セルフメディケーションを実践のための200テーマ

村田正弘(セルフメディケーション推進協議会専務理事)

26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
 口腔内に使う薬についてのべてきましたが、今回は歯に関することを説明します。歯が痛い、――歯槽膿漏を早く治しておかないからだ――確かに理屈はそうでも痛い本人にとっては、ともかく何とかしたいのが先です。もちろん、その場しのぎで痛みをとっても薬で歯の炎症を治療することはできません。

 また、虫歯や歯槽膿漏の防止はセルフメディケーションの重要な柱です。歯科医師とよく相談されることを約束してください。
薬の性質と目的
 歯痛や歯槽膿漏の薬と題しましたが、目的が同じではありません。大きく分けると口腔内を殺菌するものと炎症を緩和するものとがあります。虫歯や歯槽膿漏によって歯の根元が浮いた状態になり、その隙間に食べ物の残りがたまり物理的に刺激したり、分解した成分によって痛むのです。それならば、まず口の中の残渣をなくすために口をすすぎましょう。

 冷たい水は刺激があるので、体温程度のぬるま湯がおすすめです。痛むとき、歯ブラシを使うと傷つけることにもなるので無理に使うことはありません。しかし、すすぎだけでは完全ではないので殺菌消毒成分を含む薬があります。

 多くは外用液です。種類がいくつかありますが、フェノールは強力です。薄めてありますが、消毒薬は毒―身体にも害になりますから使用方法を守ってください。綿球にしみ込ませて・・・など説明書にきちんと書いてあります。毒?―怖いからもっと薄めようか―薄めてはいけません。

 消毒効果は局所に一定の濃度以上が持続できるかによります。軟膏やデンタルペーストのように患部に塗る製品も同じ目的で工夫されています。

 殺菌消毒成分には痛みを抑える作用はありません。この成分と生薬類の製品を使って痛みがとれたと感じるのは、口中の環境がよくなった結果です。痛みをとるには局所麻酔成分が必要です。これも正確にいえば、痛みの感覚を麻痺させているので原因を治しているわけではありません。痛みを抑えるには「解熱・鎮痛薬」が必要です。No. 13の項を参照してください。歯痛の適用があると記載されています。

 炎症の緩和は難しいです。歯が腫れる―これも正確には歯ではなく歯槽膿漏と同じで歯茎の炎症です。成分としてはグリチルリチン系と塩化リゾチームがあります。作用はそれほど強くなく腫れがすぐにひくことは期待できません。これらの成分を主体とした製品は緊急用というより歯槽膿漏の悪化を防ぐ目的に重点をおいています。

 生薬成分もいろいろあります。東西各地域で伝統的に使用されてきたものが中心で炎症の緩和と芳香による爽快感を目的としています。表に記載した成分はいずれも抽出されたエキスで量的な関係は不明です。中には歯ブラシにつけてマッサージするようにみがくと説明している製品もあります。成分よりマッサージが予防に役立っています。

 ビタミンも炎症時に消耗されると考えられる成分を配合しているので歯痛と直接関係ありません。
飲み薬の役割
 多くは外用薬ですが表の後半に内服薬がいくつか記載されています。クレオソートという殺菌消毒成分を含む製品がありますが、この製品は生薬成分と共に消化管内を殺菌、整腸する役割が主で、効能に歯痛と記載されていますが目的には合わないでしょう。

 塩化リゾチームは医療用でも内服して炎症に効くとして使用されています。しかし、そのメカニズムははっきりしていません。一般用医薬品の配合量は低めです。

 この成分を含む製品にはビタミンCとEが配合されていて、炎症時の消耗を防いだりや血管強化の作用があります。それならば、ビタミンCとE、または総合ビタミン剤を使用されたらいかがでしょう。値段も較べてみるとよいでしょう。
歯に関するセルフメディケーション
 歯痛の薬といっても意外に複雑です。消毒や痛み、薬の使い方は薬剤師に聞けば間違わなくてすみます。歯に関しては緊急避難と日常の予防行為というまさにセルフメディケーションのお手本が示されています。言い過ぎかもしれませんが、自己流でごまかしたり、さぼって手をぬくと必ず「つけ」がきます。虫歯から重篤な感染症へという危険もあります。

 歯科医師と相談して、いつまでも歯を大切にするよう心がけてください。

歯痛・歯槽膿漏の薬
殺菌消毒成分局所麻酔成分抗炎症成分生薬類その他の成分製品名販売会社剤形
フェノールカンフルオイゲノールコンジスイQ丹平製薬軟膏
フェノールカンフルオイゲノールデンター歯痛ゼリージャパンメディックデンタルペースト
フェノール塩酸ジブカインジフェンヒドラミンカンフル、チョウジ油、 ケイヒ油、メントール歯痛剤新今治水丹平製薬外液
塩化セチルピリジニウム塩酸ジブカインメントール、アミノ安息香酸エチルデンタルクリーム日邦薬品工業デンタルペースト
ヒノキチオールパラデントエースライオン軟膏
イソプロピルメチルフェノール チモールチョウジ油塩化ナトリウム三宝はぐきみがき三宝製薬軟膏
ヒノキチオール 塩化セチルピリジニウムグリチルリチンアラントイン生葉液薬小林製薬外液
ヒノキチオール 塩化セチルピリジニウムグリチルリチンアラントイン新デントヘルスライオンゲル
ヒノキチオール 塩化セチルピリジニウムグリチルリチンアラントイン、 パンテノール新デスパコーワ興和軟膏
塩化セチルピリジニウムグリチルレチン酸ビタミンEデントヘルスフラッシングケアライオンデンタルペースト
クロルヘキシジングリチルレチン酸ベニバナカルバゾクロムレオセーブCライオン軟膏
塩化リゾチームアラントイン、 ビタミンEペリオメディカサンスターデンタルペースト
カミツレ、ラタニア、ミルラアセス佐藤製薬軟膏
カミツレ、ラタニア、ミルラアセスL佐藤製薬軟膏
カミツレ、ラタニア、ミルラアセス液佐藤製薬外液
カミツレ、ラタニア、ミルラアセスジュニア佐藤製薬軟膏
エンゴサク、オウレン、キキョウ他歯痛薬アンチピオレー大和生薬研究所軟膏
クレオソートアセンヤク、オウバク、カンゾウ他正露丸大幸薬品他 *丸薬
塩化リゾチームビタミンE、C、K2テンテクモエーザイカプセル
塩化リゾチーム銅クロロフィリンNa、ビタミンC、E内服用アセス佐藤製薬
塩化リゾチームカルバゾクロム、ビタミンC、Eパウンドカプセル日水製薬カプセル
* 生薬エキスなど成分内容、販売名の同じ製品が複数ある
2007年12月 掲載
■テーマ
1. 薬に関する仕組み
2. 薬の作用効果と副作用
3. 薬の作用 投与経路と薬の生体内運命
4. 薬の作用 用量と効果、用量と毒性の関係
5. 一般用医薬品の選び方、使い方(1) 花粉症のくすり
6. 一般用医薬品の選び方、使い方(2) 乗物酔い防止薬
7. 一般用医薬品の選び方、使い方(3) 整腸薬
8. 一般用医薬品の選び方、使い方(4) 水虫の薬
9. 一般用医薬品の選び方、使い方(5) 虫さされ・虫よけの薬
10. ビタミン含有保健薬
11. 外用殺菌消毒薬
12. うがい薬
13. 解熱鎮痛薬
14. 小児用かぜ薬
15. 整腸薬と便秘薬
16. 胃の薬
17. 痔の薬
18. にきびの薬
19. 更年期障害の薬
20. 目薬(1) 目が赤くなったり、かゆい時
21. 目薬(2) 洗眼とドライアイ
22. 目薬(3) 一般点眼薬
23. うおのめ、いぼ、たこの薬
24. 口腔内殺菌薬
25. 口内炎の薬
26. 歯痛や歯槽膿漏の薬
27. 乾燥性皮膚用薬
28. 発毛・養毛薬
29. 高コレステロール薬
30. 催眠・催眠鎮静薬
31. 眠気防止薬