン内服液B | 三宝製薬 | 内用液剤 | ||
ジフェンヒドラミン | ジプロフィリン | トラベルミン | エーザイ | 錠 | |||
ジフェンヒドラミン | ジプロフィリン | トラベルミンジュニア | エーザイ | 錠 | |||
ジフェンヒドラミン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | トラベルミン内服液 | エーザイ | 内用液剤 | ||
ジフェンヒドラミン | カフェイン | ビタミンB6 | レジャーシックーS | ジェーピーエス製薬 | 錠 | ||
ジメンヒドリナート | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | エアミット | 佐藤製薬 | 錠 | ||
ジメンヒドリナート | 無水カフェイン | ビタミンB6 | エアミット内服液 | 佐藤製薬 | 内用液剤 | ||
ジメンヒドリナート | 無水カフェイン | ビタミンB6 | エアミット内服液「小児用」 | 佐藤製薬 | 内用液剤 | ||
ジメンヒドリナート | 無水カフェイン | トルクロン錠 | 浅田飴 | 錠 | |||
マレイン酸クロルフェニラミン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | アミノ安息香酸エチル・ビタミンB6 | アネロン「ニスキャップ」 | エスエス製薬 | カプセル | |
マレイン酸クロルフェニラミン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | アミノ安息香酸エチル・ビタミンB6 | アネロン内服液 | エスエス製薬 | 内用液剤 | |
マレイン酸クロルフェニラミン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | こどもクールスカイ | 久光製薬 | 内用液剤 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | 臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | 小児用フロッキス内服液 | ホーユー | 内用液剤 | ||
マレイン酸クロルフェニラミン | 臭化水素酸スコポラミン | センパア・QT | 大正製薬 | 錠 | |||
マレイン酸クロルフェニラミン | 臭化水素酸スコポラミン | センパア・QTジュニア | 大正製薬 | 錠 | |||
臭化水素酸スコポラミン | 無水カフェイン | フロッキスD内服液 | ホーユー | 内用液剤 |
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬