セルフメディケーションを実践のための200テーマ

村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)

7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬

 連休も終わり、新緑がまぶしい季節になりました。これから夏にかけて体力を鍛える絶好のシーズンです。体力の源は栄養バランスのとれた食事です。でも胃腸の具合がわるいと、せっかく摂った栄養もエネルギーや体力づくりに役立ちません。このような“なんとなくおなかの調子がわるい”という時に使うお薬があります。薬の分類でいうと消化器官系の薬です。OTCの領域でも使用頻度が高く、特に“日本人は胃腸が弱い”といわれていますので売れ筋です。

 「胃腸薬」といってもたくさんの種類があり、実際に販売されている商品は複数の成分をあわせているものも多く存在します。今回はこの中で整腸薬として販売されているものについて解説します。

整腸薬の目的とすること

 食べ過ぎや、冷えなどで腸の動きが低下すると、腸内で異常発酵が起こり、おなかがゴロゴロ鳴ったり、オナラが出たりします。整腸薬は文字通り「おなかの薬」で消化器官の中で腸(主に小腸)の機能を活発にして、消化を促進する働きをします。つまり、腸内の環境改善をします。赤痢菌やコレラ菌など悪質な病原微生物を直接叩く抗生物質のような作用はありません。また、便秘や下痢のようなひどい症状の改善には、各々に効果をもつ成分の薬がありますから、それを選択します。しかし、感染症、便秘、下痢といった「病状」も消化器官内の環境不全が遠因となっていますから、整腸薬は病気を未然に防いでいるといっていいでしょう。
整腸薬の成分としてはどんなものがあるか

 生菌類が第一にあげられます。乳酸菌類は腸内で乳酸を産生させて、大腸菌や病原菌の増殖を抑える役割をします。ビフィズス菌やラクトミン(アンドフィルス菌・フェーカリス菌)、ラクボンなどが代表的なものですが、作用や効果はほぼ同じでしょう。複数の菌末を配合しているものもあります。宮入菌は酪酸を産生することにより、同様の目的をとげます。

 次によく配合されているのは生薬類です。作用として止瀉作用(便の動きを止める)と瀉下作用(便通をよくする)とまったく逆の効果を目的に配合されていますから、注意が必要です。プランタゴ・オバタはオオバコの一種の種皮で、インド医学伝承の便秘治療薬です。整腸剤として配合されている製剤もありますが、本来は膨潤性下剤ですので症状を考えて選んでください。他の生薬としてはゲンノショウコとケツメイシがあげられます。ゲンノショウコは漢方ではなく、日本独自の伝統的民間薬です。その主成分はタンニンで、収れん作用と防腐作用があります。収れん作用は腸の動きを抑えるので、便秘勝ちな場合には向きません。ただし、効き方は微弱なので、普通に使っているならばよいでしょう。ケツメイシはマメ科の植物の種子ですが、ゲンノショウコとは逆で瀉下作用、すなわち便を出す作用がありますから下痢気味の人はさけた方がよいでしょう。

 他の生薬も配合されている場合がありますが、整腸作用が顕著であるとは考えられません。また、腸内殺菌を目的とした殺菌作用やビタミン類なども配合されている製剤も市販されていますが、目的が混乱するので好ましいとは思えません。

どのようにして薬を選ぶか

 何気なく使っている薬も配合成分によって作用が違うことがわかったことと思います。整腸薬はおなかの中の環境改善が目的ですから、やはり整腸生菌成分が含まれている製剤を選ぶべきでしょう。その中でどれをというならば、「好み」で自分にあったものでよいと思います。整腸剤は比較的常用することが多いので、飲むときの感じもかなり重要ですし、のんでおなかの調子がよいのは薬があっているからでしょう。もっとも、必ずしも「OTC薬」に拘る必要はありません。「医薬部外品」や「トクホ」の中にも成分が薬と同様のものがあるので、これらの中から選んでもよいでしょう。

 生薬類の配合製剤は成分の作用を確かめて、自分の症状にあわせて使うことです。また、これらの成分は整腸というより下痢止めとか便秘のためとか目的がありますから、症状を薬剤師に告げて相談されることを勧めます。

 整腸薬はほとんどが錠剤か多く、顆粒などの「こなぐすり」もあるので好みで選んで結構です。生薬類は本来の煎じるための「キザミ」型のものもあります。

薬を使う上での注意事項

 整腸薬は他の薬に較べて特に注意する点は少ない。生菌製剤も腸内で増えるので、少々量を多くとっても心配ありません。また、連用してもクセになるとか、効かなくなるといったこともありません。といって指示された用量以上とることはありません。生薬製剤についても、指示用量内では特に問題となる副作用もないでしょう。少数ですが、ロートエキスやグリチルリチンなどが配合されている製剤があり、所定の注意が説明書に記載されていますから読んでください。

市販されている主な整腸薬と成分     注:‘―’は「該当なし」

生菌成分1生菌成分2生薬(止しゃ作用)生薬(瀉下作用)その他の成分製品名販売会社剤形
ビフィズス菌ラクトミンセルラーゼ・ジメチルポリシロキサンガスピタン小林製薬
ビフィズス菌フェーカリス菌・アンドフィルス菌新ビオフェルミンS顆粒武田薬品工業顆粒
ビフィズス菌フェーカリス菌・アンドフィルス菌新ビオフェルミンS錠武田薬品工業
ビフィズス菌ビタミン類等整腸薬ラロV明治製菓散剤
ビフィズス菌ビオラクチステスミンヤクルトBL整腸薬佐藤製薬顆粒
ビオヂアスミンF他ビオナットミンビタミン類等トルクミン日水製薬
ラクボンタカジアスターゼビオチンパンラクミン錠三共
ビフィズス菌ラクトミンビフィズムゼリア新薬カプセル
乳酸菌末酪酸菌末他フェルカミンスリーE顆粒日東薬品工業顆粒
乳酸菌末酪酸菌末他ヘルシーラクト錠日東薬品工業
乳酸菌末酪酸菌末他ビタミン類等宇津こども整腸薬宇津救命丸顆粒
ビオヂアスミンF他ビオヂアスターゼリパーゼ他ミネ消化整腸薬常磐薬品工業
ビフィズス菌ビオラクチスヤクルトBL整腸薬ヤクルト散剤
ビフィズス菌ラクトミンジメチルポリシロキサンラッパ整腸薬BF大幸薬品細粒
ビフィズス菌ラクトミンわかもと整腸薬わかもと製薬
宮入菌強ミヤリサン錠ミヤリサン
宮入菌ミヤリサンAミヤリサン
宮入菌ミヤリサン錠ミヤリサン
宮入菌ビタミン類ミヤリサンアイジAミヤリサン顆粒
プラタンゴ・オバタ種子サトラックスライト佐藤製薬顆粒
プラタンゴ・オバタ種子ベストール佐藤製薬顆粒
ゲンノショウコ成分ウチダのげんのしょうこウチダ煎剤
ゲンノショウコ成分ゲンノショウコ井藤漢方、オノジュウ他煎剤
ゲンノショウコ成分チベンゲンノショウコチベン製薬散剤
ゲンノショウコ成分タンニン酸ベルベリンヒグチ赤玉はら薬ヒグチ薬品
ゲンノショウコ成分ロートエキス・クレオソート他健栄正露丸健栄製薬
ケツメイシ成分ウチダの決明子ウチダ煎剤
ケツメイシ成分イトウのケツメイシ井藤漢方煎剤

2006年06月 掲載
■テーマ
1. 薬に関する仕組み
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬