―これからのOTC医薬品販売―
鹿村恵明
認定NPO・SMAC理事、
東京理科大学薬学部教授
インターネット上でのOTC医薬品販売が可能になりました(要指導医薬品を除く)1)。購入するのが便利になったといえますが、その反面、自分で責任を取るという意識をしっかり持っていただくことが必要となります。急を要する薬が必要な時は、ネットで注文して家に商品が届くのを待つことはできないので、ネットで医薬品を購入する方は基本的に同じような症状が繰り返し起こっている人だと思われます。このようなケースでは、薬に依存しすぎたり、乱用につながったりする危険性もありますので、症状が改善しない場合は、ためらわずに薬剤師や医師に相談するようにしましょう。
私は薬剤師ですので、個人的にはOTC医薬品を使ってセルフメディケーションを行う場合、薬剤師や登録販売者に直接会って相談されてから購入することをお勧めします。私自身もお客さんの訴えを聞くだけでなく、顔色や口調などから体調を確認して販売しないと、不安な気持ちになりそうです。将来的には薬局でOTC医薬品を販売する際、「お薬手帳」の有効活用と簡易血液検査機器を使った副作用の確認ができるといいなと思っています。以下、その2点について詳しく説明します。
今のところ、国民にお薬手帳の有用性が十分に伝わっていない気がしています。東日本大震災の時にお薬手帳を持っていた方は普段飲んでいる薬の名前がすぐにわかったので、災害支援医療チームからスムーズに薬をもらうことができたようですが、自分が服用している薬の名前がわからない人は、薬が特定できず大変な思いをされたそうです。この「お薬手帳」は医療用医薬品のみを記載するものではありません。OTC医薬品を購入した時こそ、お薬手帳に記録するべきです。購入した際に薬剤師や登録販売者にOTC医薬品の服用歴をしっかり記録してもらうようにしましょう。また、お薬手帳には医薬品名だけではなく、今までにかかった病気や副作用歴、アレルギー歴を記入することになっていますので、これらの情報がきちんと記載されていることが大切です。しかし、残念ながらほとんどの方がこのような経験がないものと思われます。OTC医薬品販売時におけるお薬手帳の活用については、街の薬剤師は明らかに手を抜いていたように感じています。これからはこのようなサービスをきちんと行えるかどうかで薬局の評価が変わってくれたらいいなと思っています。皆さんもかかりつけ薬局を決める際には、このような点に注意して慎重に選ぶようにしてください。なお、これからはOTC医薬品のネット販売も進んでいくと思いますので、そのような場合は自分で情報を管理するという姿勢も必要になるでしょう。
最近では血液検査の機器がかなり進化しています。指先から少量の血液を採って機械にかけると、血糖値やコレステロール値、肝機能、腎機能まで簡単に検査することができます。仕事の忙しい人は医療機関を受診出来ないこともありますので、このような方に対して街の薬局の店頭で簡単な血液検査をする試みが一部の地域で始まっています。たとえば、薬を飲んだ後に湿疹やかゆみが出るような副作用であれば自分ですぐに気づくことができます。しかし、肝機能障害などの副作用については自分では気づきにくいものです。私自身の実体験として、簡易血液検査で漢方薬による肝機能障害の副作用を早期に発見することができた経験があります。アトピー性皮膚炎のために漢方薬の「温清飲」を飲み始めて間もない頃、たまたま参加した講習会の会場で簡易血液検査の機械のデモンストレーションがあり、試しに検査してみると、肝臓の機能異常を示す数値が出ていました。翌日、半信半疑で医療機関を受診したところ薬の副作用による肝機能障害ということがわかり、すぐに服薬を中止できたため、大事には至りませんでした(この時の原因は「温清飲」中に含まれる生薬「オウゴン」によるものと考えられます)。先の述べたとおり、薬局の店頭で行う血液検査の主目的は、忙しくて医療機関を受診できないような方に検査をしてもらい、疾病の可能性があった場合には医療機関への受診を薦めることによって、病気が悪くなる前に早期に治療を開始することですが、今後、OTC医薬品を販売した際の副作用の発見にも活用できるようになれば良いと思います。
OTC医薬品のネット販売も始まり、薬局薬剤師を取り巻く環境はこれから大きく変化することが予想されますが、国民が安心して薬物療法に取り組めるサポートをするという役割は変わりません。皆さんも信頼できる薬局を探すことがセルフメディケーションの第一歩になりますので、自分で納得できる薬局をさがして「かかりつけ薬局」として有効に活用してください。
参 照1) 薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律 厚生労働省 (accessed on March 12.2014)
2) 産業競争力の強化に関する実行計画 〔平成26年1月24日 閣議決定〕 (accessed on March 12.2014)
キーワード:OTC医薬品、セルフメディケーション、薬局