セルフメディケーション・オピニオン

「私から見たセルフメディケーション」
―セルフメディケーションとメディケーションの境目―

濃沼政美先生

濃沼政美

認定NPO・SMAC 理事
帝京平成大学薬学部 教授
(医薬品安全性評価学)

 私は現在、大学で教育や研究に携っておりますが、以前は都内の大学病院において薬剤師として医療に従事しておりました。そこで今回は、医療者としての立場で、セルフメディケーションについて考えてみたいと思います。

 SMACのホームページを閲覧されているような皆様は、日頃より健康に非常に関心が高い方々であると思われますが、いわゆる「セルフメディケーション」と聞くとどのようなことを連想されるでしょうか?

 学術団体である日本薬学会薬学用語解説によれば、セルフメディケーションとは“国民一人一人が健康管理に高い関心をもち、自分自身で健康の維持・増進,病気の予防・治療にあたる”こととされております。また、これには休養を十分とるなどの体調管理、食生活の見直しや生活習慣病のセルフチェックだけでなく、要指導薬や一般用医薬品を上手に利用しての軽い疾患やけがへの自己対応が含まれているとされております。この解説にあるように、セルフメディケーションにおいて最も大切な事は、自らが自らの健康に対して真摯に向き合うことであるといえるでしょう。

 実はこの考え方は、我々医療者が患者さんに、最も持ち合わせていて欲しい考え方の一つでもあります。一般にはセルフメディケーションは自宅などで自ら病気を予防・治療するものであり、逆にメディケーション(いわゆる診療)は、病院や診療所、薬局などで医療者が病気を予防・治療するものと考えられる傾向があります。しかし、実際にはこのメディケーションにおいても、患者さんが自ら健康でいよう、元気でいようという意識を持っていてくれない限り、薬や処置によって一時的に臨床的な症状や検査値が改善したとしても、いずれまた病気の状態に戻ってしまうことになります。ただ、病気によっては現代医学ではどうしても治らない疾患や症状もあります。しかし、このような場合においても、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質QOL:quality of life)、いわゆる患者がその人らしく良く生きているかという、人としての総合的な満足感を指標とした場合に、最後まで元気でいよう、自分らしく生きようという気持ちを患者さんに持ち続けてもらうことも、セルフメディケーションに通じる考え方であると思われます。

 すなわち、セルフメディケーションとメディケーションの関係は、メディケーションという土台の上に、セルフメディケーションがあるのではなく、セルフメディケーションという土台の上にメディケーションがあると考えるのが順当でしょう。では、セルフメディケーションと、メディケーションの境目はどうのようになっているのでしょうか?

 私は誰が病気の判断を行うにあるかにその境があるかと考えています。メディケーションであれば判断するのは医師であり、これは診断として医師しか出来ないことです。また、セルフメディケーションであれば助言などを踏まえたとしても最終的に判断するのは自分自身であり、これも自分自身でしか出来ないこととなります。つまり、セルフメディケーションとは常に自分自身を観察して把握する事といえ、健康な生活を心がけつつ、何か小さい乱れであれば、生活や食事の改善で体調を整え、これで修正が効かないようであれば薬剤師等に相談し自己治療を行うこととなります。更にそれでも乱れが大きいようであれば、医療機関を受診するなどの判断を自ら行うことといえるでしょう。

 毎年、健康診断や人間ドックを利用して、健康を管理することは非常に大切なことです。しかしその前に、常に自分自身と向き合って、自分の身体のことを誰よりも知ってあげようとする意識が健康管理において何よりも大切なのだと私は考えます。

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2014年08月 更新