村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)
13. 解熱鎮痛薬

木枯らし一番も吹いて、寒い季節が近づいてきました。身体をきたえて、風邪をひかないようにすることはセルフメディケーションです。でも、ひいてしまったら、−早目の手当てをしてなおして、万病のもとにしないことが大切です。
今回は、解熱鎮痛薬をとりあげます。実はこの中に含まれている成分には、「風邪薬」の成分と共通しているものが多いのです。風邪の症状にも、熱がある、のどや関節が痛いことは経験済みですね。風邪にはこの他にせきやたんが出る、鼻水が止まらないといったことが重なります。解熱鎮痛薬にはこのような症状を緩和する成分は含まれていません。
解熱鎮痛薬の目的と作用
このお薬は、頭痛、歯痛、生理通などの痛みを和らげるのを目的としています。今の3つの代表的な痛みは、原因はそれぞれ違います。薬が痛みをとったとしても、原因を解消したわけではありません。
痛みはプロスタグランジンという物質が体内でつくられ、これが神経系の痛覚を刺激し、同時に体温も上昇させることがわかっています。ただ、痛みの感度は人によってかなりの相違があるようで、頭痛などはなかなか客観的評価ができません。成人は痛みを訴えますが、小さなお子さんはそれを表現しにくいので、ぐずったり機嫌が悪かったり元気がないといった形で訴えます。
もうひとつ、痛みには発熱を伴うことが多いので、体温が高くなります。体温の上昇は、身体が攻撃してくる敵に対しての防御体制だと考えられていますが、このサインをお母様や保護にあたる方は見逃さないでください。顔色が赤い、ひたいに手をあてるとあつい−これだけで十分チェックはできますが、家庭には体温計を用意しておきましょう。
薬の作用時間が過ぎても熱が上がらず、元気になったらそれは薬の作用ではなく、その間に身体の防衛反応が功を奏したのです。熱が下がらない、薬を止めるとまた上がる、熱が下がっても元気がない−小児科を受診してください。
解熱鎮痛薬の種類と成分
成分として代表的なものはアスピリン、アセトアミノフェン、イブフロフェンなどです。アスピリンはサリチル酸系という古来柳の成分が効くということに端を発し、1世紀にわたり地位を保っています。医療用としては、血栓を溶かす作用から心臓疾患の治療に欠かせない薬です。アセトアミノフェンは世界中の風邪薬の定番ともいえる成分で、特に解熱効果がよいとされています。解熱目的の小児用坐薬は全てこの成分です。イブプロフェンは医療用の非ステロイド鎮痛解熱消炎薬(NSAID)からのスイッチ成分です。NSAIDの中でも鎮痛、解熱、消炎作用のバランスがよく炎症にも効くので成人向きといえます。
エテンザミドはアスピリンとほぼ同じと考えてよいでしょう。イソプロピルアンチピリンは古くから使われていましたが、ピリン疹がある方は避けてください。解熱鎮痛の作用ではなく、鎮静の目的でブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素が配合されています。睡眠薬に使われる成分ですから、眠くなるのは当然で、車の運転はもちろん仕事はできないでしょう。承知の上ならば結構ですが、配合成分に気をつけてください。生薬成分としてケイヒ、シャクヤク、カンゾウエキスが配合されているものがあります。いずれも漢方などで使用されてきたものですが、エキス成分の質、量と効果の関連はわからないといった方がよいでしょう。お子様用の薬にジリュウという成分があります。これも昔からひきつけや疳の虫に使用されてきた、「みみず」のエキス成分です。
多くの製品にカフェイン(無水カフェイン)が配合されています。脳血管を刺激して頭痛を緩和し、他の成分の効果を高めるとされていますが、鎮静とは相反する作用です。栄養ドリンクのときにも指摘しましたが、カフェインに敏感な方は注意してください。配合されていない製品もあります。
どのように「くすり」を選ぶか
このジャンルの薬の選択はなかなか難しい面があります。すでに長年愛用されてきた「薬」がある方はそれに固執されるようです。それは結構ですが、一度成分などを再確認されることをお勧めします。痛みでお困りの方はなるべく単味(1種類)成分のものを使用してみてください。痛みもいろいろとありますが、五十肩、腰痛など加齢に伴うものは「のみ薬」より、外用薬を使用すべきで、ビタミン剤やカルシウムサプリメントを補助療法として試みるべきです。
前にもふれましたが、お子様の発熱にはアセトアミノフェンを主体としたものがよいでしょう。小さいお子さんには坐薬が適しています。坐薬の量はカットすることで調節できます。カットの仕方などは薬局で薬剤師にきいておくことです。
リストの中には直接の解熱、鎮痛作用より間接的なものが含まれています。作用の強さは成分と量から指示どおり使用した場合の目安として記載しました。考えの相違や人や状態によっても変わるので参考です。
薬を選ぶにあたっての注意
この薬の目的が、対症療法であることを確認してください。長引くような場合や激しい頭痛などは専門医の診断が必要です。お子さんの場合も同様です。解熱剤は使わない方がよいとか、熱が出たらすぐ救急へという考えは誤りです。一過性といっても高温は小児にとってダメージを与える危険性が大きいからです。救急体制が必要なことはもちろんですが、不急な診療が効率を悪くすることに留意しなければなりません。
最後にもうひとつ、アセトアミノフェンは優れた解熱剤ですが、用量をこすと危険領域が近い薬です。このことは、安易に成人用の薬を小児に使用してはいけないことを意味しています。お子さんのいる家庭では、小児用を用意されますようお願いします。
表1 内服薬
強さの指標 S;強い M;普通 W;弱い
解熱鎮痛成分 | 鎮静成分 | 生薬成分 | その他の成分 | 製品名 | 販売会社 | 剤形 | 強さ |
アスピリン | ブロムワレリル尿素 | ケイヒ末 | カフェイン | 歯痛・頭痛ヒロリン | 廣貫堂 | 散 | M |
アスピリンNa | ブロムワレリル尿素 |
| 無水カフェイン | 歯痛リングル | 佐藤製薬 | 細粒 | M |
アスピリンNa | ブロムワレリル尿素 |
| 無水カフェイン | スバシンS | 三宝製薬 | 錠 | M |
アスピリン |
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| バイエルアスピリン | 明治製菓 | 錠 | M |
アスピリン |
|
|
| バイエルアスピリン100 | 明治製菓 | 錠 | M |
アスピリン |
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| ヒドロタルサイト | ベネスロン | ホーユー | 錠 | S |
アスピリン |
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| ヒドロタルサイト | バファリンA | ライオン | 錠 | S |
イソプロピルアンチピリン エテンザミド |
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| カフェイン 水酸化アルミニウムケル | アイン・ハイ | 小林薬品工業 | 錠 | M |
イソプロピルアンチピリン エテンザミド |
|
| カフェイン | サリドンA | ゼファーマ | 錠 | M |
イソプロピルアンチピリン エテンザミド |
|
| カフェイン 水酸化アルミニウムケル | ヘルビック鎮痛薬 | 明治製菓 | 錠 | M |
イソプロピルアンチピリン エテンザミド |
|
| カフェイン ヒドロタルサイト | リンクルAP | 佐藤製薬 | 錠 | M |
アスピリン アセトアミノフェン |
|
| 無水カフェイン | エキセドリンA錠 | ライオン | 錠 | S |
アスピリン アセトアミノフェン |
|
| 無水カフェイン | エキセドリンカプセル | ライオン | カプセル | S |
アスピリン アセトアミノフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | バファリンプラス | ライオン | 錠 | S |
アスピリン アセトアミノフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | バファリンプラスカプセル | ライオン | カプセル | S |
アセトアミノフェン エテンザミド | ブロムワレリル尿素 |
| 無水カフェイン ジベンゾイルチアミン | グレランエース錠 | 武田薬工 | 錠 | M |
アセトアミノフェン |
|
|
| こどもリングルサット | 佐藤製薬 | 錠 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド | ブロムワレリル尿素 |
| 無水カフェイン | コンジスイとんぷく | 丹平製薬 | 顆粒 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド | ブロムワレリル尿素 |
| 無水カフェイン | サリドンエース | ゼファーマ | 錠 | M |
アセトアミノフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | 小・中用ノーシンピュア | アラクス | 錠 | M |
アセトアミノフェン |
| 地竜エキス・ケイヒ末 | 無水カフェイン | 小児用ツーラン熱さまし痛み止め | 日東薬品工業 | 顆粒 | M |
アセトアミノフェン |
|
|
| 小児用バファリンC ? | ライオン | 錠 | M |
アセトアミノフェン |
|
|
| 小児用バファリンチュアブル | ライオン | 錠 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | 新セデス錠 | 塩野義製薬 | 錠 | W |
アセトアミノフェン エテンザミド |
| カンゾウエキス シャクヤクエキス | チアミンジスルフィド | 新パトシック錠 | 日東薬品工業 | 錠 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド | ブロムワレリル尿素 |
| 無水カフェイン | 新リングル | 佐藤製薬 | 錠 | S |
アセトアミノフェン イソプロピルアンチピリン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | セデス・ハイ | 塩野義製薬 | 錠 | S |
アセトアミノフェン イソプロピルアンチピリン | アリルイソプロピルアセチル尿素 | カンゾウエキス | 無水カフェイン | セミドン顆粒 | 全薬工業 | 顆粒 | S |
アセトアミノフェン イソプロピルアンチピリン | ブロムワレリル尿素 |
| 無水カフェイン | 大正トンプク | 大正製薬 | 細粒 | S |
アセトアミノフェン エテンザミド | ブロムワレリル尿素 |
| 無水カフェイン | ナロン顆粒 | 大正製薬 | 顆粒 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド | ブロムワレリル尿素 |
| 無水カフェイン | ナロン錠 | 大正製薬 | 錠 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド |
|
| カフェイン | ノーシン | アラクス | 散 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド |
|
| カフェイン | ノーシン「細粒」 | アラクス | 細粒 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド |
|
| カフェイン | ノーシン錠 | アラクス | 錠 | S |
アセトアミノフェン エテンザミド |
|
| カフェイン | ノーシンホワイト細粒 | アラクス | 細粒 | S |
アセトアミノフェン |
|
| ジベンゾイルチアミン | ノーシンホワイトジュニア | アラクス | 錠 | W |
アセトアミノフェン エテンザミド |
|
| カフェイン | ノーシンホワイト錠 | アラクス | 錠 | S |
アセトアミノフェン エテンザミド | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | ノノン錠 | 湧永製薬 | 錠 | S |
アセトアミノフェン エテンザミド |
|
| カフェイン | ハイタミン錠 | アラクス | 錠 | S |
アセトアミノフェン エテンザミド |
| シャクヤクエキス | カフェイン | ハッキリエースa | 小林製薬 | 顆粒 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | バファリンエル | ライオン | 錠 | M |
アセトアミノフェン エテンザミド |
| カンゾウエキス | 無水カフェイン | ペレタック顆粒 | 大鵬薬品 | 顆粒 | S |
アセトアミノフェン エテンザミド |
|
| 無水カフェイン | ミグソフト | ゼリア新薬 | カプセル | M |
アセトアミノフェン エテンザミド | ブロムワレリル尿素 |
| カフェイン チアミンジスルフィド | ユニー | 小林薬品工業 | 錠 | S |
アセトアミノフェン エテンザミド | ブロムワレリル尿素 |
| カフェイン
| ロベラエース | 日水製薬 | 錠 | M |
イブプロフェン |
|
|
| イブ | エスエス製薬 | 錠 | M |
イブプロフェン |
|
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| エコルネ | 堀井薬品 | 錠 | M |
イブプロフェン |
|
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| クラライットA | 龍角散 | カプセル | M |
イブプロフェン |
|
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| フェリア | 武田薬工 | 細粒 | M |
イブプロフェン |
|
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| リングルアイビー | 佐藤製薬 | カプセル | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | イブA | エスエス製薬 | 錠 | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | シペラEV | 興和 | 錠 | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | スパロミンエース | 三宝製薬 | 錠 | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | スペーシィア | 小林薬品工業 | 錠 | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | セデスキュア | 塩野義製薬 | 錠 | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | ネスバンEV | ホーユー | 錠 | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | ノーシンピュア | アラクス | 錠 | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | フツナロンEV錠 | ジェーピーエス製薬 | 錠 | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン | メリドンEV錠 | ジェーピーエス製薬 | 錠 | M |
イブプロフェン | アリルイソプロピルアセチル尿素 |
| 無水カフェイン ビタミンB1,C | ナロンフレッシュC | 大正製薬 | 錠 | M |
イブプロフェン |
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| 無水カフェイン トラネキサム酸 | ルッケル解熱鎮痛錠 | 資生堂 | 錠 | M |
イブプロフェン エテンザミド | ブロムワレリル尿素 |
| カフェイン
| ナロンエース | 大正製薬 | 錠 | M |
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| ブシ末 シャクヤク末 カンゾウエキス末 | コンドロイチン硫酸Na | イレイサー | ゼリア新薬 | 錠 | W |
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| コンドロイチン硫酸Na | コンドロンイチンZS錠 | ゼリア新薬 | 錠 | W |
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| 地竜エキス散 |
| JPS熱さまし | ジェーピーエス製薬 | 顆粒 | W |
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| 地竜エキス散 |
| ゼリア「地龍エキス」顆粒 | ゼリア新薬 | 顆粒 | W |
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| ヨクイニン、トウキ、麻黄他 |
| 「モリ」ハイツウ錠 | 大杉製薬 | 錠 | W |
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| ブシ末 シャクヤク末 カンゾウエキス末 | コンドロイチン硫酸Na | リバイブ | 堀井薬品 | 錠 | W |
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表2 外用薬(坐薬)
強さの指標 S;強い M;普通 W;弱い
解熱鎮痛成分 | 鎮静成分 | 生薬成分 | その他の成分 | 製品名 | 販売会社 | 剤形 | 強さ |
アセトアミノフェン |
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| アルピニー坐薬 | エスエス製薬 | 坐薬 | M | アセトアミノフェン |
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| こどもパブロン坐薬 | 大正製薬 | 坐薬 | M | アセトアミノフェン |
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| ヒストミン坐薬 | 小林薬品工業 | 坐薬 | M |
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2006年11月 掲載
■テーマ
1. 薬に関する仕組み
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬