― OTCを正しく使うコツ ―
江戸清人
認定NPO・SMAC理事
帝京大学薬学部 教授
わが国の医療保険制度は世界的にみても充実していると言われていますが、医療費の高騰は社会問題化しています。近年、一般用医薬品、いわゆるOTC(over the counter drug、大衆薬)に関する法整備により、登録販売者という新しい職種が誕生しました。一方、わが国の参加が決まったTPP(環太平洋経済連携協定)では医療分野も検討されると言われています。また、昨今の国民の健康志向が強くなっています。したがって、諸外国でも推進しているセルメディケーションの機運が高まることが予想されます。
本稿は医療の現場を、すなわち病院薬剤師を長く経験した薬学部の教員の立場からセルフメディケーション、特にOTCの適正使用について記してみたいと思います。
一般的にはセルフ「自分」メディケーション「医療」ということであり、文字通り、軽い症状は自分自らが対応することを意味します。カゼを引いた、ちょっとした怪我をした、頭痛の場合などに、医療機関を受診せず、生活者自らが主体となって行う軽医療のことです。また、日頃から老化防止や健康の自己管理にビタミン剤等サプリメントを利用することも広義のセルフメディケーションに含まれます。
薬学、薬剤師という立場から、セルフメディケーションはOTCの投与やサプリメントの摂取を思い浮かべます。他にセルフメディケーションに用いられる薬はOTC以外にも配置薬、民間薬までさまざまです。
医薬品には病院・診療所の処方せんにより保険薬局(調剤薬局)からあるいは病院・診療所の薬局から調剤される医薬品、すなわち、医療用医薬品と保険薬局やドラッグストアで購入できるOTCに大別されます。セルフメディケーションで用いられるのはOTCです。OTCは14薬効群があり、リスクを基にOTCを分類すると表1のようになります。OTCは薬剤師と登録販売者が扱えます。ただし、特にリスクの高い第一類は薬剤師のみが販売できます。

OTCをさらに分類すると、スイッチOTCとダイレクトOTCに分類されます。スイッチOTCは医療用医薬品に含まれる有効成分をOTCに転用したものです。医療機関を受診したときと同じ効果を期待できます。最近、花粉症(抗アレルギー)の薬、エピナスチン塩酸塩(アレジオン®10:第1類)、フェキソフェナジン塩酸塩(アレグラ®FX:第1類)が市販されました。病院で用いられる医薬品の薬効成分を含みますが、有効成分量を減量しているものが多いです。国はセルフメディケーション推進の立場からスイッチOTC化を促進しています。一方、ダイレクトOTCといわれるものも保険薬局や、ドラッグストアで市販されています。これは医療用医薬品を経ず、直接OTCとして開発されたものです。例えば発毛剤のミノキシジル(リアップ®:第1類)はこの範疇に入ります。

図1.一般用添付文書の例
OTCの情報はもちろん購入するOTCの外箱等にも記載されていますが、箱の中には一般用医薬品添付文書(図1)が入っています。これらを十分活用すべきです。添付文書は基本的には購入したOTCを使い切るか、期限が切れるまで保管します。
インターネットを利用できる環境に有る方は、独立法人医薬品医療機器総合機構(pmda:http://www.info.pmda.go.jp/)から入手し、一般用医薬品の添付文書あるいは患者用の説明文書を利用しましょう。もう一カ所、生活者にとっても有用な医薬品情報提供元として、日本医薬情報センターのデータベース(iyakuSearch:http://database.japic.or.jp/)があげられます。
ほかに書籍からも入手可能です。末尾に参考文献として少し専門的かもしれませんが、2書籍を挙げておきます。セルフメディケーションはくすりの正しい情報を入手してその内容をよく理解してはじめてスタートに立つことができます。なお、医薬品情報は「生もの」です。OTCの医薬品情報もできるだけ新しい情報を利用しましょう。
そのOTCが何に効く(「効能・効果」の項)かも非常に重要ですが、「使用上の注意」の項目は外さず、必ず読みましょう。この中で「していけないこと」、「相談すること」の記載内容が重要です。「していけないこと」の項に服用はしない症状、併用しない薬、などが記載されています。「相談すること」の項には副作用や事故の起こりやすい条件など医師・歯科医師にかかっている人、アレルギー体質の人、妊婦、高齢者など特に注意が必要な場合に記載されています。また、まれですが、副作用の重い症状がでたら素早く医師、薬剤師に相談の必要が生じます。OTCについて分からない事がある場合は躊躇せずに薬剤師、登録販売者に相談してください。持病を抱えている方のOTC利用は薬の飲み合わせ等があるので併用については薬剤師に相談するのが良いでしょう。症状がよくならずOTCを長期に使うことは病気を慢性化させることになるので、OTC添付文書を参考に一定期間服用して症状があまり良くならないときは速やかに医療機関を受診してください。

図2.くすりの正しい使い方の絵本〔クスクスせんせい〕の表紙
筆者らは以前に児童生徒に薬の正しい使い方の講義(出前)をした経験があります。その授業に使用する教科書を作成、さらに幼児向けの薬の正しい使い方の内容の絵本を出版いたしました(図2)。昨今中学・高校の保健体育の授業で健康、薬についての講義が開始されています。また、老人会等に出向き薬の正しい使い方の啓蒙を行っている薬剤師会も全国で多くみられるようになりました。もちろん、インターネット上にも「薬の正しい使い方」サイトもこの数年増加しました。
妊婦、乳幼児、小児、アレルギーのある人、既往症のあるかたは医師、薬剤師に薬についてよく相談しましょう。もし、病院・診療所にかかっている場合は医療用医薬品(処方せん薬)を処方する医師に相談することです。そのときはお薬手帳を持参しましょう。お薬手帳は医療用医薬品だけでなくOTCの使用も記入しておき、病院にかかるとき医師に、保険薬局では薬剤師に提示しましょう。医療用医薬品とOTCの飲み合わせの可否もチェックして頂けます。震災後にお薬手帳の有用性が高い評価を受けました。また、飲んでいる薬について家族が相談できる身近なかかりつけの薬局や薬剤師がいるとお薬の自己管理がしやすくなるでしょう。
参考文献1)日本OTC医薬品情報研究会編、OTC医薬品事典2012−2013(一般用医薬品集 第13版)、じほう、2012.
2)(財)日本医薬情報センター編、JAPIC一般用医薬品集2013、丸善、2012.
3)文・絵/長野ひろかず、江戸清人他監修、クスクスせんせい(絵本)、プレジデント社、2004.