― セルフメディケーション雑感―
大嶋耐之
認定NPO・SMAC理事
金城学院大学薬学部教授
セルフメディケーションとは、究極に「自分の健康は自分で守る」ということである。さて、ここで「自分で守る」とは、どういうことか?少し考えてみたい。
とかく日本人は、責任の所在地を不明瞭にしたがる人種であると思う。何か事が生じた場合、担当省庁に行った際、自分の課(範疇)ではないと、たらい回しにあって、また、元の場所に戻り、腹を立てることが何度もある。私もある一般用医薬品を米国から個人使用で持ち帰った際、厚労省の中で違法だと各課のたらい回しにあって最後は不問にされたことがある。一般企業においても同様である。縦社会がすべてを牛耳り、横の繋がりがないに等しく対応されるのが、責任転嫁の象徴である。
では、セルフメディケーションにおける「自分で守る」場合の責任は、どこにあるのであろうか。当然、国民一人ひとりである。健康を維持するために、自己責任でサプリメント・健康食品を服用し、ジムに通い、ジョギングをするのである。そして、のどの痛みなど軽微な風邪をひいたらドラッグストアで一般用医薬品を購入し、熱が出たら医者にいくのである。その受診の線引きはすべて自己判断といえる。サプリメントの乱用による心身に及ぼす影響、あるいはジョギングによる心臓への負担などは、自己健康診断で判断し、行っているのである。
このような身に迫る事故を未然に防ぐ手立ては、自己責任で何かを実施する場合、個人に必須なリスクマネジメント(危機管理)能力である。セルフメディケーションを実施する上でのリスクマネジメントは、その情報収集に限るといっても過言ではない。前述したように、自己責任の範囲内での有事、企業・医療関係者・行政は個人の自己責任ということで責任転嫁を図るであろう。それを阻止するためにも、正しい情報を収集する知識と知恵が必要である。
例えばサプリメントを購入するときは、雑誌の商品概要やインターネット情報のみではなく、専門家に自分にとって何が有益で何が不利益か理解できるまで聞くことこそが、唯一のリスクマネジメントと思う。事故が起きてからでは遅く、死に至っているケースも散見されているのが危機管理能力の薄さともいえる。
セルフメディケーションの側面(反面)は、自己責任ということを忘れてはいけない。“自分で守る”上で大切なことは、些細なことでも人の話を鵜呑みにせず、納得したうえで行動を起こすべきである。ジョギングでも、スポーツジムにおける運動でも、運動量や運動種目などを自分の身体状態と照らし合わせながら専門家の助言を受けながら行うことが自分を守る上で大切なことである。自分で健康にいいと思っていても、そこに落とし穴が存在するケースもある。
また、ネット販売で安易に医薬品を購入し服用することは、命を粗末にすることと同じである。すべての薬剤師あるいは医療関係者が良き情報提供者とは言わないが、その中で、自分の身体を預けることができる信頼関係のある助言者を何人かそばにおいておくことこそ、良きセルフメディケーション遂行者といえる。
渡辺淳一氏は自身のエッセイの中で、自感学のすすめを説いている1)。自感学とは、自分の身体から学ぶものであり、「これでは俺は立ち上がれない」「こんなことをしていると、仕事もできなくなるぞ」と身体が教えてくれることである。具合が悪くなるのではなく、徐々に身体そのものが劣ってくる、まさに老化感覚を自分で感じることである。
私がこの自感学をセルフメディケーション風に解釈するに、健康を維持するためには、自分で感じる感覚というものを大切に、その場その場で対応することが必要であり、その感覚を自感として身につけ、そこに専門家からの正しい知識を融合することで自分の健康を守ることこそ、その本質であると考える。皆さんは正しいセルフメディケーション遂行者ですか?
1)渡辺淳一:老いの処方箋「人間の平均的な寿命は」、『ひととき』2013年4月号、p48-49
Key Words:自己責任、自感学