村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)
16. 胃の薬

一般の方はよく「胃腸薬」とか「おなかのくすり」といいますね。「新△△△胃腸薬」とかのみすぎ、たべすぎ、胸やけに「○○○錠」といった広告が多いですね。これらは「複合胃腸薬」といわれるもので、胃の症状と腸の症状に効く成分を盛り沢山に入れて、生薬などで「味付け」しています。それなりに効いて手軽ではありますが、成分と効果の説明をすればうんざりする位長くなります。前回は消化器官でも下部すなわち腸の症状とくすりを話しましたので、今回は上部、胃の症状とくすりに限って解説しましょう。
胃の働きと異常
胃は胃袋というように食道に続く袋状の器官で、唾液と混ざった食物がここに集まります。袋の内面からは胃酸が分泌され、中は強酸性で食物を殺菌します。少々汚染されたものを食べても平気なのはこのおかげです。ということは、水やアルコール類をがぶ飲みすれば、胃液が薄まって殺菌効果が落ちます。殺菌とは菌を殺すことですが、こんな強い酸の中でも生きているピロリ菌というのが潰瘍やがんの原因に関係していることがわかりました。胃酸の分泌は自律神経によって調整されていますが、これが順調にいかないと胃の症状となって現れます。胃液には酸のほか、たんぱく質を分解するペプシンなど酵素も含まれるので、不足すると消化力が低下します。逆に胃酸分泌が多すぎるのが胃酸過多で、胸やけやキリキリ痛むという状態が起きます。酸によって胃の内壁自体を酢でしめたようになるのです。暴飲、暴食は胃に能力以上の負担をかけて、胃の内壁を荒します。
胃の薬の基本
胃の異常状態を修復するには、胃酸分泌に対する処置と荒れた胃の粘膜保護という二つの方法があります。多くの症状は胃酸過多によるので、酸を中和する方法と胃酸の分泌を抑える方法が考えられます。酸の中和にはアルカリですが、強いものは危険ですから使えません。炭酸水素ナトリウムは重曹とも呼ばれた日本薬局方収載薬品です。薬局で安い値段で市販されています。薬剤師にのみ方をきいて使えば、確実にききます。制酸薬と称している市販製剤の多くはマグネシウム、アルミニウム、カルシウムの塩類を複数含有しています。世界的にも胃酸の中和の基本と考えてよいでしょう。
古来から使われてきた生薬には成分中に自律神経系に作用して、胃酸分泌を調整するものがあります。中でもロートエキスにはアトロピン、スコポラミンなどが含まれ、これが薬理的にアセチルコリンと拮抗して胃酸分泌を抑えることが証明されています。付表で項目を分けて目安としました。
胃酸の分泌がどのような仕組みで行われているかは前世紀後半の医療研究対象でしたが、ビッグな成果が得られました。分泌にヒスタミンH2というレセプターが関与し、このレセプターを阻害すれば分泌は止まることが明らかになりシメチジンが出ました。その後いくつかのH2ブロッカーという一連の薬が医療用として使用されています。これらの薬はスイッチOTCとして市販されています。これは、調節というより水道栓を捻って止めるように効きます。もちろん、永久ではありませんが持続時間も長いのでよく薬の性質を知ってください。
荒れた胃壁の修復は、いわば傷んだ箇所の壁塗りです。スクラルファートは糖類で日本が考案した薬で医療用で活用され、今では世界的な評価を得ています。他にもメチルメチオニンスルホニウムクロリド(ビタミンU)、ゲファルナート、アルジオキサ、セトラキサート等医療用で使用され実績がある成分です。L-グルタミンや生薬成分の一部にも同様の作用があるといわれています。
ショウキョウ、ソウジュツなど生薬類が含まれているものもありますが、薬理的作用より芳香などにより、食欲増進などを目的にしています。今回は表から割愛しましたが、健胃薬と称する内用液剤(ドリンク)や丸薬は生薬エキス類のみを成分としていて、目的ものみすぎ、たべすぎの後と考えていいでしょう。
どのように「くすり」を選ぶか
胃腸薬の中でも胃の薬を選ぶにあたっては、症状をみて胃酸が多いなと思ったら、ロートエキスを含む製剤を選ぶのがよいでしょう。確実に抑えるならばH2ブロッカーを使用されるのもいいでしょう。切れ味がいいだけに、他の成分も混在しているものより単味の方が使いやすいでしょう。付き合いや食べすぎが続いて胃が荒れているときには、粘膜保護の成分の入っている薬を使うのはよいですが、やわらかいお粥や温かいミルクなど胃に優しい食べ物を勧めたいですね。
疲労や暑さなどで食欲がない場合は、生薬類主体の健胃剤の方がよいでしょう。複合胃腸薬を常用することはさけるようにしましょう。
胃の薬を使うにあたっての注意
胃の粘膜を保護する成分は長期間使用しても有害作用が生じることはまずないでしょう。胃酸を中和する薬も基本的には害はないのですが、連用しても胃酸の分泌が低下するわけではなく、常に使うことになります。高齢者の方で認知症の患者で、脳内にアルミニウムやマグネシウムが沈着しているという報告があり、懸念する意見があります。胃の症状に応じて使用する位では心配は不要ですが、連用し続けるのは感心しません。また、この種類の薬は他の薬と相互作用を起こすことが多いので、医療で処方せん薬をもらうとき必ず薬剤師に使っている「胃腸薬」の名前を伝えてください。胃酸を抑えるH2ブロッカーは薬局で薬剤師に相談して使う薬です。用法・用量を守って、長期に使ってはいけません。症状が続く場合は医師の診察を受けて重大な疾病がないか確認することが大事です。
制酸薬(主として胃酸の中和と胃粘膜の保護を目的とした胃の薬) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
メタケイ酸Al・Mg: メタケイ酸アルミン酸マグネシウム 酸化Mg: 酸化マグネシウム その他Caはカルシウム、Naはナトリウムの略
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H2ブロッカー配合薬 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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2007年02月 掲載
■テーマ
1. 薬に関する仕組み2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬