同じ化合物・植物が医薬品とサプリメント、どちらを選ぶか
安川 憲
認定NPO・SMAC 理事
日本大学薬学部教授
甘草・人参等の生薬類、コエンザイムQ10とユビデカレノン等々、同じ成分が医薬品とサプリメント(健康食品)の製品を見かけることがあります。この様なサプリメントが増えていますが、これらは同じ物なのか違う物なのか、どちらを選べば良いのでしょうか。我々専門家は、迷わずに医薬品を選びます。ここでは、サプリメントが増えている理由と医薬品を選ぶ訳を考えていきます。
人生80年といわれる高齢社会を迎えて、人々の関心は単に長寿を願うことから生き甲斐を持って充実した生活を送ることに変わりつつあります。健康であることは、その様な生活の実現のために欠くことの出来ない大前提といえます。しかしながら、生活習慣の変化は、生活習慣病患者とその予備軍を増加させ続けています。一方、健康を維持するには、食事、運動、そして休養が大切と言われていますが、忙しく働きまわる日々の生活では、限られたことしか出来ないのが現状です。そこで人々は、主食や主莱・副菜の他に、健康によいといわれるものや付加価値があるものを求めるようになりました。このような中、国民のニーズを提えたサプリメントは着実に人々の生活に浸透して、不況の波を受けることなくその市場規模を拡大しています。いわゆるサプリメントとは普通の食品よりも健康に良いと称して売られているものを指していますが、サプリメントそのものを規定する法令上の明確な定義はありません。ある成分が医薬品とサプリメントに使用されていることは珍しいことではありませんが、あまり知られていないことも事実です。コエンザイムQ10は、心不全に使用される医療用医薬品(ユビデカレノン)であることを知っている人は少ないでしょう。また、コエンザイムQ10に抗肥満・美白効果のエビデンスが無いことも知られていません。医薬品のエビデンスとはダブルブラインドで行うこと、即ち、投与する人も投与される人も実薬と偽薬のどちらかが分からないようにして試験し、終了後に開示してデータ解析し有効性を判定します。コエンザイムQ10が、肥満や美白に効果があるという臨床結果は見たことがありません。これらは、試験管内で細胞への振り掛け実験での結果から推測したものと思われます。即ち、これらの効果に臨床的エビデンスは存在しない事になります。さて、動悸・息切れがする人が、サプリメントか医薬品かを選ぶ時はどうでしょうか、医薬品を選ぶ人が大部分でしょう。では、肥満解消や美白ではどうでしょうか、サプリメントを選ぶ人が大部分ではないでしょうか。医薬品ユビデカレノンは一日量が30 mgですが、コエンザイムQ10の一日量は医薬品の数倍という不思議な状態となっています。ある研究者が、これらのサプリメントの含有量を定量したところ、殆どの製品が記載に偽りは無かったそうです。これは大きな問題と思いましたが、溶出試験を行ったところ、その心配はなくなった様です。服用しても、体内に吸収される量は医薬品と差の無い量か、全く吸収されない製品もあった様です。これでは効果が見込めない訳ですから、医薬品であれば許されない事です。実は、医薬品とサプリメントの違いは、この部分にあるのです。医薬品は、成分の含有量はもとより、有害成分の定量値、体内の何処で吸収されるか、等々の多くの試験に合格した物だけが市場に出て来ます。サプリメントでは、社内規格だけが頼りです。
EUで医薬品として承認されているハーブ類(西洋ハーブ)は、有効成分の定量試験、純度試験、力価試験、残留農薬試験等様々な試験に適合したものです。しかし、サプリメントは、食品であることからこの様な試験は規定されていません。例えば、軽度のうつ症状に使用されているセントジョーンズワートは、欧州連合、韓国では医薬品であるため厳しい規格に適合していますが、我国ではサプリメントであるためこの様な厳しい試験を受けていないものが販売されています。この様に、西洋ハーブの中には欧州で医薬品として使用されているものがあります。実はエビデンスはその医薬品のものであり、同じ植物なら良いというものではありません。医薬品の場合は、植物から定められた抽出・精製方法を経て出来たエキスを用います。サプリメントを選ぶ時には、同じ成分が医薬品にあるかを確認し、安全性・有効性が担保されている医薬品の方を選ぶことを薦めます。医薬品が無い場合は、外箱に成分名(植物・生薬の場合は、その学名:世界共通の名前)、製造方法(GMP等)、有効成分の定量値、有害成分がある場合はその定量値(イチョウ葉等)、栽培地・採集地等の情報が記載されている信頼性の高い製品を選ぶ事が大切になります。
現在の日本では、食品に効能を表示させようとする動きがありますが、国民は自己責任で商品を選ばなくてはなりません。サプリメントは、国民の健康促進に寄与するものではありますが、様々な問題を抱えているのも事実です。血圧に良いという製品が、血糖値やコレステロール値等に悪影響を与えないことは確認されていません。これは、特定保健用食品等も同じですから、気を付けなければいけません。
一つ面白い話があります、米国では完全医薬分業のため医師は薬の販売は出来ませんが、サプリメントの販売は出来るのです。彼らは、欧州(ドイツ・フランス)から西洋ハーブ医薬品を、日本からは漢方エキス製剤を輸入して、自分の患者の治療に利用しているというのです。米国にも多くのサプリメントがありますが、彼らが利用しない訳はこれらが危険であり、欧州や日本の西洋ハーブや漢方薬は医薬品であることから有効性と安全性が担保されていて安心して使えるのです。
大切な事は、健康に良いといわれているものを服用して、健康を損ねては元も子もありません。この記事が、皆様の健康維持の一助になれば幸いです。
参考文献
http://www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/medicines/landing/herbal_search.jsp&mid=WC0b01ac058001fa1d
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/hyouziseido-1.html
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/hyouziseido-2.html
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/hyouziseido-3.html