2009年08月
学習のポイント
18歳以上の日本人の25%が機能性胃腸症であるとの報告がある。機能性胃腸症(functional dyspepsia : FD)は、ローマIII分類(機能性消化管障害の分類)の中で診断基準が示されている(Tack et al. Gastroenterology 130:1466-1479, 2006)。器質的・全身的・代謝疾患では説明できない胃・十二指腸由来の症状として、心窩部痛、心窩部灼感、食後膨満感、早期膨満感の4つを上げ、これら4つの症状の1つ以上を満たし、上部消化管内視鏡によって器質的疾患がないことが証明され、この状態が3ヶ月以上続くものを機能性胃腸症と定義している1)。機能性胃腸症の治療は食生活の改善、ストレス緩和を優先するとされているが、胃酸過多・胸やけ、食欲不振・胃部・腹部膨満感、消化促進・消化不良などに効能をもつ“胃腸薬”は、機能性胃腸症のよい適応となる。本稿では、胃腸薬の適正使用のために、1)機能性胃腸症に伴う症状の聞き取りからの適剤探し、2)胃腸薬の服薬後のフォローアップの留意点を学習ポイントとしている。
検討事例:機能性胃腸症(初回訪問時)
36歳男性
:昨年4月の課長昇進で仕事も順調に推移していたが、営業目標の未達成もあってか、半年くらい前から心窩部に間歇的な痛みを覚えるようになり、排便のあとも痛みが残る。特に、この3ヶ月間は宴席の後などに心窩部痛が気になるので、ガスター10散を1回1包、1日2回の用法・用量で3日間のんだが、症状がおさまらない。2. 1. 薬剤師による機能性胃腸症の聞き取り事例
(薬剤師):ガスター10をのまれたとのことですが、そのときのことを少し聞かせてください。相談者 :はい。期末会議のあとの宴席でビールを2本ほど飲みました。次の日、朝食もあまり摂れず、すぐに腹部膨満感を感じました。そのあと、心窩部に灼熱感を伴った痛みを感じましたので、会社のそばの薬局でガスター10を買ってのみました。
(薬剤師):ガスター10は3日間のまれたとのことですが、“心窩部痛”が続いているのですね!
相談者 :はい、そうです。
(注1)薬剤師は胃酸の過分泌が原因で起きる消化器症状ではなく、ストレス・不規則な食生活による機能性胃腸症である可能性を考えている。しかし、この段階では、すぐにでも受診が必要な腹痛(*急性腹症)ではないことを確認する必要があると考え、慎重な聞き取りを進めている。
(薬剤師):痛みは徐々に起きるという感じですか? また、食事摂取との関係はありそうですか?
急性腹症:代表的な疾病には、急性虫垂炎、急性胆嚢炎、憩室炎(けいしつえん)、胃十二指腸潰瘍の穿孔(せんこう)があるが、現在、確定診断に至らないものを含めて、急性腹症と呼んでいる。したがって、急性腹症とは腹痛を主徴とし、早急に治療方針を立てる必要がある腹部疾患と考えられるようになっている。
相談者 :はい、痛みは徐々に起き、ときどき強くなります。食事摂取との関係は、よく分かりません。食後に痛むときと、逆に痛みが軽くなるときがあります。
(薬剤師):吐き気、下痢、発熱はありますか?
相談者 :いいえ、ありません。
(注2)薬剤師は、腹痛が徐々に起き間歇的であること、悪心・嘔吐はなく発熱などもないことから、胃腸薬が適応とならない十二指腸潰瘍、食道裂肛ヘルニアなどの器質的疾患、感染性腸炎などを排除できること、また、整腸薬・胃腸鎮痛鎮痙薬などが適応となる過敏性腸症候群・内臓痛(胃痛・腹痛)などではないことを確認している。
(薬剤師):最後にもうひとつ、・・・。食事のあとに胸やけ、喉の違和感などはありますか?相談者 :いいえ、ありません。
(注3)薬剤師は、相談者が機能性胃腸症の心窩部痛症候群で、ときに食後愁訴症候群の症状も訴える病態と判断し、急性胃炎症状、慢性胃炎の急性増悪期に高い効果が得られるセルベール、胃粘膜局所麻酔薬オキセサゼイン配合のサクロンQの2つを選択し、相談者の症状の経過等から最終的にセルベールを推奨している(表2-1)。
2. 2. 適応探しから適剤探しまで
2. 2. 1. まず、腹痛の性質、服薬中OTC薬の選択時の状況を把握しよう。
薬剤師はガスター10の服薬時の状況の確認から入り、心窩部痛が緊急受診を必要とする急性腹症、器質的疾患、感染性腸炎などではないこと、また、整腸薬・胃腸鎮痛鎮痙薬が適応となる過敏性腸症候群・内臓痛(胃痛・腹痛)などではないことを確認している。
2. 2. 2. 心窩部痛を訴える機能性胃腸症と食道逆流症の誘因・主症状について熟知しよう。
この両者には共通する症状として心窩部痛がある。また、この両者の病態の誘因と主症状の同異点は、両者の鑑別点になることを知っておきたい(表2-2)。
2. 2. 3. ローマIII分類による機能性胃腸症の診断基準について熟知しよう。
Rome III・2006による「機能性胃・十二指腸疾患分類」では、機能性胃腸症を症状が食事で誘発される食後愁訴症候群(PDS)と食事とは関係なく生じる心窩部痛症候群(EPS)に分けている。相談者への聞き取りに当たっては、食後愁訴症候群には一部に心窩部痛症候群が並存すること、両者の症状変化に心因的要因が深く係わることに注意を払う必要がある(表2-3)。
検討事例:機能性胃腸症(2度目の訪問時)
36歳男性 :推奨のセルベールを飲んでから、1週間のちには心窩部痛が楽になり、胃もたれも感じなくなった。しかし、薬剤師が強調していた規則正しい生活リズム、食習慣を継続することが難しく、飲み会があるようなときに、予防的な胃腸薬の使い方はないものかと考えている。
2. 3. 胃腸薬の服薬後のフォローアップ事例
相談者 :先生、みぞおちの痛みは、だいぶ楽になりました。今日は、ご相談があってきました。(薬剤師):良い相談ですか?
相談者 :その後、規則正しい生活リズム、食習慣を継続していますが、飲む機会が多く、症状がぶり返さない予防薬のようなものを知りたいのですが?
(薬剤師):お薬に頼らないとお約束くださるなら、お教えしましょう。
(注1)薬剤師は相談者が健康に自信をもち、心因的要因の関与も薄らいだことを歓迎し、(粘膜保護薬+制酸薬)の配合薬を4製品(イノセア胃腸内服液・パンシロンフラボノNOW・サクロンチュアブル・ストマクールA細粒)を選び、なかば頓用的(1〜2回)の使用を勧めることにした。
2. 4. 胃腸薬の服薬後のフォローアップの留意点
本稿で採り上げた機能性胃腸症では、症状の悪化(再発・再燃)に心因的要因、食習慣、ストレスが大きく係わる。薬剤師は、服薬指導の一環として、一般療法・食事療法についての指導箋を用意し、機能性胃腸症の悪化要因を避けるよう指導することが必要である(図2-1)。
〔参考資料〕
1) ローマIII分類による機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia :FD)の定義
2) OTC薬とセルフメディケーション−症状からの適剤探し−p.88-104. 金原出版, 2009
2) OTC薬とセルフメディケーション−症状からの適剤探し−p.88-104. 金原出版, 2009
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