2009年09月
学習のポイント
便通異常(下痢・便秘)は消化器系では腹痛の次に多い訴えである。整腸薬・止瀉薬と瀉下薬は機能性の便通異常に使われるが、腹痛・腹部膨満感と便通異常を3徴候とする*過敏性腸症候群
(IBS;irritabile bowel syndrome)が、その中心的な症候群となることに注目が集まっている1)。本章ではIBS疑診例の事例を取り上げ、1)IBSの病型・症状、2)整腸薬の適応探しから適剤探しまでの基礎と臨床を学習ポイントとしている。
検討事例:便秘IBS(初回訪問時)
27歳女性
:相談者は、もともと潔癖症で、3ヶ月前に、勤務先の産業医に便秘型IBSと診断され、お腹が張り、ガスが溜まりやすいことを大変気にするようになった。4. 1. 薬剤師によるIBSの聞き取り事例
(薬剤師):お腹が張ってガスがたまりやすいとのことですが。ほかに、気になる点はありますか?相談者 :便秘勝ちで、お腹が張るので心配です。便秘が続くとき、緩下剤をのんでいます。
(注1)「緩下剤」はプランタゴ・オバタ種子とセンナ実の配合剤の“サトラックス”で、3ヶ月前から、ときどきのんでいることが分かった。
(薬剤師):気になる症状は、どのくらいの頻度で起きますか?
相談者 :よく分かりませんが、週に2〜3回は起きていると思います。朝、お通じがあっても、会社に行く途中にお腹がゴロゴロして、便意を催すことがあります。
(薬剤師):お通じのあとは、症状が楽になりますか?
相談者 :はい。硬い便が出た後に、柔らかい便が出ることが多いような気がします。
(注2)薬剤師は、「相談者のは軽度ではあるが、根治していない」と感じている。
(薬剤師):なるほど。便秘型IBSは女性に多く、長い経過をたどることがあります。食習慣、良い生活習慣、ストレスをためない工夫が第一です。サトラックスは必要なときに利用され、今日は、お腹のガスを抑える成分と乳酸菌成分を配合した、ラッパ整腸薬BFをお勧めしたいと思います1)。
4. 2. 適応探しから適剤探しまで
4. 2. 1. まず、IBSの病型ごとの症状を確認しよう。
このケースは産業医が便秘型IBSと診断しているので、薬剤師はIBSの診断基準(Rome�)にしたがって、症状の聞き取りを進める一方、現在、相談者が辛いと感じる腹部膨満感があるとき、自らの判断でサトラックス瀉下薬を服薬していることを確認している(表4-1・表4-2)。
4. 2. 2. まず、IBSの病型ごとの特徴を理解しよう。
IBSは、もっとも有意な症状に注目し、下痢型、便秘型、不安定型の3型に分類する(表4-3)。
4. 2. 3. 腸内フローラと腸管運動の関係、その意味について考えよう。
腸内フローラに乱れがあると消化管に炎症が生じ、その炎症が消化管の筋層にまで達すると消化管運動に制限がかかる。一方、腸管運動は腸内フローラ維持の最重要因子である。下痢型IBS、便秘型IBS、下痢と便秘をくり返す不安定型IBSに整腸薬を用いるのは、そのためである。腸内フローラは特定菌種が腸管の適切部位に増殖・定着していることが重要で、その腸内フローラのプロフィールは、消化管運動の健常化を規定する重要因子と考えられている。図4-3(左)は、19歳の慢性便秘症の女性が腐敗菌のClostridium の著しい増大と善玉菌であるBifidobacterium などの著しい減少を特徴とする、腸年齢の老齢化が進行していることを示している(図4-3慢性便秘が与える腸年齢への影響)。

検討事例:便秘IBS(2度目の訪問時)
27歳女性 :薬剤師の勧めにより、「ラッパ整腸薬BF」を飲み始めてから3週間が経過し、お腹の張る感じがかなり楽になっている。また、サトラックスの服薬も月に1〜2回に減っている。4. 3. 薬剤師の整腸薬服薬後のフォローアップ事例
(薬剤師):その後、お腹が張ってガスがたまりやすい感じは如何ですか?相談者 :ラッパ整腸薬BFのお陰でしょうか、先週ぐらいからだいぶ楽になりました。
(薬剤師):サトラックスの方は、のむ回数が減りましたか?
相談者 :症状が好転しましたので、サトラックスをのむ回数は半分ほどになりました。
(注)薬剤師は、この段階で、一般療法、生活指導に力点を置くことを考え始めている。
4. 4. 回復期のフォローアップの留意点
4. 4. 1. 緩下剤に依存しない生活習慣の確立を指導
IBSの治療の基本は睡眠、食事、排便などの規則正しい習慣の確立である。規則正しい睡眠習慣は、IBSに見られることのある“うつ気分”を改善し、便通異常のリスク要因を減らすことにもなる。便秘型IBSの場合では、暴飲暴食を避け、可溶性食物繊維あるいは食物繊維を多く含むゴボウ、セロリ、ニンジンなどを適度に摂り、1日の摂取目標を20g以上とするようにする。
薬物療法については、医療用医薬品を基礎としたIBSの第一段階治療ガイドラインがOTC薬の現場でも有用である。まず、食事指導・生活習慣改善を目標とし、次いで、下痢型IBSにラモセトロン塩酸塩(*セロトニン5-HT3受容体拮抗薬;使用量は1日1回5〜10㎍)、便秘型IBSに高分子重合体(ポリカルボフィルカリシウムはOTC薬配合成分のプランタゴ・オバタで代替できる)、不安定型IBSに消化管運動調節薬(OTC薬配合成分にはトリメブチンマレイン酸塩がある)、IBSの便通異常に乳酸菌製剤、腹痛に抗コリン作用薬、便秘症状に瀉下薬(下剤)の使用が上げられている(図4-4)。

4. 4. 2. 症状の改善のちの乳酸菌製剤の継続使用の意味を理解してもらう。
本検討事例については、症状改善後の生活指導とともに、乳酸菌製剤の服薬あるいはヨーグルト等の摂取を勧めたい(4.2.3.参照)。近年、プロバイオティクス(腸内フローラを改善することで宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物)を継続的に補うことで、血中コレステロール低下作用、血圧低下作用、抗腫瘍作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、ウイルス性下痢症からの回復作用などが期待されている。ただし、体外からのプロバイオティクスは、摂取停止から7〜10日で腸内から姿を消すという研究報告がある。プロバイオティクスは、まさに食習慣の一部に組み込まれて初めて意味をもつということなのかも知れない。
〔参考資料〕
1) 福士 審他:心身症 診断・治療ガイドライン2006.東京,協和企画,12,2006
2) OTC薬とセルフメディケーション−症状からの適剤探し−p.105-124. 金原出版,2009
3) 過敏性腸症候群のRome�基準2006
2) OTC薬とセルフメディケーション−症状からの適剤探し−p.105-124. 金原出版,2009
3) 過敏性腸症候群のRome�基準2006
セロトニン5-HT3受容体拮抗薬:イリボー錠2.5μg/5μg(ラモセトロン塩酸塩)が男性における下痢型IBSに効能・効果を取得し、08年10月に発売されている。
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